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家族という仕事  作者: 阿井 亜斗
1章

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2/10

2.

 晶との暮らしは、聞いていたよりも穏やかなものだった。

 俺に慣れるまでは暴れたり、自傷行為をするかと思っていたがそのような気配もなく落ち着いていた。


 週一に来るハウスクリーニングや食料品や日用品などの宅配業者たちにも驚かれた。


 この人たちも、佐藤にやとわれた人で晶の症状を知っている。

 内情を知られないために、固定で雇っているのだろう。


 聞いた話によると、『家族』がいないときは暴れたり自傷行為で大変らしい。

 そのため、家の中には刃物類が一切なく窓ガラスも割れないようにしているらしい。

 ハサミや剃刀もない。


 いざというときのため、車の中には詰めてきているが。


「いやー、『家族』がいないとき大変そうだもの。拘束するしかないから、佐藤が泊まり込みしてるんだよね。その時は、うさん臭い顔が微塵もなくて毎日やつれてる。」

「そうなのか。」


 宅配をしてくる男と世間話をする仲になり、家の外で話している。

 晶はまだ寝ているはずだ。


 時刻は朝の8時。

 晶が寝ている時間帯である、朝一に来るように言われているらしい。


 俺も午後から大学のため時間に余裕があり、週1来る宅配業者とも話せるのだ。


 佐藤は、こんなに晶に尽くしているのに『家族』になれないのはなぜだ。


 うさん臭さを除けば、『家族』にふさわしいと思うのだが。


「俺の前任者ってどんな奴か知っている?聞いたところ行方不明になったとか。」

「ああ、会ったことあるけど、なんか暗いやつだったよ。荷物うけとったら、すぐ家の中にひっこんでた。」

「そうか。」


 そんな話をしていたところ、


「兄さん、どこ~?」


 声が聞こえた。

 晶が起きたのだ。


「じゃあ、俺は帰るな。」

「ああ、いつもありがとな。じゃあな。」


 宅配業者の男は車へ去っていき、俺は家の中に戻った。


「俺はここだ。晶。」

「おはよう。どこ行ってたんだ?」

「宅配業者が来ていたから、荷物を取りにいっていたんだ。」

「ふーん。」


 荷物を持ちながらキッチンに行く。

 晶もそれについてきた。


「ごはん何?」

「あ~、鮭があったから今日は和食だな。」

「いいね~。おなか減ったよ。」


 晶は顔以外はいたって平凡な会話だ。


 どんな性格のやつが住んでいるのかと思ったが、どこにでもいる普通の青年だ。

 もし、病んでいなければ大学に進学したり就職したりしていたんだろう。


 人生ってままならないよな・・・。


 そんな自分もその一人だ。


「顔洗って着替えてこい。飯つくるから。」

「わかった~。」


 洗面台に消えた晶。


 この家は、1階にはリビング、キッチン、バス、トイレとあり寝室が二部屋ほど、2階には、寝室が3部屋あり、トイレとそれに併せた洗面所があった。

 Wi-Fiはあるが、それは晶が使うためではなく、俺や佐藤といった晶以外が使うためのものとなっていた。


 晶はスマホをもっていない。

 今時めずらしくなってきた固定電話しか連絡がつかない。

 娯楽といえば、テレビか本、DVDとなっていた。

 

 俺が家にいるときは、一緒にテレビやDVDをみたり、本を読んで過ごしていた。

 宅配便の中には、DVDや本が入っているのだ。


 課題のためにWi-Fiがなかったらヤバかったな・・・。

 ここは電波がつながりづらい時がある。

 スマホも電話はつながるので、連絡にはいざというときには困らない。


 そんなことをつらつらと思っていたら、晶が戻ってきた。


「ごはんできた?」

「ああ。」


 包丁がないため、食材などはすべてカットされて届いていた。

 あとは焼いたり、煮たりするだけで食卓には和食ができていた。


「いただきます。」


 お互いにそういって、食事を開始した。


「今日大学は?」

「午後からだ。昼ご飯を用意しておくから、冷蔵庫に入れておく。昼になったら食べるように。洗濯などをしたらでかける。」

「わかった。」


 晶は思ったよりも、おしゃべりだった。

 その中で、晶はぽつぽつと大学生活や俺の友だちといった世間のことを聞いてくる。


 外に興味があるようだった。


 3か条の内の一つを思い出した。

「外に出よう」と言ってはいけない。


 これを言ったらどうなるのか。


「どうしたの?」

「・・・いや。」


 晶が穏やかな顔をしてみてきた。

 だが目がこちらの胸の内を覗き、釘をさしているように見えた。



「外に出よう。」



 これを言った瞬間どうなるのか?

 晶の空洞のような目を見ながら、それを考えた。




「満月じゃん。バイトでみないから久しぶりな気がする。」

 大学での講義が終わった時に、声をかけられた。

(かおり)。お前この講義出てたのか。」

「単位がヤバいのでちゃんと出席しようと思って。そういやバイトで見なくなったけど、辞めたの?」


 香は派手ないでたちではないがキャバ嬢で働いており、黒服時代は同じ職場だった。

 ブランド品など興味がなく、生活費などのために働いているのでキャバ嬢も大学限定のバイトのようだった。


「クビになった。」

「えっ、なんで?ミスったの?」

「そんな心あたりはないが、なぜかクビになったんだよ。」

「今、新しいバイト見つかったの?」

「ああ。タイミングよく見つけてな。」


 仕事内容は香には話さなかった。

 契約書に記載されていたため、話せなかったのもあるが。


「仕事すぐ見つかってよかったね~。満月が姿をみせないから、嬢たちが寂しがっているけどね。」

「そうなのか。」

「クビになったのも、その辺りがありそう。満月、すごく嬢たちから人気だったから妬まれてクビになったのかもね。」


 そうかもしれない。

 こちらに落ち度がなくても、妬まれるときは妬まれるので。

 その時の気持ちや環境で、人間どんなに出来たやつでも負の感情は湧き上がるものだ。



「そういや、車で来てるのが噂になってたよ。ついにどっかのヒモになったのかって。」

「なんでだよ。バイト先から借りてるんだ。大学行くときも使っていいといわれたんだよ。」

「今時太っ腹だね~。どこで、バイトしてるの?」

「あそこだよ・・・。」


 仕事内容は言えなかったが、大体の場所は伝えた。


「うわ!田舎じゃん。車が必要なわけだ。」

「まあな。」

「でも、その辺り変な噂があるところじゃん。」

「噂?」


「まあ、よくある話だよ。誰も住んでいない家に幽霊がでるんだって。」

「へぇー。」


 話の続きを促した。


「その家、住んでいた家族が亡くなってから誰も住んでないんだって。山深い場所にあるし、雰囲気も夜になるともってこいだしで肝試しに行くことにしたやつらがいたみたい。」

「暇な奴らだな。」

「確かにね。で、家が見つかって、鍵もかかってないから探索することにしたんだよ。」



 今住んでいる家のことを思い出した。



「で、思ったよりもきれいで廃墟感が全くなかったらしい。肝試ししていたやつら『もしかしたら、ここだれか住んでいるのでは?』と思うほどきれいだったみたい。家の中を探索しているうちに見たんだって。」

「何を?」

「幽霊。」


 廃墟ではなさそうな家の中を探索している方が、幽霊よりもヤバくないか。


「ライトをあててみたけど、髪が顔にかかってよく見えなず、手には刃物っぽいものを持ってらしい。『だれ?』と声かけられたので、ビビッて一斉に車まで逃げ出して、帰ったらしい。」

「ふーん。」

「興味なさそうだね。」

「まぁ、その家に近づかなければいいだけだしな。」

「そうなんだけどさ。」


 香は話を続けた。


「実は後日談があるんだけど。」

「後日談?」

「実は数日後の昼間の明るいうちに、もう一度その家にいってみたんだって。そしたら、」



「家がなくなっていたらしいの。」



 大学からの帰路。

 ラジオを流し車を運転しながら、香の話を思い出していた。

 きれいな家、玄関に鍵がかかってない、刃物を持った幽霊がいた。

 後日、探してみたが家が見つからなかった。

 

 なぜか、胸の内にモヤモヤしたものが沸きあがっていた。

 

 考えているうちに家に着いた。

 時間は夜の7時になっていた。


 家につきドアを開けた。

「ただいまー。」

 晶の返事を待ったが返ってこない。


 もしや初めて、暴れたのか。


 そう考え、晶の部屋に向かいドアをノックした。


「晶帰ったぞ。」

 返事はない。


「すまない、ドアを開けるぞ。」


 晶の部屋はベッドと机しかなく、趣味が一切伺い知れない殺風景な部屋だった。

 年齢は19と聞いている。

 ミニマリストならともかく、まだ青年の晶の部屋と考えると異常だった。


 その部屋の中に晶はいた。


 ベッドに座り、窓から外をみていた。

 顔はこちらに向いてないため、どのような表情をしているのかわからない。


 これは、暴れるか自傷行為の前兆かそれとも暴れた後なのか。

 暴れた後なら、どこかしらけがをしているがそれはなかった。


「晶?」


 声をかけてみたが、反応はない。


「近づいていいか?」


 その声に反応し、こちらを晶は向いた。


 表情は見えなかった。


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「ーーーーっ!」


 こちらが悲鳴を上げそうになった。

 しかし、瞬きの間に晶の表情が見えるようになり、俺に声をかけた。


「兄さん。今帰ったの?」


「ーーーああ。」


 今のは見間違えかと思った。


「待たせて悪かったな。今から夕飯作るから。」

「大丈夫だよ。お腹も減ってないし待てるよ。」

「そうか。できたら呼ぶ。」


 晶に背を向け、部屋を出ながら扉を閉めた。


 その瞬間、汗を全身かいていており、走ってこの場所から逃げたくなった。

 だが、瞬間的に冷静に戻り、あれは見間違いだろうと考え直した。


 香の話と佐藤の顔が散らついた。



 次の日での大学構内。


「家が消えた話ですか?ああ、よく聞きますよ。その場所に昔からある怖い話ですし。」

「昔からあるのか?」


 とりあえず、佐藤に連絡をし香からの話を聞いてみることにした。


「私が聞いた話だと、その家から物を盗んで帰ってくると、億万長者になるといった話でしたが。」

「昔話みたいだな。」

「そうですね。肝試しの話も、その亜種だと思いますよ。共通点としては、家がありきれいに整えられいる、同じ場所に再度訪れると家がなくなっている、家の中に入ると人がいてこの世のものとは思えない美貌かもしくは恐ろしい姿のどちらかですね。」


 確かに、肝試しの話は共通点があった。


「物は盗まなかったな。」

「肝試しに入った人たちがその話を知らなかったのでは。なので、亜種話なのかなと。」


ふと、家で読んだ本を思い出した。


迷い家(まよいが)に似ていいるな」

「ああ、家に訪れると億万長者になる話ですっけ?色々バージョンはあるようですが。」


「で、晶さんと何かありましたか?」

 口調が変わった気がした。


「・・・どうしてそう思う?」

「前任者もそうだったので。」


 もしかしたら、借金での夜逃げではなく恐怖に耐えられず逃走したのかもしれない。


 といっても俺にはまだそこまで危機を感じていなかった。


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「・・・そうか。」


 お金と身の安全を天秤にかけ、悪魔と天使のささやきを耳にしながら。

 俺は資本主義をとることにした。

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