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家族という仕事  作者: 阿井 亜斗
2章

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5.

 その後、救急車を呼ぶことになり菊莉は浩平と満月に付き添われ病院に運ばれていった。

 自分はいない方がいいかと思ったが、浩平に請われて一緒に病院に付き添いに行くことになった。

 菊莉が検査してもらっている間、待合室で浩平と待つことにした。


「大学で井戸を発見されて様子が少しおかしいと思っていけど、家に来て皿を割ってから、段々菊莉の様子がおかしくなっていったんだよ。」

 浩平はポツポツと話し始めた。

「菊莉が家に遊びに来たとき、丁度親父のところに当主が訪ねてきてたんだよ。」

「当主?」

 浩平の父親が当主なのではないのかと思ったが、浩平はその言葉を勘違いしたまま説明してくれた。

「俺の家、地元では昔からの地主なんだけど、分家なんだよ。当主は本家に当たる人なんだ。」

 なるほど。

 当主といって混乱したが、浩平の父親は分家の当主なのか?

「本家の当主が親父に皿を持ってきたんだよ。その皿を丁度きていた菊莉も一緒に見てて。俺たちが少し席を外して戻った時に、菊莉が皿を割っていたんだ。」


 その時の様子を思い出したのか、浩平は顔色が悪かった。


「親父は一気に顔色が変わって菊莉に怒鳴った。俺は何が起こったのかわからない中、菊莉が言ったんだ。」


 一旦、浩平は間を置いた。


「これで、足りなくなった。」


 井戸の影響から出た言葉だったのだろうか。


「その言葉を皮切りに、菊莉は急に正気に戻ったように謝り始めた。皿の持ち主ではある当主は、菊莉のことを許して皿を持って帰っていった。だがそこで怒りが収まらなかったのは親父だった。本家の当主は分家にとっては殿上人みたいなものだ。この現代でおかしいとは思うかもしれないが、そんな感じなんだよ。」


 浩平は顔色が悪いままだった。


「親父に責められている時に、菊莉は顔色悪く謝っていた。帰る時になぜ皿を割ったんだと聞いても割ったことを覚えてなく、当主に会ったことも覚えてなかったんだ。菊莉は俺にも皿を割ったことを謝った。大事なものを割ってしまったのだから結婚がなくなってしまってもどうしようもないと言って。でも、俺は別れるつもりもなかったし、卒業したら結婚したいとも思っていることは変わらないことを伝えた。」


 菊莉はなぜ割ってしまったのだろうと、後悔しただろう。

 結婚に前向きだったし、大切な相手の実家で粗相をしたと責めたのだろう。

 だが、浩平の言葉に救われたと思う。


「その後、菊莉の様子も落ち着いて大学生活も落ち着いてたのになぜこんなことに。」


 井戸から訪ねてくる人がいるかも。


 晶の言葉を思い出した。


「満月にも悪いことをした。ごめんな。」

「いや、俺はたまたま通りかかっただけだし気にするな。」


 井戸にいた理由として、たまたまあそこに通りかかったと浩平には説明していた。


「でも。」

「それよりも、菊莉を気にしてやれ。お前はこの件で菊莉と別れるのか?」

「そんなことはない!」

「だろ。この貸しはめしを奢ってくれればいいから。」


 満月は浩平に笑顔を見せた。

 浩平と菊莉の付き合いは長い。

 浩平は人気者で明るく、情もあつい。

 菊莉を今後も支えていくことだろう。


「ああ。」


 その時、看護師から菊莉の意識が戻ったことを伝えてきた。



「菊莉さんここ最近のこと覚えてなかったんでしょ。」


 以前来たことがある昭和感がある喫茶店。

 佐藤と菊莉のことについて話していた。


 あの後、病院で菊莉と会った時にここ数ヶ月起こったことを何も覚えていなかった。

 浩平の実家に訪れたことさえ。

 そこで、浩平は再度菊莉にプロポーズをすることになった。


 菊莉から再度OKをもらい、浩平の実家に行ったところなぜ父親は前のことを忘れたように歓待し、迎えたという。


「でも、やり直せるようで良かったですね。」

「ああ。」

 コーヒーを飲みながら返す。

 そこでおもむろにさとうに尋ねた。


「信二はどうだ?」

「元気そうですよ。菊莉さんと浩平さんには顔を合わせられなさそうですが。」

「浩平の実家に訪れることを当主に伝えたのが信二だからか?」


 当主がタイミングよく訪れたのは信二が報告したからだ。

 当主は浩平の家のよりも上だ。

 その当主に声をかけられれば舞い上がり、動向を話してしまったのだろう。

 こんなことになるとは思わず。

 いや、ほのかな恋心を菊莉にあったため結婚話が潰れればいいだろうという昏い思いもあったのだろう。


「わかっていたのですか?」

「いや、何となく。」

「そうですか。」


 うそだ。

 信二から懺悔のようになぜか俺に伝えてきたのだ。

 そんなこと言われても、俺にはどうしようもない。

 共犯にしないでほしいから、素直に二人から身を引くか謝るかして近くにいるか破滅をするかどちらかにしてほしい。


「晶に土産話ができたかな。」

「そうですか。」


 コーヒーを一気に飲み干した。


「じゃあ、帰るな。」

「ええ、ではまた。」


 佐藤とは別れ、『家』に帰る前にコンビニで適当なものを買って帰った。


「めでたし、めでたしかな。」

 家に帰って夕食を食べ終わり、ソファで晶がお菓子を食べながら満月の話を聞いた時に出てきた言葉はそれだった。

「そうだな。」

 満月は晶の向かいのソファでそのように応えた。

 晶は満腹だったため、コーヒーを飲んでいた。

「助かったよ。犬を貸してくれて。」

「役に立って良かったよ〜。」

 嬉しそうに晶はいう。

「ところで、犬が咥えていた皿は何だったんだ?」

 満月は犬が咥えている皿を思い出した。

「あれはね。あの井戸に住み着いていた『菊』が割った皿だよ。」

「本物ではないよな?」

「どうだろうね。『父さん』から渡されたものだし。本物かもね。」

「『父さん』?」


 晶はどこか嫌そうな顔をしながら応えた。


「そう。兄さんがいないときに尋ねてきてさ。皿を持ってきたんだよ。割れたあとがあったけど、 金継ぎをした後があったからもしかしたら本物かもしれないね。」


『父さん』とは当主のことなのか?

 何のためのそんなことをしたのかわからない。


 そこで満月は、菊莉が皿を割った話を思い出した。

 もしかしたら、すでに割れていた皿だったのだろうか?

 浩平達が実際に菊莉が皿を割った姿をみてないし、本人も記憶にないため真実は闇の中だ。


「と、言ってもアレはそのうち、戻ってくるよ。」

「戻ってくる?」

「アレはもう、幽霊とか地縛霊とかではなくもうメモリーみたいなものだから。メモリー削除しても、バックアップが残っているからバグみたいなもので戻ってくるんだ。だから、臭いものに蓋で埋められていたんだろうけどね。」

「じゃあ、もう一度埋めなければいけないのか?」

「だろうね。でないと、またこういったこと起こるよ。」

「元は削除できないのか?」


 それなら元を叩けばいいだろうと思っていったところ。


「その気があるならね。飽きるまで残しておくんじゃない。」


 どういうことだ?


 満月は晶に問いかけようと思ったが、晶の笑顔で黙るしかなかった。

 それは、それは綺麗な笑みだった。

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