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家族という仕事  作者: 阿井 亜斗
1章

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1/10

1.

「ねえ、君だれ?」


 青年の瞳孔は開いていた。

 いつもはおだやかな雰囲気を醸し出していたが、いまは微塵もなくその中性的な端正な顔立ちには何の表情も浮かんでいなかった。


 青年が刃物を持って迫ってくる。


「ここは僕たち家族の家だよ。」




 半年前。


 俺はお金に困っていた。

 借金はないが、生活費が困窮していたのだ。

 大学のため進学し、一人暮らしをしているのだが物価高での家賃高騰などでいきなり出費がかさみお金に困ったのだ。


 一番いいのは黒服の仕事をすることだったが、なぜかクビになった。


 落ち度はないはずだ。


 他の場所でやろうと思ったが、話は広まっておりどこにも仕事ができなくなっていた。



 どうしようか繁華街で思い悩みながら歩いているところに声をかけられて。



「仕事をお探しですが?」



 どう見ても、うさん臭さしかない男だった。

 恰好は背広を着ており、どこにでもいる風体だった。


 だが、単に歩いている大学生に仕事を急に紹介したところにはうさん臭さしかなかった。



「ある青年の家族になってほしいのです。」


 男ー佐藤と名乗ったーとともにバーに移動したあと紹介された仕事は、ある青年と一緒に家族兼家政婦として暮らしてほしいということだった。


「どういうことだ?」

「彼は事故で家族を亡くしてしまい、それ以来精神を病んでしまいまして。今でも、家族が生きていると思っているのですよ。ただ現実に家族の姿が家にいないので、ただでさえ不安定な精神が余計にダメになってしまって。暴れたり、自傷行為をするときがあるんです。家族がいると落ち着くので、その役回りを満月(みつき)さんにしてほしいのです。」


佐藤は俺ー満月(みつき)ーにそのように仕事内容を説明した。


「そんなに安定しないのなら、病院にいれるしかないんじゃないか。」


 現実的な問題としては、そんなに精神が安定しないのなら病院に入れるしかないだろう。


そこで、うさん臭そうな困った笑顔で佐藤は言った。

「彼、家から出られないんです。」





 東京の郊外にあるその家は、大きく、不便な場所にあった。

 車がないと買い物に行けず歩くと2時間ほどかかる場所のため、大学にも通いづらいということで車を貸してもらうことになった。


 食料品や日用品は宅配で、家の掃除は一人だと大変とのことで週一でハウスクリーニングが来てくれるとのことだった。

 それ以外の家事はすべて俺が担当することになった。


 うさん臭い仕事だったが、給料面で破格だったため背に腹は代えられず了承することにし、一緒に住むということで、家賃や光熱費などは無料だったため住んでいたアパートを引き払った。


 大学からは遠くなったが、金銭面に悩まされることがなくなったのがよかった。



 あの後、佐藤からバーにて青年ー(あきら)ーの説明を受けた。

「家から出られないてのはどう意味だ?」

「そのままの意味ですよ。」

「心理的なものなのか?」

「恐らく、そうだと思います。」


 恐らくとはどういことだ?

 佐藤の顔を見たが、これ以上話す気はないようだった。


「彼の前、もしくは家でやってはいけないことがあるので気を付けてください。」


 メモに箇条書きに書いてある3か条をみた。


 ①彼の前で「家族ではない」と言ってはいけない。

 ②家族のようにふるまう。

 ③「外に出よう」と言ってはいけない。


「③だけ毛色が違うな。家から出られないと関係があるのか。」

「まあそうですね。言ってもいいですが、そうなった場合あきらめてください。」



 何を?



 怪訝な顔で佐藤を見たところ、その笑顔からは何も読み取れなかった。

 少しだけゾッとした。

 取り合えず、絶対に守ろう。


「前任者からの引継ぎはないのか?」

「行方不明になってしまったので、無理ですね。」



 行方不明?



「なぜ?」

「出かけると言って車で外出後に、連絡がとれないんですよ。借金を背負っていたので、夜逃げしたのだと思われますが。」

「そうか。」


 それなら俺には関係ないな。



「ところで俺は、家族のどの立場になればいいんだ?」

「兄か弟になっていただければいいですよ。あなたは彼より年上なので、兄でいきましょう。」

「兄弟がいたのか?」

「いえ、いません。」



 どういうことだ。



「確かに家族のふりをしてほしいといいましたが、別に彼のもとからいる家族に成り代わらなくていいです。()()()()()()()()()()()()()()()。」

「それならこの役回り俺でなくても誰でもいいのでは?」

「そういう訳にはいかなのです。彼の好みにあっている家族でなければいけないようでして。残念ながら、私は嫌われているので叔父さん枠にはなれなかったようです。」

「そうか・・・。」


 それなら俺もダメなのではと思ったが「犬に似ているから大丈夫」とのお墨付きをもらったので、とりあえずそのままにした。


犬ってなんだ。


「不意に暴れるときがあるかもしないのですが、『家族』ができれば落ち着くので根気強く付き合ってください。」


 そんないくつかの説明を受けた後に、佐藤とは連絡先を交換し別れた。


 そして今家の前にいる。

 家は一般的な一軒家に見える。


 館ほど大きくはないが、かといって小さくもない。 都心で見ると大きな家だ。、


 家の玄関の前に立った。

 こんな山奥にあるので、鍵はもとからかかっておらず開いているとのことだった。


 恐る恐る玄関のドアを開けたところに、青年がいた。


 年のころは20代手前で俺よりも少し年下だろう。

 穏やかそうな青年で、驚いたのはその顔立ちだった。


 びっくりするぐらい端正な顔立ちをしていた。

 中性的な顔立ちをしており、目鼻口の位置など自分と同じ位置についているはずだが、この青年はちがく見えた。


 青年は無表情だった。

 突然の来訪に訝しげに見るわけでもなく、ただこちらを眺めているだけだった。

 端正な顔立ちも相まって、この世のものとは思えなかった。



「・・・ただいま、晶。なんだそんなところにいて。兄貴が帰ってきたんだぞ?」



 佐藤から聞いた話では、普段は何も表情を浮かべず家を歩き回っているとのことだった。

 家族になるには、まずこちらから話かけないといけないとのこと。

 昨日に前段階の仕込みで、佐藤が電話で兄が帰ってくると話したらしい。

 電話が鳴れば、晶は一応電話に出て返事はないが対応してくれるとのことだったので、あとは俺が晶に気に入られるかどうかだ。


「・・・兄さんお帰り。」


 俺の心配をよそに、晶はうれしそうな声で出迎えた。



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