10.魔族誕生の秘話。
母さんの昔話はまだ続いた。
(囚人の画期的な処分方法が確立されたとして、世界では一斉に無期懲役囚にコールドスリープが施されるようになったの。
最初のうちは人間と同じ哺乳類の脳から注射液を作っていたわ。
けど、そのうち生産が追いつかなくなって、終いにはボウフラから作るようになった。
管理もずさんになって、処置後は氷の大地に運ばれ、無秩序に投棄されるようになったわ。
そんなある日、私が息子について心の整理がついた頃、とあるニュースが入ってくるの。
コウが犯人とされていた凶悪事件はね、冤罪だったって。
真犯人はトップという男。)
トップ...!あいつが...!!
少しずつ思い出してきたぜ。あの凶悪事件の事も。
俺はアイツに二度も濡れ衣を着せられたのか...!
(私はその男の処置も担当したわ。
でもその男はコールドスリープという事実上の死を迎えるその時まで、怖がりも怯えもせず、ただ世界を嘲笑していたわ。
“無実の人間”を殺したのはお前らも同じだろってね。
それで私は、研究所に保管されていたコウの身体を持ち出して、氷の大地にある個人の研究所で共に過ごす事にしたの。
何を話しかけても氷の中で眠るコウ。
私はコウの無実を信じる事ができなくて最低な事をしてしまったと、何日も何ヶ月も嘆いたわ。
私は廃人になった。
安全に復活できるまでの千年間、息子と一緒に永いお昼寝をしようと決意したわ。
私は自らに注射をし、コールドスリープの機械に入った。
千年間もタイマーが無事である確証はなかったけど、時がきたら自動で解凍されるように設定した。
おやすみ。コウ。愛してる。
私の身体は激痛と共に瞬時に冷凍された。
・・・・・・・・・・・・・・・
千年経って私の身体は解凍された。
ガラスに反射して見えた私の皮膚は青くなっていた。
コウも起こさなきゃと思って見ると、姿はなかった。
私の研究所があった氷の大地は、すっかり岩の大地になっていたの。
永い年月をかけて進んだ温暖化。
私が目覚める五十年ほど前から続々と自然解凍された復活者が現れたらしいわ。
私はコウの行方が知りたかった。
岩の大地に残された痕跡から考えると、復活者はジャポルネ島に向かった事を突き止めたわ。
けれど、全員が向かったわけではない事も分かった。
知性の失われた復活者は目的地が分からず辺りを徘徊していた。
おそらく彼らはボウフラの注射をされた者たちだと推測しているわ。
私もジャポルネへ向かったわ。
そこは、私やコウの生まれた土地でもあった。
到着すると、ジャポルネに向かった知性のある者は、自らを魔族と名乗っていた事が分かったの。
そして、そこには魔王が台頭していたわ。
私は彼の顔を見て二体目の被験者の男だとすぐに分かったわ。
私はジャポルネで必死にコウを探したわ。
だけども見つからなかった。
ゴブリンと呼ばれる知性の失われた者になってしまったのかとさえ思ったわ。
だけど私は構わない。どうしても会いたかったわ。
ゴブリンと呼ばれたって私の可愛い息子だもの。
しばらくして、魔王に会う機会が得られたの。
私は魔王軍ゴブリン討伐兵団という組織がある事を知っていたから、殺さないで保護するよう頼んだわ。
そしたらもう既に千体は殺してるって言われた。
私は絶望して、魔王に平手打ちしたわ。
そしたら、こう言われたの。
「お前も追放だ!」
私の他にも追放者がいる事を知ったわ。
私は人間界に追放された。
しかしこっちでは私の能力を活用できる事を知っていたの。
人間に想いを伝え、洗脳する能力よ。)
...やはり、俺と同じ能力が、母さんにも...?
いや、少し違うな。俺は洗脳まではできない。
(私はすぐに人間界で最も権力のある者のもとへ向かったわ。
洗脳は使い方を間違えれば危険な能力である事は承知の上。
そして、ゴブリン討伐の禁止と王国への引き渡しを命じさせた。
もう一人の魔族の追放者についても情報を集めさせた。
全ては私の愛する息子に会って謝るために...。)
そこまで話すと、母さんは能力を全て解除した。
もちろん、洗脳も。
その瞬間、母さんは全身の力が抜けて倒れた。
どうやら相当体力を消費したらしい。
そして、今度は能力ではなく、言葉で話す。
「...、国王さま、...今まで洗脳しておりました事、...心よりお詫び申し上げます。
...お陰で千年越しに息子の元気な姿を見る事が出来ました。...はぁ、...はぁ。
...私の人生にもう悔いはありません。
なんなりと...処分頂いて構いません。」
洗脳を解除された国王は、夢から醒めたかのように辺りを見回す。
しかし、自分が洗脳されていた事について責めはしなかった。
そして、母さんの方を見て優しい口調で話しかける。
「そのままで聞いていてください、サヤカさん。
洗脳されていてもいなくても、貴女の話を聞いていたら私は協力したでしょう。」
母さんの名前は、サヤカと言うらしい。
国王が語り始める。
「実は私にもコウ君と同じ年頃の娘がいるんですよ。
ですが恥ずかしい話、まだ娘が赤ちゃんの頃、仕事ばかりで家事に手が回らなかった私は、妻に逃げられてしまいましてね...、」
それを聞いたミズナは、何故かハッとした様子だ。
「それから数年経って、娘が初等学術院に入る頃に私は妻と話をする機会を貰えたんです。
そこで、娘に会わせて欲しいと土下座で頼み込みましたが、妻には許してもらえませんでした。
しかし後日、絶対に声をかけないという条件でなら見守るくらいは許すと言ってくれたんです。」
俺は少し意外に思った。
人間界の国王にも痴態というか、それこそ人間らしい部分はあるんだな...。
「それから私は十数年間、陰で娘を見守ってきました。
言葉を交わしたい。ずっとその想いが溢れていました。
テレパシーが使えたらどんなにいいだろうとも思いました。
時が経って娘が学術院を卒業すると、誰に似たのか自分のしたい事があると言って聞かず、たった一人の家族を残して家出してしまったのです。」
...⁉︎
もしかして、国王ってミズナの...!
俺がそう気づいた時には既にミズナの目には涙が浮かんでいた。
「パパッッ!!...ぐすん......。
もしかして、アタシのパパなのっ?...ひっく......。」
「大きくなったな...。」
国王は独り言のようにそれだけ言った。
二十年近く経って初めて交わす娘との言葉。
気恥ずかしそうにも、嬉しそうにも聞こえた。
国王は続けて小さな声でおそらく妻へ向けて呟いた。
「...すまないミズハ。
絶対に声をかけない約束は守れなかったよ...。
立派に育ててくれて、ありがとう...。」
国王は暖かな涙の粒を一つ落とした。
母さんは決意の色を浮かべ、国王に告げる。
「国王さま。私に息子たちのゴブリン狩りの手伝いをさせてください。
そして、最終的には魔界へ向かい、私が生み出した悪魔たちの終末をこの目で見届けて参ります。」
「そうですか。お願いいたします。
この子たちにサヤカさんが加われば、きっと事態は良い方向へ導かれるでしょう。
野蛮な魔族やゴブリンに怯えなくても良い世界になる事を願っています。」
母さんは国王へ一礼をし、俺の隣に来た。
「母さんっ!俺...っ!」
何から話していいのか、そもそも何を話したらいいのか全然頭の整理が追いついていないが、とにかく話を聞いて欲しくて、それだけが声に出た。
母さんは黙って抱き締めてくれた。
「いいのよ。コウ。
お母さんはもう絶対に貴方を一人にしないから、気持ちの整理ができたら、たくさん聞かせてちょうだい?」
俺は感情が溢れ出た。
声こそ出すもんかと堪えたが、視界はぐちゃぐちゃだ。
直後、国王は事務的な声色で発言する。
ミズナの父から国王に戻ったようだった。
「ミズナ様御一行。
要件は以上ですので、ご退出願います。
...サヤカさん、娘は頼みましたよ...。」
そう言うと、近くの衛兵に指示を送って俺たちを退席させた。
ミズナは衛兵に腕を掴まれながらも、声を振り絞った。
「待って!パパ!
まだアタシ、お話ししたい事がいっぱいっ...、」
重い扉は無慈悲にも閉められた。
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