百合の間は蜜の味 ~その蜜を吸う俺は男~
※この作品は百合なのに男が登場します。
苦手な方は拝読をご遠慮ください。
「......はっ!.....女子......女子........女子女子女子だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
おっと、物語の初めにこうなってしまったのはしょうがないことだ。
だって、今まで男子校で暑苦しい男どもしか見てなかったからな。
だから是非とも最後まで見てってくれ。
◇◇◇◇◇
この物語の主人公である狸川奉持は有頂天であった。
なぜなら、彼の学校はなくなったからである。
いきなりなくなったといっても、廃校という意味ではない。
彼の学校、浜見崎男子高校は合併した。
..................合併
合併というぐらいなのだから相手校がいるわけだ。
それは果たしてどこか?
それは同じ市内の浜見崎女子高校。
そう、これが狸川を興奮させている快楽。
日常的にかかわることが減ってしまった、女子というイレギュラー。
そもそも、彼は高校受験で失敗して男子校に来てしまったため、
本当だったら共学の高校に行くはずだった。
........本当なら。
しかし、今はまさに人口減少時代。
誰もかれもが子供を産まないから、こんなうまい出来事が起きてしまう.......
◇◇◇◇◇
「すげぇ、すげぇ!.....俺の視界に女子がいるぜ!」
先ほどから女子を執拗に見ている狸川。
もう本当に、制服を着ていなきゃ通報されているレベル.....
そんな彼が、今立っている場所。
それこそ、合併されてできた浜見崎高校の校門前。
黒を基調とした門は、先ほどから厳格さを醸し出している。
「うわっ、すげっ!」
こいつがいなければの話だが.......
しかし、そこに神からの贈り物なのか、狸川の背中に衝撃が走る。
「いっ.......てぇ!」
叫ばないように声を抑えたが、最後の最後にあふれ出てしまう。
通りすがりの人たちの視線がチクチクと刺さるがそんなことは気にしない。
彼にとっては背中をぶったたいてきた犯人を特定するほうが先だ。
「....いってぇ誰だよ!」
そう後ろを振り返る狸川は、すぐに犯人を特定することができた。
「お前さぁ........喜ぶのはわかるよ.....でも自重しろよ。」
そこには幼馴染の多宮恭介が立っていた。
彼は学校指定の手提げバックを肩にかけながら話す。
「へぇ~!自重なんて、そんな難しい言葉を使っちゃうんだ~!!」
狸川はうざったるい絡み方で多宮のことを指さす。
「だって、明らかにお前が.......」
「はいはい、口を閉じろ三下!....悪いイメージが広がるだろっ!」
目は血走り、ガチトーンで話す狸川を見て、あきれだす多宮。
「..........はぁ~、そんなんだから今まで失敗したんじゃないの?」
「うるせぇ!.....英検三級を取った俺をなめるな!」
「それ、約2人に1人取ってるやつね。」
「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇぇぇぇ~!」
ここまで来たらもうやけくそになってきた狸川。
多宮を無視して歩き出してしまう。
周りの人たちが狸川を避けているので彼自身とても歩きやすそうだ。
「.......なんで、あぁなっちゃうのかな?」
多宮は頭を掻き、狸川との過去を振り返る。
〈最初あった感じはあんなんじゃなかったんだけど.......〉
思いに更けながら多宮は校門を通った。
◇◇◇◇◇
ここは2年A組の教室。
しかし、初日だというのにとても騒がしい。
一体何が.........
「おい、おいおい、見ろよあの子。.....ちょーかわいくね?」
「........奉持。.....そんなことはいいから俺の名札返して。」
「いやだね!返してほしければ女子をここに連れてこぉい!」
.........撤回、騒がしいのではなく目障りのほうだ。
「.......ってか、恭介も2のAかよ。」
「しかも前後だしね......」
奉持と恭介は、一年間を浜見崎男子校で過ごしていたので今年から二年生。
そして、二人とも名字が『た』から始まるので前後になってしまった。
「しっかしまぁ、きれいな学校だこと。」
「それはだって.....元々ここは浜女[浜見崎女子高の略称]の校舎でしょ。」
「へっ!再利用ってか?俺らの市も随分と金不足になったもんだな。」
校舎がつぶされたのは浜男[浜見崎男子校の略称]だけだった。
なぜなら、男子が日常的に使う校舎はいろいろなところがボロボロだからである。
対して浜女の校舎は新校舎と見間違えるほどきれいだった。
そもそも、女子には破壊的衝動を持つ人が少ないからだ。
「けど.......女子がいるって異様な光景だよね。」
「そうか?俺にとっちゃ目がミラーホール状態だぜ。」
奉持はさておき、周りの男子を見てもそれが読み取れる。
全員が全員そわそわしていて落ち着きがない。
普段陽キャな奴でさえも黙り込んでいる状況。
対して女子はそれをものともせず、冷たい顔で前を向いている。
数人は後ろを振り返り談笑をしているが、全員が落ち着いた印象がする。
「へっ!普段からタマが小せぇからこうなるんだ。」
「......そういうところはすごいと思うよ。」
「ふっ、だろう?」
そんな風に鼻を鳴らし、調子に乗っている狸川。
しかし、それも次の瞬間終わりを告げる。
「おしっ、お前らホームルームだ。」
教室の前の扉を乱暴に開いて現れたのは........
「はっ⁉.......何でここに居やがる.....近藤⁉」
「............聞きたいか、狸川?」
教卓には一年のころ狸川と多宮の担任だった近藤公哉がいた。
◇◇◇◇◇
かくかくしかじかで時間は過ぎていき、あの時間はやってきた。
「えぇ~、お前ら、多分今気まずいだろうから自己紹介しろ。」
クラス内から机やいすが床にこすれる音が鳴り響く。
当然だ、こんないきなりなんて初めてだ。
しかも、誰もがテンプレートを持っていない自己紹介。
これはもう爆死の予感しかしない。
.................
「どうしたお前ら?......そんなに沈黙が好きか?」
その言葉にも反応を示さない。
「おい、沈黙はイエスだぞ。」
その言葉にも反応を示さない。
「.........っちょ、お前ら集団のいじめか?」
その言葉にも反応を示さない。
「...........マッチを持って、待ちぼうけ。」
その言葉にも反応を示さ.......
「........っぷ。........」
あっ、だれか笑った。
この声の高さは女子だ。
おい、今いい感じだったのに......
だから、親父ギャグに耐性がない元女子高生徒は........
「よし。狸川、お前からやれ。」
「は、はぁ~⁉......なんでだよ⁉」
急なキラーパスに机から立ち上がって両手を広げる狸川。
明らかに理不尽だが、それには理由があった。
「.....俺の勘だ。.....お前心の中で笑ってたろ。」
「あぁ?......あんなギャグで笑うわけねぇだろクソ教師!」
しかし、時すでに遅し。
もう犠牲者は決定してしまった。
全員が背筋を立てた素晴らしい姿勢で狸川のほうを向く。
「な、なんだよ.....お前ら?」
女子が自分のことを見ているせいで少しドギマギしてしまったが、
見渡す途中に男子の顔が視界に入り正気を取り戻す。
「ふ、ふざけんじゃねぇよ!なんで俺が.......」
ふと、自分の肩に手が置かれた感覚する狸川。
振り返るとそこには多宮の姿が.......
「..........行ったらモテるぞ。」
狸川の頭に電流が走る。
「.......しょ~がねぇ~な~♪」
こうして狸川はスキップしながら教卓に向かう。
その姿はまるで好きな料理が出てくる夕飯を楽しみにしながら部屋に戻る子供のよう。
.........そう、あいつはちょろい。
こうして、狸川はスキップしながら教卓にたどり着くと、
ドンと両手を教卓の上に置き、自己紹介を始める。
「.......すぅー、.........よし。.......俺の名前は狸川奉持だっ!特技は長距離を除いた運動全般で、趣味は部活でやってたバスケだ。この学校でやりたいことは.......まぁ、彼女作ったことねぇから、まず女友達を作ることから始めてみようと思うぜ。そして、そして彼女を作ったら........」
「おっし、もうわかった。戻っていいぞ狸川。」
ここで近藤からのストップがかかってしまう。
狸川自身もっといいたいことがあったので、ここで無念のリタイアとなる。
「はぁ⁉ふざけんな!もっと言わせろ!」
「落ち着け奉持!」
さらにここで多宮にも止められてしまう。
口を押えられている状態なので、もごもごと言うことしかできない。
まるで子犬みたいに回収された狸川は、椅子に座らされる。
その後、テンプレートが狸川のせいでぐちゃぐちゃになり、
誰も自己紹介が成功しなかったのは、また別のお話。
◇◇◇◇◇
「.......あぁ、むしゃくしゃするわ。」
「.......なんで?」
学校の中庭で、狸川は多宮に愚痴を言い放っていた。
初日なため2コマ目で学校が終わったが、
そんなことを気にせず、狸川は不機嫌だった。
「.........近藤の奴、俺は操り人形じゃねぇぞぉぉ!!」
「えっ、そうだったの?」
「はっ?.........今までお前は俺を何だと思ってたんだ?」
「............実験用動物?」
「おっし、お前はまず人を見る目ってやつを親の腹から取り返してこい。」
いままで多宮が狸川に抱いていた思いが明らかになり、ドン引く狸川。
彼の顔は青く、青い。
もうブルーベリーみたいになっている。
「やっべ、もう吐き気してきたわ。」
「えっ、そんなに傷ついたの?......結構メンタル強いと思ってたけど.....」
「まじで萎えるわぁ~...........あっ、女子。」
「..........なんか......もう尊敬するわ。」
女子を見た瞬間にどんな病気も治る[自称]特殊体質な狸川は、
即復活後、田宮に詰め寄る。
「.......おい、お前.........モルモットはないだろ。」
「......いや、おそっ!」
そして通信速度遅めの体質もセットになっていた。
まるでお得そうに見えるセットだが、その中身はポンコツという駄作だった。
「はぁ、共学になっても女子と関われねぇとか.......」
「けど、視界に女子が入るだけでうれしいんでしょ?」
「.........俺を誰だと思ってる?.......紳士でダンディーな男だぞ。」
「どこがだよ、性獣の間違いだろ。」
前の男子校でも二人はこのように歩いていた。
そう、これが二人の日常。
毎日くだらないことを言い合い、笑い合い、楽しみ合い.........
過ぎていく日々を楽しんだ。
しかし、形あるものがいつか壊れるように、
形がないものもいつかは壊れてしまう。
そんなことを思わせることが起きる。
「....うわっ、まぶしっ!」
「ど、どうした?」
いきなり目をふさいだ狸川を、心配するように多宮が言う。
多宮自身まぶしいと思う出来事はなかったが、どうしたのだろうか?
「..........た、たみ、多宮........あ、あれを見てみろ。」
「えっ?」
目をつぶりながら前を指す狸川。
多宮が目で後を追っていく。
すると........
「.......あれのこと言ってる?」
「...........あぁ、俺の脳まで侵食してくるなんて......100年ぶりだ。」
「........新手ののエイリアン?ってか100年も生きてないだろ。」
狸川が指している先にいたもの........
......それは女子だった。しかも二人。
多宮も最初はまた女子かとあきれていたが、次第に言いたいことが分かってきた。
めっちゃキレイ、めっちゃ可愛いということだろう........
確かに今まで見てきた女子の中では圧倒的に群を抜けている。
「おぉ、ジーザス!........ついに俺にもラブとロマンスがやってきたか。」
「おーい、浮かれんなよ。」
「けど、お前自身もかわいいと思ってんだろ?」
「..........まぁ、それほどにかな。」
一人は黒髪ロングの淑女感あふれる女の子、
もう一人は黄色髪のポニーテールでいかにも陽キャって感じがした。
............ロリコンの多宮にはあまり興味をそそられない。
「うわ~、そうやってスカしちゃって.......
なに、かっこいいと思ってるんですか~?」
「いや、別に癖に刺されないだけだけど.......」
「だまれ、だまれ、黙れっ!......女の周りをワチャワチャできない男はカスっ!」
「うわ~、すごい偏見。」
放送禁止ラインで反復横跳びを繰り返す狸川は、もう一度前の2人を見る。
まるでキラキラと輝くお日様のような温かみ。
近づいたらどんだけ暖かいんだろう..........
「おい、バカ奉持。無意識に女子に近づく変態がいるか?」
「........ここに。」
「......今のうちに警察でも呼んどこうか?」
「..............おっと、俺の父親は法務大臣だぜ。」
「この学校に来てからめっちゃ強がるやん。」
こう話しつつも半歩、また半歩と近づいていく。
少しは抵抗してほしいものだが..........仕方がない狸川なのだから。
もうそう思うことにする。
「あぁ、名前ぐらいわからんかな?」
「じゃあ、お前が男子校のムーブで聞いてくればいいじゃん。」
「あ、そっか!」
「...........変なことすんなよ。」
「任せとけって、俺のことずっと見てきたからわかるだろ。」
「あぁ、問題児だってことは誰よりもわかってるよ。」
狸川は勢いよく、まるで風を切る子馬のように走りだす。
そして、あと5メートルぐらいの距離になったとき、事件は起こった。
「そこの、おふたりさ~.........
ちゅっ。
...........ん。...........はっ?」
はっ?へっ?はっ?
「@&$&¥★〇△▫■◆♀♂々〆※★だぁ~!!」
あっ、ぶっ壊れた.......
遠くから見た多宮がすべてを察したようにたたずんでいると、
全力ダッシュの狸川が自分のもとに返ってきた。
「えっ......見た?」
「うん、ばっちりと。」
なぜか目が遠くを見ている二人。
涙目の狸川が再び多宮に問う。
「えっ、..........き、っききき、キスしてたよな?」
「うん、キスしてたね~。」
「はっ?........女子同士だぞ?」
「うん、そうだね~、なんか怖いものでも見ちゃったかな?」
「急に母親気分になってんじゃねぇよ.........」
絶望と混乱はこの様子から生まれたのだろう。
狸川は多宮の足にしがみつき、行動不能となっている。
相当ショックだったのだろう。
「........キスってさ、男女間だけじゃないんだよ。」
「えっ..........そうなん?」
「まぁ、うん。」
「じゃあ、なんだよ!.........女子と女子の恋愛なのか?」
「あれ、知らない?.......奉持のことだから知ってると思ったんだけど.......」
「知らないって何が⁉」
「........百合。」
「へっ?」
多宮は少し恥ずかしくなりながらも、その言葉を狸川に告げる。
「..........女子同士の恋愛を......百合っていうんだ。」
「ゆ.......ゆり?」
「@&$&¥★〇△▫■◆♀♂々〆※★だぁ~!!」
「あぁ、ごめん、わけわかんないよね?」
またぶっ壊れた狸川を昔のたたいて治すやつで実践する多宮。
んごっ!という鈍い音を出し、再起動する狸川。
その眼にはまだ涙が残っていた。
「おいっ!まじで、何がラブとロマンスだよっ!ふざけんじゃねぇぇ!!」
「........これはシャットダウンしたほうがいい感じかな?」
「俺をパソコンに例えるなっ!」
多宮に怒った狸川は力なく座り込んでしまう。
そして、もじもじと地面に何かを書き始める。
「もう.........この世はおしまいだ、だから人口は増えないんだ。」
「........いや、個人の選択は自由にしてあげようよ。」
「................はぁ、........もうやる気がでない。」
「そこまで?」
ナメクジのように地面をはい回る友人を見て多宮は疑問に思う。
そう、いつもの調子はどうしたと.........
「........聞いてくるだけ聞いてきたら?」
「........そうだな。」
突発的に液体から固体になった狸川はふらふらと歩いていく。
その足取りは重く、トロく、だらしなかった。
そんな狸川を多宮は見送る。
ちょうど、あの二人が校門をくぐるときだろうか、狸川が話しかけた。
「そこの、お二人さん?」
「はい?」「えっ、私たち?」
「そうそう、そこの君たち。」
言うんだ。名前は何ですかって。
「あの~..........
言えっ!言うんだ狸川!
...............そこのスタバでお話してかない?」
「遠慮します。」「ごめん、うちら予定ある!」
「あっ、そう。」
◇◇◇◇◇
「もうだめだ.........おわったんご。」
「まぁ、予想通りっちゃ通りだな。」
帰ってきた狸川を多宮がなぐさめている。
見た様子は、もうお母さんと息子だ。
「名前すら聞けないなんて.........」
「初対面でスタバ行こうはダメだろ。」
「だって、あのテンションはそう言うだろう。」
普通の人より価値観が狂っている狸川は普通かもしれないが、
ほかの人からしたらずいぶんの自殺行為だ。
「そういえばさ........名前分かったんだよね。」
「!!!......なんで今なんだよっ⁉......おせぇよ!
お前の回線速度どうなってんだよ!」
「........お前を見てた通りすがりの人によると、黒髪が仙波麗華さんで、
黄色髪が風宮めぐさんだって。」
「おっふ、顔だけでなく名前もかわいいじゃねぇか。」
「..........変態だな。」
だんだん興奮してきた友人の横に立つと、こっちは恥ずかしくなってくる。
これが共感性羞恥ってやつなのだろうか?
..........知らんけど。
「あと、狸川。最後に一つ忠告。」
「おっ、なんだ?さらにカワイイ奴がいるのか?」
「..........キョロキョロしなくていいから............いいか?」
「はい?」
「無知なお前は知らないけど、百合っていうのは尊いものだとされてるんだ。」
「そ、そうか?......やけに詳しいな。」
首を傾げ、へのへのもへじ状態の狸川は、
多宮が言っているラノベで仕入れた知識がよく理解できない。
「.......つまりだな。お前があの二人に近づいたら
反対する奴がいるってことだよ。」
「だ、だにぃ~!!!.......人の恋路を邪魔するなんてひどいやつらだ......」
「お前だよ。」
真剣な面持ちになっている狸川を多宮が冷静にツッコむ。
が、彼の考えは変わらない。
「..........よし、ぶっ壊すか。」
「えっ?」
「はっ?ぶっ壊すって言ってんだよ。」
「.......な、何を?」
「百合をだよ。..........俺が中に入って、一夫多妻制の完成だろ。」
なんで、そういう方向に向かっちゃうの..........?
いろいろあったが、狸川は決心する。
こうして狸川の青春破壊ストーリーが始まった。
面白いと思ったら評価つけてね。




