28 ヒカル子
ヒカル子はPCを開いた。順調に売り上げはあがっている。
「順調か」
金木がPCをのぞきこむ。
「そうね」
「『金のなる木』の方は」
「そっちはぼちぼちね。最近、しくじる連中が多いのよ。今回も六名ミス」
金木はタバコの煙を吐き出し、椅子に座って足をイライラと組みなおした。
「女性のヒカル子が代表取締役についているゴールドツリー生命保険は多くの人から支持を受けているだろう。
そんなお前が同時に裏会社の『金のなる木』を運営し、本人不在でも多額の保険金をかけることができて、死亡保険金を受け取るために専用の殺し屋、通称キラーを雇っていることなんてことは、誰も知らないことだ。
おかげで資金繰りがうまくいかなくなると、金のなる木を発動して資金を得ているのだがな」
「キラーの腕が落ちているのかやる気がないのか、狙った人間を殺すことができず、生き残ってしまって保険金が受け取れなくなっていることが多いのよ」
「新たにキラーを募集するのも難しいしな。今いるキラーを消さなければいけない」
ヒカル子は失敗した六名の中に、藤ヒロシという名前を見た。
どこかで見たことがあるような気がした。
「ああ」
ヒカル子は思い出した。昔、結婚したことのある男だ。確か、子どもも生まれた。
「こんなのがいたら、私の過去をしゃべるかもしれないじゃない。きれいに消す方がいいのよ、失敗している場合じゃないのに」
ヒカル子は、ち、と舌打ちした。
「おかえり、オニオン!」
オニオンはメイサに飛びつき、尻尾を振ってメイサに甘えた。
「すごいね、オニオン。もう僕の母親を見つけたんだね。ダイヤにたのみに行こう」
カエデとメイサはダイヤのところに急いだ。
ダイヤの部屋をたずねると、ダイヤはにこにこ笑っている。まだ何も言っていないときから、ダイヤは「じゃあ行こう」と公園のような診察室に行った。
門のあるカーテンをめくり、カエデとメイサ、そしてオニオンを連れて門を通る。
長い廊下を歩きながらカエデがついにたずねた。
「ダイヤ、僕がダイヤをたずねること、知っていたのですか」
「もちろんよ」
ダイヤはにっこにこ。とても機嫌がいい。
「あの、僕の母親のところに行きたいんです」
「そうこなくちゃ!」
ダイヤは滝の後ろの門も開けた。
「行ってらっしゃい!グッドラック」
カエデ、メイサ、オニオンは、門を通り、穴に吸い込まれていった。
大きなビルの屋上に到着した。
「この下に、カエデのお母さまがいるってことね?」
カエデはビルの屋上のコンクリートに手をついた。すう、と床が消え、カエデ、メイサ、オニオンはビルの中を少し落ちた。
「あまり落ちなかったわねえ」
メイサは床の上にすっと立ち上がった。隣にいるカエデもすでに立っている。
「お母さまはどこに……」
メイサは言いかけ、カエデの表情を見てハッとした。
カエデは目を見開いて何かをジッと見つめている。視線の先には、女性と男性がいた。
広い部屋だ。高価な装飾が施された家具が並んでいる。その中でも大きな机に座って、黒いドレスを着た女性がPCを触っている。
その向かいの大きな椅子にスーツを着た男がゆったり座っている。
カエデは無表情でヒカル子に近づいていくと、PCをのぞきこんだ。セマシ以外の情報もたくさんあった。
「ヒカル子、どうだ」
「順調ね、金木。ただ、早く藤ヒロシを消してもらわないと安心できないわね」
「なんでもない、おっさんだろ?すぐに消えるだろ」
「なんでもない、おっさんに間違いないのにね。しぶとく今も生きているのよ」
「どこにいるんだ?」
「息子のカエデが入院している病院に入り込んでしまったの。ちょっと外に出てもらわないと、キラーがさりげなく殺すことが難しくなるわ」
「交通事故や、高いところからの転落が得意だもんな。病院内なら、階段を誤って落ちてしまいましたっていうのは?」
「人目がある。薬を使って殺したいけれど、キラーがそこまでできるかしら……。交通事故でさえ失敗しているのに」
ヒカル子はギリギリ歯を鳴らした。PCを閉じ、金木と一緒に部屋を出て行った。
「メイサ、これをどうにかして警察に届けたい。こいつらを、逮捕してもらわないと……!」
「簡単じゃない、このPCを警察に持っていったらいいんじゃないの」
メイサがこともなげに言った。カエデはPCを立ち上げ、ちょっと触って渋い顔をした。
「このPCには何も入っていない。ただの端末だ。こんな危ない情報は、社内サーバーで保存していると思う。どこかにサーバーがあるはずだ」
メイサはオニオンにメインサーバーを探すよう言ったが、オニオンは困った顔をして帰ってきた。
「ごめんね、オニオン。どのPCが何の情報を持っているのかまでは、わからないよね」
メイサはオニオンの頭をなでた。オニオンはうれしそうに尻尾を振ってメイサに甘える。
カエデとメイサは、オニオンについてカエデが入院している病院に向かった。
ベッドの上でぴくりとも動かず寝ている自分を見るのは、変な感じがした。
ふと思い出して、天井を見上げると、白い天井だ。
「これを見たんだ、僕……」
一瞬僕は生き返ったのかな。青く輝く大広間にも、行ったのだろうか。
「ねえ……カエデ、この方があなたのお父さまなの?」
メイサが蒼白な顔で大きな目をうるませてたずねた。
カエデが寝ているベッドより低いベッドが奥にあって、そこで白い布団にくるまれたセマシがいた。
「セマシ……!」
死んでいるのか?
カエデは全身の血がなくなるように体が冷たくなった気がした。
「うーん……」
セマシは、寝返りを打った。
「……こういうヤツなんだ」
カエデは、血の気の失せた顔に笑みを浮かべた。
「生きてるじゃんよ。心配させるんじゃねえ」
「ここに、お父さまがいる限り、アイツらは手が出せないのね?」
「たぶんね……早く、あの情報を警察に届けなくちゃ。どうしたらいいだろう……」
「ねえ、カエデ、ちょっと失礼するわよ」
メイサが言って、セマシが寝ているベッドに手を入れてごそごそ触った。
「何をしているの?そんなジジイを触らない方がいいと思うよ……」
「触っていないわ。これよ」
メイサは、スマホを手に取ってニヤッと笑った。
「さっきのPCからサーバーにアクセスして、スマホにコピーしたらそのまま警察に送信したらいいのよ」
「スマホか!現世から離れていたら、忘れていたよ。そうだね!」
二人とオニオンは、ヒカル子のオフィスに急いだ。




