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20 何を食べたら?

 にぎやかなファミレスの一角だけ、すごい重圧がかかっていた。そこにユキナとユウトが座っていた。


 「私が他所の子どもだなんて、嘘もたいがいにしなさい」


 「僕じゃないよ。役場が証明している」


 カエデたちは、ハラハラしながらしっかり二人の横に座っている。


 「ユキナ、ユウト、君たちには言えなかったんだよ。ボタンとキキョウの約束だから」


 ノボルも何度目かのセリフを繰り返した。しかし、今のノボルの言葉は二人には聞こえない。


 「どうにかして、二人に伝えたいよ」


 ノボルは両手で頭を抱える。


 「何か方法はないのかなあ」


 「どうにかしてあげたいわね……」


 カエデとメイサも困っていた。オニオンは人間たちの苦しみは知らないふうに、尻尾を振り振り、ファミレスの床を歩いている。


カチャン、と皿が音を立てた。近くの席に座っている小さな子どもがむずがって動かした手が皿にあたったらしい。子どもの料理がぴょん、と床に落ちた。


 お!


 そういうように、オニオンがピュンと走った。


落ちたウインナーをぱくり、と食べた。うれしかったのか、ほかにも何かいい物が落ちていないか、オニオンは尻尾を振り振り歩き回る。


 「あ、わんわん!」


 別の席の子どもが大きな声で言った。


 「まあ、どうして犬が?」


 ほかの客たちもオニオンに驚いている。


 「カエデ、オニオンが人に見えている?」


 「まずい、店を出よう!」


 カエデはオニオンを抱えて、すぐに店を出た。


おお、と客たちの驚きの声が出た。


床を歩いていたオニオンが、急に宙を飛んで店から出て行ったのだから、当然だ。カエデとメイサはそれに気づいていない。


 「どうしてオニオンが人に見えるようになったのかしら」


 「わからない」


 公園に行き、オニオンが歩くと人が「かわいい」「小さいわんわん」などと言っているので、オニオンの姿は見えているようだ。


しかし、その時間はわずかで、変わらずオニオンが歩いても、人はオニオンの存在に気づかなくなっていた。


 「なんだったのかしらね」


 「ねえ、僕たちも姿が人に見える方法があるのかもしれないよ」


 「見えてどうするの」


 「見えたらね、人に伝えることができるかもしれない」


 「ノボル!」


 「そう」


 ノボルが大きくうなずく。


 「どうやって、人に見えるようになったの、オニオン。教えてよ」


 メイサはオニオンを抱き上げ、たずねる。オニオンはうれしそうに尻尾を振って体じゅうをメイサに摺り寄せてくる。


 「わからないわ」


 メイサはオニオンを地面に下ろした。オニオンはうれしそうに尻尾を振り振り、あちこちを歩いていた。


 公園で遊んでいた子どもがアイスクリームを食べていた。


ぽとり、と一口アイスクリームを落としてしまった。


オニオンがすかさず走っていき、アイスクリームが地面に到達する前に、オニオンの口におさめた。


 「あ、わんわん」


 子どもはオニオンに気づいた。オニオンは尻尾を振り振りメイサのところに戻ってきた。


 「オニオン!そうなのね!」


 メイサはオニオンを抱き上げ、思い切りほめた。


 「カエデ、この世の食べ物を食べたらいいのよ!すごいわ、オニオン!」


 「ありがとう、オニオン!でも、どうやって食べ物を手に入れるの?まさかコンビニに行って買うわけにはいかないでしょ」


 「そうねえ……」


 メイサは考えた。


 「んふふ、わかったわよ」


 メイサは怪しく笑った。


 カエデとメイサはレストランの厨房にいた。


 「だって、私たち見えてないんだから、やりたい放題でしょ」


 「でも、お客さんに提供する料理が欠けていたら怪しいでしょ」


 「そりゃね、ハンバーグが欠けていたらおかしいわよ。でもね、スープがひとくちなくなっても、わからないでしょ」


 メイサはうれしそう。


 「僕たち急に姿が見えたら、どうしたらいいの?」


 「そうね、じゃあスプーンにすくって、外で食べたらいいんじゃない?」


 「メイサ、頭いいね」


 「んふふ」


 カエデとメイサは皿に少しずつ、いろんな料理を取った。公園に戻って、ゆっくり食べてみる。


 「一種類食べたら、鏡でうつしてみるのよ」


 「メイサ、本当に頭いいね」


 カエデとメイサは、一口食べては鏡を見てみた。しかし、二人が思っているほど、すぐに鏡に姿が映らなかった。


 「おかしいわねえ。なんで映らないのかしら」


 「量が少ないってこと、ないよね?」


 「オニオンは一口で姿が見えたわよ」


 「そうだよね」


 残念なことに、いろいろ食べても、二人の姿は鏡に映らなかった。


 「僕たちは何を食べたら人に見えるようになるか、試そう。その間に、オニオンにボタンさんとキキョウさんを探してもらおうよ」


 「そうね」


 ノボルに、ボタンとキキョウの持ち物がないか、たずねた。


 「昔のことだからなあ」


 ノボルは家に帰って、ごそごそ探した。


 「これは……」


 押し入れの奥から、黄ばんだ布を取りだした。ノボルは布を抱きしめて涙を流した。


 「ユキナを受け取ったときの、おくるみだよ」


 涙ながらに抱きしめているノボルに、メイサが慌てる。


 「ちょっと!ボタンさんの手がかりを抱きしめてどうするの!ボタンさんの臭いがなくなっちゃうじゃない。すぐにオニオンに臭わせて!」


 オニオンは尻尾を振り振りやってきた。


 「オニオン、若い女の人の臭いがしない?若い男の人の臭いでもいいのよ」


 メイサの声を聞きながら、オニオンはおくるみのあちこちに鼻を押し付けた。しばらく臭っていると、おくるみから鼻をはなし、ぐるぐる回りはじめた。


 「オニオン、ゴー!」


 メイサが言うと、オニオンは走り出し、姿は消えた。


 それからいろんな食べ物を試したが、カエデもメイサもノボルも人に見られることはなかった。


 「もしかして、犬だけ?」


 「そうなのかなあ」


 だんだん不安になってきた。


カエデはユキナの留守中、ノボルの許可をもらって好きな牛乳を飲んだ。


 「ああ、やっぱり牛乳はおいしいなあ!」


 「カエデ、変わってるわねえ。牛乳がそんなにおいしい?」


 「おいしいよ!ああ、セマシのやつ、元気にしているかなあ。ミツコ姉さんも、元気にしているかなあ」


 カエデは牛乳を飲むと、みんなのことを思い出した。


 「カエデ!」


 ノボルが大きな声を出した。


 「なあに、大きな声を出さないで……」


 「鏡!鏡!」


 ハッとして鏡を見たカエデは、「やったあ!」と声を出した。


 「映ってる!映ってるよ!」


 喜ぶカエデの横で、メイサとノボルも牛乳を飲んだが、二人は鏡に映らなかった。


 「映る基準が、わからないわね」


 「好きな物かもね」


 「好きな物?いろいろ食べたけど、鏡に映らなかったわよ」


 「なにげなく、好きな物なのかも」


 「なにそれ、難しいわね」


 「僕は、牛乳だ!やったあ!」


 「カエデが人に見えるようになって、それから?」


 「それから?」


 「どうするの」


 カエデは考えた。


 「僕が、ノボルに変身して、ユキナさんとユウトさんに話しをする」


 「できる?」


 「横でノボルが言ってくれたら、その通りに言うよ」


 「納得するかしら」


 「待って、私は入院中で、死にかけているよ。怪しまれるよ」


 「あ、そうか。だめだ」


 三人は、また考える。


 「僕がユキナさんになって、ボタンさんに会いに行くっていうのは?」


 「ボタンさんの居場所がわかったらね」


 「会いに行って、なんて言うの?」


 「けんかを仲裁してください」


 「だめよ。そんなこと言えない」


 「ユキナさんが、どうしてノボルに育てられるようになったのか、説明してもらいたい」


 「いいわね」


 「うん、それでいこう」


 「オニオン、見つけられたかしら」


 「わん!」


 急に、オニオンが三人の足元に現れた。


 「すごい!いいタイミング!オニオン、賢いねえ、えらいねえ」


 「じゃあ、早速、行こう」

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