16 ヨシとラクの身の上
泳ぎから帰ってメイサがヨシとラクを部屋につれて行って寝かせてくれた。
メイサが帰ってくると、ノボル、カエデ、メイサは食堂でジュースを飲みながら黙っていた。
「あの……」
カエデが重い沈黙を破った。
「ヨシと、ラクは」
「うん」
ノボルが苦しそうに、顔を手のひらでぬぐった。
「たぶんね、ヨシとラクが言うことだからはっきりしないんだけどね」
そう言って、ノボルは話し始めた。
すきま区でヨシとラクがノボルに初めて出会ったとき、二人は暗い表情をした、子どもらしくない子供だった。大人を見ると、怯えていた。
「私は学校の先生だったからね、他の人よりも少し、経験があるんだよ」
ノボルは、苦しそうに話をした。
「親に虐待をされた子どもを保護したことがあるんだ。ヨシとラクもそんな子どもの特徴を持っている。二人は、両親の話は全くしないんだ。
あの幼い子どもが、だよ。山おじという人のことは話すんだ。やさしくて、ごはんも作ってくれるらしい。どういう関係の人かは、わからんがね」
「……正解かどうか、わからないけれど、ヨシとラクに親の話はしない方がいいと思うのよ」
メイサが言った。
「わかった。ごめん」
カエデは申し訳ないと思った。知らずにヨシとラクを傷つけてしまった。
「ごめん、それは私の方だ。カエデに言ってなかったから」
三人は再び、重い沈黙をした。
「おなかすいた!」
ヨシとラクが昼寝から起きてきた。
「ほほう、ごはんを食べにいこうか!」
ノボルはヨシとラクと手をつなぎ、カエデとメイサも一緒に食堂に向かった。
「今日はたくさん遊んだから、お腹空いたね」
「何を食べるかな」
メイサとノボルはヨシとラクに、いろんな料理を取ってあげた。カエデはもりもり食べているヨシとラクをかわいいと思った。
「子供って、食べる姿はかわいいんだね」
「あら、知らなかった?」
「ふふふ、子どもは怒っていても、泣いていてもかわいいよ」
「ノボル、すごい域ですね。まだまだ僕にはそこまでは思えないです」
「そうね。怒っていてもかわいいなんて、さすがね」
話をしているカエデたちを、ヨシとラクは眺めながら食べていた。
ヨシが、隣のテーブルを見て、きらりと目を輝かせているのを、カエデたちは気づかなかった。
ヨシは、そっと椅子をおりて、隣のテーブルから小さなボウルを取ってきた。
丸い粒がたくさん入っている。よく見ると、粒には虫の顔のような模様がついていた。
ヨシは、粒をひとつ取ってラクに渡した。
悪い笑顔。
そして、自分の口に、粒を一つ放り込んだ。ヨシはラクの耳にこそこそ話をした。ラクも、悪い笑顔。
「学校で仕事をしていると、いろんな子どもたちがいてね。楽しかったなあ」
「僕も、小学校の思い出は、楽しい思い出しかないですよ。勉強なんか、ちっともしなかった。毎日店に通っていたからね」
「毎日店に通っている小学生って、不謹慎ね」
ノボルとメイサが笑った。
「ヨシとラクも、小学校に行ったら楽しいわよ……」
ヨシとラクに話しかけたメイサの顔がひきつった。
驚いてカエデとノボルもヨシとラクを見てぽかん、と口を開けた。
「小学校に行ったら楽しいわよ、カエデ」
「楽しいね、メイサ」
ヨシとラクが座っていたはずの椅子に、カエデとメイサが座っている。二人は並んで手を握り合っている。
「ずっと仲良しでいようね、カエデ」
「うん、ずっと仲良しだよ、メイサ」
カエデとメイサはまるで恋人同士のように手を取り合ってほほえんでいる。
その向かい側でカエデとメイサは、豆鉄砲をくらった鳩のような顔だ。ひとつのテーブルに、二組のカエデとメイサが座っている状況なのだ。
あははは、とノボルが笑い始めた。
一組のカエデとメイサの顔がひきつる。
「なに、どういうこと」
「夢?」
「やったなあ、このいたずらっ子め」
ノボルは一組のカエデとメイサの頭をごしごしとなでた。なでられたカエデとメイサはうれしそうに笑う。
「こいつは、ヘンシックスだ。このボウルがそうだ。ダイヤの薬だよ。こいつを飲んで、変身したい人を思い浮かべるんだ。うまいなあ、ヨシ、ラク」
「えへへ」
一組のカエデとメイサがにやにや笑っている。
「じゃあ、ヨシとラクなの?」
メイサが目を丸くした。
「そうだよ!ね、カエデ」
「そうだよ。メイサ」
ヨシとラクは、カエデとメイサの姿でカップルのように抱き合った。
「ちょっと、やめなさい、恥ずかしいわ」
「そうだよ、離れなさい」
カエデとメイサが困惑して顔を真っ赤にしている。ヨシとラクは、うふふ、と喜んだ。
「だーいすき」
変身姿のカエデとメイサがぎゅっと抱き合って体を揺すっている。
「ちょっと、やりすぎ!」
「やめなさい」
カエデとメイサは真っ赤になって、ヨシとラクを止める。
「さあ、いたずらっ子、ラクニナルンを飲もうか」
ノボルに言われると、「はーい」とカエデとメイサがラクニナルンを飲んだ。とたんに、小さなヨシとラクに戻る。
ヨシとラクは楽しそうに笑って食事をすませた。カエデとメイサは、複雑な気持ちでそれぞれの部屋に帰って行った。
部屋に帰り、カエデはまるで自分がメイサと抱き合ったような感覚で体がほてってしょうがなかった。
同時に、メイサがすごく、すごーく怒っているだろうな、と胃が痛くなるような気がした。
「ああ、ヨシ、ラク、やめてくれえ」
一晩中、カエデは布団の中でもがいていた。




