13 カエデ、襲われる
ハッとして音のする方をみると、大きな犬がカエデに向かって突進してきている。
アレックスではない。メイサが連れていた犬でもない。誰かのピットブルだ。
犬はカエデの顔めがけて大きな口を開け、牙をむいて飛び込んでくる!
危ない!噛まれる!あんな大きな口に噛まれたらひとたまりもない!
カエデはとっさに判断し、犬をよけた。が、犬はすばやく体勢を整え、カエデに牙をむいて走ってくる。
これはなんだ?ノボルが言っていた犬の主人以外への攻撃?
犬が大きな口を開けて、カエデに攻撃をしかけてくる!
カエデは思い切り、犬の大きな頭のてっぺんから両手を握りしめて叩いた。
いつものカエデでは、蚊が刺したようなものかもしれなかった。
だが、今は魔法で強い体になっている。
さすがの犬も「グ、グ、」と鈍いうめきを出し、一瞬ひるんだ。
だが、牛のような犬である。すぐに体勢を整えると、再度カエデに襲いかかってくる。
カエデはもう一度、頭を強く叩き、続いて腹を横蹴りにした。
犬は、吹っ飛んだ。
やはり、強い犬だ。一瞬、地面に転がり、もがいていたが、すっくと立ちあがった。
カエデは強い体になったとはいえ、慣れない戦いで、腕が痛くなった。
体中の筋肉もかなり使っている。体中がきしむ。
これ以上、無理だ。小さい力でどうにかしなければ。
犬が大きく口を開け、噛みつきにくる瞬間、犬の舌が見えた。
これだ!
カエデは犬の口の中に手を突っ込み、舌をつかんだ。
そのまま思い切り下に叩き落した。
哀れな犬は、「キャン!」と叫び、地面に転がってもがいた。
今度は立ち上がれない様子。
カエデは犬の哀れな様子に胸が締め付けられた。
いくら自分を襲ってきた犬だったとしても、ここまで痛めつけなければならなかったのか。
「大丈夫か……?」
カエデは犬を遠くから心配していると、別の場所から動物の低くうなる声が聞こえた。
まさか、別の犬が?
カエデは強い力で戦った衝撃で自分の体も壊れそうだったし、犬に噛まれてあちこちから血が噴き出していた。
「自分の心配をした方がいいぞ」
男の声がした。いつの間にか、クロミズキが立っていた。
「お前が犬をけしかけたのか!」
「そうさ。お前の命の玉を奪うためにな。お前の血の臭いでけものを呼んでいる。おれはお前がやられた後に命の玉をいただくことにするよ」
「まだ言っているのか!命の玉なんて、うそだ!」
「噓じゃない。お前が死んだら、口から自然と出てくる玉がある。それを、私が食べればいいのだ。そこまで調べた。じゃあ、安心して死んでくれ」
クロミズキは木陰に消えた。
それと入れ替わりに、たくさんの獣のうなり声がしはじめた。
暗闇から現れたのは、何匹もの狼だ。狼は白い牙をむいて、ゆっくりカエデに近づいてくる。
クロミズキの犬と戦って、疲れ切っているのに、たくさんの狼と戦えるか?
カエデの背後の木がガサリと大きな音をたてた。
ハッとして振り向き、カエデは絶望を感じた。
メイサの犬が、ぬるりと大きな体を木の間から現した。
カエデに向かって牙をむき出して走ってくる。
それを合図のように、狼が飛びかかってきた。
カエデは狼と犬が作る円の中心にいた。
無我夢中でカエデは両手で殴り飛ばす。足で蹴り飛ばす。
狼はあとからあとから襲いかかってきてきりがない。
メイサの犬も飛びかかってくる。
狼の牙がカエデの体に食い込んでくる。
もう、だめか。
「ドラゴン、ストップ!」
メイサの叫び声が聞こえた。
「アレックス、カエデを助けるんだ、行け!」
ノボルの声を聞いた。
そのあとは恐ろしい獣たちの声で空気が揺れ動いた。
カエデの意識はだんだん薄れていった。




