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12 入山

「イノシシだ!」


 わああ、とあたりにいた人々が押し寄せ、あっと言う間にイノシシを捕獲してどこかにつれて行ってしまった。


 「今日の料理はシシ鍋だ」


 ノボルがうれしそうに笑った。


もう何が起きても驚かないぞ、とカエデは痛む背中をさすった。


 大勢の人数で取りかかると、あっという間に広い範囲の草刈りを終了することができた。


大量の刈った草を何台ものリヤカーに乗せて山に捨てる。 


捨てた後、リヤカーを一か所に集めて置くと、みんな山に入っていく。


 「必ず、グループで行動するように!」


 スペードが人々に指示を出す。


カエデは、ノボルとメイサの三人組を作った。


 「明るいうちに、山を歩くんだ。地形を確認するとともに、動物の痕跡を見つけておくんだよ。糞が落ちている場所とか、爪を研いでいる木とか」


 ノボルがいろいろ説明してくれるが、カエデには見たことも聞いたこともなかったので、ちょっと難しかった。


 入山してすぐは、山は太陽の光が差し込んで明るかったが、奥に進むにつれて木々の葉が茂っていることで、辺りは薄暗くなってきた。 


空気も徐々に冷たくなって、湿気を帯びた土と葉のにおいがまとわりついてくる。


こんな場所にひとりで来るのは、ちょっと怖いなと思った。


 「ここに大きな糞がある。狼かも」


 メイサが土に顔をよせて見つめている。


 「了解。この場所は、動物の通り道かもね」


 ノボルが木に印のリボンをつけた。


こうして、ノボルとメイサはいくつかのポイントにリボンをつけてまわった。


その後からカエデがついて歩いた。


あいかわらず、メイサはカエデの方を見ようともしなかった。


カエデもあえてメイサに話しかけようとはしなかった。


ノボルが気にしてカエデに声をかけてくれるのが、ありがたかった。


 夕食の時、食後に出発するんだ、とノボルが言った。


 「ラクニナルンは、飲んじゃいけないよ。魔法がとけてしまうからね」


 ノボルもカエデも、昼間にかけてもらった魔法のおかげで筋肉質の太い手足のままでいた。


 「これからが、本番だよ」


 「いいなあ、おれたちも早く大きくなって、ノボルと一緒に夜警に行きたいよ」


 「おれも!おれも!」


 「そうだな!大きくなれよ!」


 ノボルは愛おしそうにヨシとラクの頭をなでてやった。


 ふと、カエデの隣にいるメイサを見ると、メイサは怒っているかのように目を吊り上げていた。カエデはその表情に驚いた。


 「どうかしたの?」


 メイサは無言でプイ、と横を向いた。


 ノボルの言う通り、夕食後に部屋にいると、仕事の合図の音が鳴った。


マフィン館の外には大勢の人々、そしてたくさんの犬がいた。


 ノボルも大きな犬を連れていた。


その大きさと言ったら、大人の牛と同じ大きさだ。


ボーダーコリーのマイクも子牛ほどの大きな犬だが、もっと大きいこの犬は手足も太く、大きな口を持っていた。


 「こいつはピットブルテリアのアレックスだ。気性が荒いから、注意するんだカエデ。アレックス、カエデだ。いいか、覚えろよ」


 ノボルはカエデのシャツのすそをちょっといいか、とつまみ、アレックスの鼻に押し付けた。


アレックスの頭はカエデの上半身と同じ大きさだ。


 「アレックス、これはカエデだ。仲間だぞ。わかったか」


 ノボルがシャツを引っ張るから、アレックスの大きく荒々しい顔に近づいてしまい、カエデはちょっと怖かった。


恐る恐る見たアレックスは凶暴そうな大きな頭のわりに、小さい優しそうな目をしていた。


 「カエデ、野生の動物にも気を付けるのだが、犬にも気を付けるんだ。犬は飼い主に忠誠心が強い分、知らない相手には容赦ないからな」


 アレックスはカエデに慣れたのか、カエデのズボンのにおいをかいで尻尾を振っている。


 人々は魚の腹を思わせるような色のベストが配られ、着るように言われた。


建物の外は真っ暗だ。明るい部屋では魚の腹色のベストが、暗闇では明るく輝いてあたりを明るく照らした。


 山に入り、奥に進む。昼間よりも冷たい空気がカエデの緊張を高めた。


夜の山は昼の山とは違って、雨が降ったあとのような水分を多く含んだ冷たい空気だ。


 全員で一塊になり山を進んでいく。


山の中は真っ暗だ。


人々が着ているベストが一列になり、その光を頼って進んでいく。


暗闇の中で、いくつものベストが歩いているかの異様な光景だ。


カエデは初めてなのと、恐怖を感じたので、ノボルにしっかりついていった。


アレックスは、ノボルから遠く離れずに山のあちこちのにおいを探って歩いている。

 

 遠くで犬が吠える声が聞こえてきた。笛の音も聞こえてくる。


 「鹿が出たらしい」


 ノボルが教えてくれた。


 犬の声が聞こえてきては、遠くに遠ざかり、また近よってきた。カエデにはただ恐ろしい声にしか聞こえない。


 「鹿の群れを山奥に追いやったみたいだよ。鹿は時々畑に降りてきて作物を食い荒らして困る動物だ。こうやって犬をけしかけて、山のふもとにくると怖いぞ、と印象付けるのが僕たちの大切な仕事なんだ」


 ノボルが教えてくれるのが、本当にありがたかった。今、何が起きているのか知ると怖さが減る。


 「すごいですね」


 「争う前に、争わないようにするんだよ」


 カエデたちはさらに山の奥に進んだ。


犬が時々吠える音はもちろん、恐らく動物からすると人と犬の強烈なにおいを感じているのか、あまり動物に遭遇することはなかった。


 「よし、退却!」


 スペードの指示が出た。やっと帰れる!カエデはうれしかった。来るときには長く感じた山道が、帰りには短く感じた。


 「カエデ、いくら帰りだと言っても、列から離れるなよ」


 「はい」 


 早く帰りたい気持ちからか、気が付くとノボルより早く進んでしまっていた。


気が付くと、メイサが歩いていた。メイサも犬をつれていた。犬は鋭い目でカエデを見ている。


 「ドラゴン、行きましょ」


 メイサはカエデを見ると、プイ、と横を向いた。


 カエデは腹が立った。


僕が何かした?


メイサを追い越してどんどん先に進む。


気が付くとカエデは人々の先頭の方にきてしまっていた。人も犬も少ない。気が付くと、先に進みすぎていた。


少し、ここで待とう。


 カエデは立ち止まってノボルが来るのを待っていた。


 冷たい空気が身体にしみついてくるようだ。今になって恐怖がよみがえってくる。


 突然、低い動物のうなり声を聞いた。


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