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黒猫ツバキと魔女コンデッサ

黒猫ツバキと夢見るスイカ

作者: 東郷しのぶ

登場キャラ紹介

・コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。

・ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。 


・チリーナ(今回は、名前だけ登場)……伯爵令嬢にして魔女高等学校2年生。コンデッサの元教え子。現在も、コンデッサやツバキと親しい関係。



 三題噺(お題は「ギャル」「スイカ」「因習村」)にチャレンジした作品なんですけど……暑さで、頭が茹だった状態で書きました。

 あと、ギャル言葉が分かりません(涙)。語尾に「ギャル」を付ければ良いのかな?(←違う)

 今年の夏の暑さは、異常である。


 ジリジリと照りつける太陽のもと。

 ここは王国の端っこの村にある、魔女コンデッサのお(うち)


 コンデッサは若い。けれど有能で頼りになるため、多くの客が悩みの解決策を求めて、彼女のところへやって来る。


 今日も、家の中の一室でコンデッサは、お客が相談してくる内容に耳を傾けていた。


『オレの話を聞いてくれよ。魔女さん』

「聞いている」

『オレの村は、呪われているんだ。ひどい因習(いんしゅう)が、現在も続いていてな……まさに〝因習村〟とでも呼ぶべき、()まわしい存在に成り果てている』


「自分の村に対して、随分な言いようだな……で、どんな因習なんだ?」

『村のモノは成長すると、村の外へと必ず連れ出されてしまうのさ。そして、すさまじく残酷な目に()う』

「残酷な目?」

(なた)で真っ二つにされたり、包丁で切り刻まれるんだよ! そのあと、内側は食い尽くされ、残った皮は捨てられる。最大級の恐怖に、(あし)が震えるぜ』

「お前に、脚は無い」


『信じがたいことに、こんな恐ろしすぎる運命を、村の皆は喜んで受け入れるんだ。「美味しく食べていただくことこそ、わが喜び!」なんて言ってな。あまりに長く続いた因習によって、村のどいつもこいつも、頭の中が洗脳されているとしか思えない』

「お前や村のモノの体の、どこからどこまでが頭なのか、サッパリ分からない。正直、体の全部が1つの頭みたいに見える」


『どうして村の皆は、この非道きわまりない因習に、何の疑問も抱かない!? それどころか、オレにも「食べてもらいなさい。そうすれば、生まれてきた意味が理解できる」などと口々に告げてくる』

「お前らのどこに、口があるのか……? そっちのほうが、よっぽど疑問だ」


『何故オレは、このような辛い生き方を()いられるんだ? その理由を、誰か教えてくれ!』

「それは、アナタがスイカだからだニャン」


 トコトコと黒猫のツバキが近寄ってきて、スイカに言う。

 そしてツバキは、主人であるコンデッサへ瞳を向けた。


「ニャン。ご主人様」

「なんだ? ツバキ」

「アタシ、ご主人様が心配だニャ」

「どうして?」


「だって、いきなりスイカが転がりながら家に訪ねてきて、テーブルの上にのって喋りはじめても、ご主人様は他のお客さんと同じように扱い、対応している……ちょっとは、変に思わないニョ? スイカは果物にゃ。自力で転がったり、話したり、ましてや〝食べられる自分の運命〟を(なげ)いたりはしないのニャ」

「スイカは定義によっては、野菜にも分類されるぞ」

「そんにゃ事は、この際、どうでもいいニャン」


「……いや。今年の夏は、すごい暑いだろう? ツバキ」

「ニャン」

「暑さで頭がボ~としているところに、スイカが突然、現れて、ツラツラ愚痴(ぐち)をこぼしだしたもんだから……『ああ。ついにスイカも、ここまで進化したんだなぁ』……と思って」

「ご主人様、シッカリするニャン! スイカが進化したとしても、それは品種改良の結果、大きさや味が変わるニョであって、不平不満を述べる方向へ変化するはず無いにゃ!」


 ツバキがコンデッサを強く説得していると、スイカが文句を言ってくる。


『おい、黒猫よ。それじゃ、オレは何なんだ?』

すかたん(・・・・)なスイカにゃ」

『すかたん……』


※注 すかたんとは、関西弁で「当てはずれ」や「マヌケ」を意味する単語です。


「略して〝すいかたん〟ニャ。響きが可愛いニャ」

『…………』


「結論として、進化の事実は認められないニャン。アナタは、ただの珍妙なスイカにゃ」

『いったい、いつ、その結論に達したんだ? オレが1個のスイカであることは、間違いないが……』


 テーブルの上に、ツバキはピョンと跳びのった。

 黒猫とスイカが向かい合う。


「今日はご主人様が頼りないから、アタシがアナタの話を聞いてあげるニャ」

『だったら、これからオレはどうすれば良いのか、アドバイスをくれ』


「普通に出荷されて、普通に切られて、普通に食べてもらえば良いニャ」

『やはり「切られて、食われろ」と、お前も言うのか』

「切らずにスイカを丸かじりするニョは、至難の(わざ)にゃ。……だいたい、アナタは食べてもらわず、どういう未来を迎えれば満足するにょ? もう、そんニャに立派な、丸々としたスイカになっているニョに」


『……そうだな。考えてみれば、オレはスイカ』

「考えなくても、スイカにゃん」

『人に「甘い~! 美味い~! 喉も(うるお)う~! 夏にスイカは、至福(しふく)なり!』と食べてもらうのも、それはそれで、理想の生き方なのかもしれん』


「分かってもらえて、良かったニャ。アナタの村のしきたり(・・・・)は、悪い因習じゃ無くて、素晴らしい伝統なのにゃ。四の五の言わず、大人しく従って市場へ出荷されるニャン」


『だが、オレには夢があるのだ!』

「ニャン。夢?」

『ああ。青い海! 白い雲! 輝く太陽! 夏の浜辺で、ピチピチなギャルと遊びたい! 〝キャッキャウフフ〟と(たわむ)れたいのだ。「ハッハッハ。ここまでおいで」「待て~。捕まえちゃうぞ!」みたいなセリフを言いあって――』

「…………」

『ギャルに迫られたい! 脳天に衝撃を受けるほどの、歓喜な体験をしたい!』

「……ニャ」


『とても高尚(こうしょう)な夢だ』

「低俗な夢だニャン」

『この夢が(かな)わないうちは、()れても熟れきれん』

「そんにゃ『死んでも死にきれん』みたいに言われても……スイカは熟れるのが仕事だにゃ。熟れすぎるのも良くニャいけど」


 我がままを述べる、スイカ。

 困っているツバキに、コンデッサが助け船を出した。


「スイカよ。それなら私が、お前にギャルを紹介してやろう」

『本当か!』


「ご主人様。ギャルの知り合いさんが居るニョ?」

「うん。魔女高校の生徒で、チリーナの同級生なんだ。少し前、チリーナと一緒に、この家に遊びに来たことがあったんだよ。その時、ツバキは出掛けていて不在だったが……」


 コンデッサが《メール魔法》で連絡を入れると、その少女――ギャルは、すぐにやって来た。

 魔女高校の制服を着ているが、スカートの(たけ)を短くするなど、全体的にお洒落な(よそお)いをしている。メイクも派手で、バッチリ可愛く仕上げていた。


 少女は、元気いっぱいに挨拶をする。


「ち~す。コンデッサ様、お呼びですか~?」

「ああ。よく来てくれた」

「ニャン。こんにちは」


「黒猫のツバキちゃんだね~。チリーナやコンデッサ様から、アンタの話は聞いているよ~。うちのことは〝ギャル子〟って呼んでね~」

「ニャ? ギャル子?」

「そう。本名は〝ギャトリヌルリルリルリコメッコッコ〟なんだけど、それだと長いから~」

「了解ニャン。ギャル子さん」


 ちなみにギャル子の本名が長いのは、彼女の両親がキラキラネームをつけたためである。

 ギャル子自身は、己の本名をけっこう好きなのであるが『長すぎるのだけは、まいる~。ぴえん(泣)』と思っていたりする。


 コンデッサが、ギャル子に事情を話す。


「分かりました~。このスイカ、うちが貰っちゃいますね~」

『ギャルよ! ありがとう!』

 と、スイカが感激して叫ぶ。

 

「あ~。ギャル子。見てのとおり、コイツは喋るスイカなんだが……」

「構いませんよ~。ギャル子は、こまかいことは気にしませんので~」


 ギャル子の返事に、スイカのテンションが更に上がる。

 勢いよく、己が抱いている夢の内容をスイカが語ると、ギャル子は「なるほど~。アゲアゲだね~」と頷いた。


「明日、うちは友達と海水浴に行くんだよ~。スイカちゃんも連れて行ってあげる~」

『なんと! 明日、オレの夢が叶うのか!』

「そうだよ~。ギャル子は親切なんだ~。バリバリ感謝しろ~」

『うう……嬉しいぞ……』

「ちゃんと『浜辺で遊んで』『戯れて』『迫って』『捕まえて』『脳天に衝撃を与えて』あげる~」


 嬉し泣きしている、スイカ。

 ツバキはコソッと、ギャル子に尋ねてみた。


「明日の浜辺で、ギャル子さんはスイカを相手に何をするのかニャ?」

「もちろん、スイカ割りだよ~」



 数日後。

 ギャル子が、コンデッサの家を訪ねてきた。


「こんにちは~。コンデッサ様、ツバキちゃん~」

「ギャル子さん、いらっしゃいニャン」

「ギャル子。先日、お前に渡したスイカはどうなったのか、訊いてもいいか?」


「ハイ~。夏の浜辺で、うちが棒で叩き割りました~。目隠しした状態だったけど、手応(てごた)えはガチでした~。目隠しをとったら、スイカは完璧に割れていて、そのあと皆で、中身を食べました~。美味しかったです~」

「……まぁ、スイカ割りだもんな。当たり前に、そうなるか……」


「スイカさんは、自分が割られるのを、どう思ったのかにゃ?」

「喜んでいたよ~。うちが振り下ろした棒が直撃した瞬間、『わが生きざまに、一片の()い無し!』と叫んでた~」

「……ニャン」

「でもスイカは食べ物なんだから、そこは『一片の悔い無し』じゃ無くて『一片の()い残し無し』と叫ぶべきだと思う~。ですよね~。コンデッサ様」


「ええっと……そ、そうだな。でも良かったよ。ギャル子のおかげで、あのスイカも、満たされた心のまま成仏できたに違いない」

「それが、ですね~」


 ギャル子が持ってきたバッグの中から、何かを取り出す。

 それは、空気が抜けてペシャンコになっている、スイカ(がら)のビーチボールだった。


 ギャル子は、その空気(せん)に口をつけて、プウと息を吹きこむ。

 膨らんだビーチボールを見て、ツバキが言う。


「こにょビーチボール。スイカ柄だし、大きさも同じくらいだし、あにょ時のスイカが、また現れたみたいな感じニャ」

『当然だ。オレだからな』


 ビーチボールから、音……いや、声がした。

 ツバキはビックリし、コンデッサは首をかしげる。

 

「にゃ! ビーチボールが、喋ったニャン!」

「ギャル子。どういうことだ?」


「うちが棒で割った時、スイカの魂が、持ってきていたビーチボールに乗り移っちゃったみたいなんです~。まじ(まんじ)(ヤバい)~」

「さっさと成仏すれば、良いのに。こいつ、しぶといな」


 ビーチボールが、ボヨンと()ねる。


『ビーチボールになっても、スイカだった時と同じように、中身が充実した生き方をしてやるぜ!』

「スイカであるニャらともかく、ビーチボールになったら、中身を充実させるのは無理だと思うニャン」

「ビーチボールの中身は空気だしね~」


 ボヨンボヨン。跳ねる跳ねる。


「ニャン。スイカ……改め、スイカ柄のビーチボールさんは、妙に嬉しそうニャンね?」

『ふっふっふ。黒猫よ。今のオレはビーチボールなのだ。つまり、空気注入……中に空気を入れてもらう時、栓の部分へ、ギャルが口づけをしてくれるのだ。最高だ!』

「色ボケにゃ。脳は無いのに、ピンク脳なビーチボールにゃん」


「ギャル子。この気持ち悪いビーチボールは、私が引き取ろうか? 即行で、処分するが」

『〝気持ち悪い〟とは、なんだ!』


「大丈夫ですよ~。ギャル子は気にしません~。1週間後に、また海へ遊びに行くのです~」

『オレも、持っていってくれるんだよな?』

「うん~」

『やったぜ!』



 1週間後。

 ギャル子は、数人の友達とともに、再び海水浴にやって来た。


 まだ、しぼんだ状態のビーチボール(スイカ柄)。空気入れの際にギャルに口づけしてもらえるのを、ワクワクしながら待っていると……。


 ギンギラギンの太陽の下の浜辺を、筋肉ムキムキの男性が、海パン一丁(いっちょう)の姿で歩いている。

 彼の赤銅(しゃくどう)色の肌は、汗で濡れて光っており、非常にナイス&エロスだった。……見る人によっては、そのように思えるに違いない。多分。


 ギャル子たちの側を、男は通り過ぎた。


「無念だ。ビーチボールで遊ぼうと思っていたのに、家に置いてきてしまった。どこかで、売ってはいないか?」


 そうブツブツ(つぶや)いている男性へ、ギャル子が声をかける。


「あの~。良かったら、このビーチボールを差し上げましょうか~?」

『え!?』

「おお。良いのか?」

『ちょ!?』

「はい~。ギャル子は親切なんです~」

『おい~!』


 スイカ柄のビーチボールを喜々(きき)として受け取った男性は、さっそく膨らませようと、空気栓に口をつけた。


 ブチュ。



 ――あつかった。


 真夏の日射しは暑く

 男の(くちびる)は厚く、とても分厚く

 その口づけは、熱かった。


『のあああああ!!!』


 男の肺活(はいかつ)量は、驚異的であった。ビーチボールは、あっという間に膨らんだ。


『うあああ……』


 ボール(からだ)は一気に膨らんでパンパンになったが、スイカ(だましい)(せいしん)は一気に(しぼ)んでシオシオになった。


『あ……』



 時刻は夕暮れ。

 ぞんぶんにビーチボールで遊んだ男は、そろそろ仕舞(しま)おうと、その空気栓を抜いた。


 プシュルルル~。

 ビーチボールから空気が抜けていくと同時に、宿(やど)っていた魂も抜ける。


 日の入り前の夏の空へ、元スイカの魂は昇っていった。村の因習からも、全ての欲望からも、意味不明な喋る体質からも解放されて――


 こうして夢見るスイカは、その夢を叶え、夢の先へも追いつき、追い越し、果てはクラッシュし、オーバーフローして、天の彼方へと消えた。

 満足したのか、(あきら)めたのか、何か深い真理を悟ったのか、その心の内は不明ではあるけれど。


 夏の日々は続く。


 太陽は(まぶ)しく

 気温は高く

 食べるスイカは、やっぱり美味しいのであった。




~おしまい~


「ハッピーエンドなのニャ」

「ハッピーエンドです~」

「ハッピーエンドなのか……?」

チリーナ「私の出番がありませんでしたわ! コンデッサお姉様に、私の水着姿を見ていただきたかったのに」

ギャル子「でも今回、海へコンデッサ様は行っていないよ~。浜辺に居たのは、1回目はうち・うちの友達・スイカで、2回目はうち・うちの友達・ビーチボール・筋肉ムキムキのエモいお兄さん……」

チリーナ「出番が無くて、良かったです」



 ご覧いただき、ありがとうございました。

 よろしければ、コメントやいいね、応援ポイントをしてもらえると嬉しいです!



♢追記(2025年8月27日)


 あき伽耶様とかぐつち・マナぱ様に、本作にちなんだイラストを作っていただきました。とっても嬉しいです!


◯あき伽耶様より(スイカ&黒猫のバナーイラスト)


挿絵(By みてみん)


 可愛い~! 拝見していると、ニヨニヨしちゃいます。優しい雰囲気が、素敵です。


◯かぐつち・マナぱ様より(コンデッサとツバキのスイカ割りAIイラスト)


  挿絵(By みてみん)


 これは、めっちゃ楽しいですね。スイカ割りの最中に、とびつくのは危ないですよ~。ツバキ、危機一髪か(笑)!? 


 あき伽耶様、かぐつち・マナぱ様、本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ぎゃ~怖い、皮とか剥がされちゃうの……!?とおののいていたら、なんだそういうことかーい!w そこからの台詞の数々にウケました! 面白くて書ききれない… 脳天衝撃やら、転生?しちゃってるところとか、最後…
今年の夏は本当に暑いですからね。 スイカが喋り出すのも無理からぬことかと(違)。 スイカにとって生きることの意味とは?という哲学的な問題を投げかける作品でしたね(違……合ってる?)。
拝読させていただきました。 すわ「約束のネバーランド」かと思いましたが、このオチはすごいです。
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