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——華やかに飾られたお茶会。
どこか影のある微笑みと、それぞれの思惑が入り乱れる中、ようやく始まりを告げる。
「皆さん、どうぞお席に。こうして若き皆様たちと親睦の場を持てたことを、私も嬉しく思っておりますの」
皇后の声が会場に響き渡り、軽やかな拍手が広間に満ちる。
令嬢たちが順次席に着こうと動き出した。
「皇女殿下、お席はあちらでございます」
セフィーナがわざとらしい仕草で最奥の席を示した。他の令嬢たちより微妙に視界の悪い場所であった。エレノアはその意図を即座に悟った。
「ご丁寧にありがとう、グリディア嬢」
エレノアは凛としいた姿勢を崩さない。
しかし、どこからともなく、ひそひそと笑い声が聞こえてくる。
「それでは、私はこちらに座らせていただこうかしら——」
透き通るような声で、セフィーナが優雅に歩を進め、皇后のすぐ隣の上位席に腰を下ろそうとした。
彼女の顔には、涼しげな笑みと得意げな色が宿る。その場にいる誰もが、わずかに息を呑んだ。
(……いよいよね)
エレノアは心の中で小さく息を整えると、静かに歩を進め、セフィーナの前のところへ向かった。
「グリディア嬢、お待ちになって」
私の声は穏やかで、しかしその響きには微かな冷たさが込められていた。
セフィーナは、ぴたりと動きを止め、振り返る。
「私に何かございまして?」
令嬢たちの視線が交錯し、広間の空気が一瞬で張り詰めた。
「グリディア嬢、何か勘違いをしていらっしゃるようね。皇后陛下のお側に最も近い席に皇女である私以外が座ることは、この宮廷の慣例に反しますわ」
微笑みを保ちながら、私ははっきりと告げた。
その言葉にセフィーナの唇がわずかに歪んだ。だがその表情はすぐに愛らしい微笑みに戻り、まるで何事もなかったかのように言葉を返す。
「まあ……これは失礼いたしました、皇女殿下。私としたことが、つい普段座っているお席を選んでしまったようですわ」
その声音には、あくまでも謙虚な風を装いながらも、皮肉の棘がひそんでいる。
広間のあちこちから、控えめながらもざわめきが起こる。令嬢たちは扇子の陰から視線を交わし、状況を見守っていた。
「……そうでしたの。まあ誰にでも間違いはありますわ」
エレノアはゆっくりと歩みを進め、皇后の隣の席の前で優雅に会釈する。
「皇后陛下、このような場において、大変失礼いたしました」
エレノアの発言にセフィーナの目がわずかに見開かれる。言葉は穏やかであるが、含む意味は明白だ。
そして、私は令嬢たちにも聞こえるよう、あえて声の調子を落とさず言葉を重ねる。
「この場の秩序は、皇后陛下のご威光のもとに保たれております。誰よりも近くで、そのお力添えをする責務が私にはございます」
その瞬間、皇后の表情がかすかに引き締まったのが見えた。助け舟を出そうにも、エレノアの言葉を否定すれば自身の立場も危うい——皇后アドミナは、そう悟った。
セフィーナは一瞬、悔しさを隠せない表情を見せたが、すぐに令嬢らしい優美な所作で一歩下がり、別の席へと身を引いた。
「まあ、皇女殿下のご高徳には、ただただ感服いたしますわ」
皇后の声は取り繕っているが、その瞳には明らかに憤怒の色が宿っていた。
広間に静寂が落ちる。令嬢たちの視線が私に集まるその中で、私は微笑を絶やさず、静かに腰を下ろした。
私が着席すると、広間の空気がゆっくりと落ち着きを取り戻し始めた。緊張の糸は完全に解けたわけではなく、令嬢たちは扇子やティーカップの陰から、様子をうかがっていた。
皇后アドミナはわずかに目を細めた。美しい微笑を浮かべてはいるが、その瞳の奥に光るものは、明らかに警戒と苛立ちだった。
「さあ皆さん、せっかくのお茶会ですもの、どうぞ心ゆくまで楽しんでちょうだい」
皇后は声を柔らかく響かせ、場を和ませようとした。だが、その言葉が響くほど、先ほどの静寂と緊迫が逆に際立つ。
セフィーナは扇子で口元を隠し、ひそやかにため息をついた。彼女の指先は扇子を持つ手でわずかに震えていた。内心の悔しさが、完全には抑えきれなかったのだ。
そんな中エレノアは冷静だった。優雅にティーカップに手を伸ばし、視線だけで皇后へと敬意を示した。