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7.アドレナ

 湖に浮かんだ赤い闘牛が走り去るとそこに波紋を一つだけ残した。他には何も残していない。何を目掛けて走りだしたのか、その思惑さえも、獣の思考は知る由がない。しかし獣になりたがっている。僕は明らかに獣に憧れている。獣のように静かに眠る、毛皮の下に粘度の高いマグマを這わせた鉄の塊。そんな獣になりたい。獣の鉄塊。僕は獣の鉄塊になっていつまでも眠っていたい。あらゆる可能性を秘め、あらゆる意味合いに包まれ、世界そのものの獣。鉄は固まり、保持された力をひた隠しに燃え滾るマグマが、不燃性の毛皮を温めてまたしても液状へ戻ろうとする。気化しても鉄塊たる獣。産声を上げず、脅かす対象もなく朝から夜を寝て過ごす獣。珍しく目の冴えた時間は刀を食らい、飛行機を食らい、銅像の心臓を食らう鉄の集合体。分解された体は延性を発揮し、各々がイモムシのように集まって獣の身体を取り戻せばすぐに眠りこける鉄の塊。獣を証明する黄金色の荒い鼻息。高潔な魂が透けて見える厚い毛皮に包まれて固まり、一生の睡眠を約束された、獣に憧れた僕は鉄の塊。赤い闘牛の湖の側、透き通った朝に吸い込んだ空気こそ獣の鉄塊。獣になりたかった。闘牛は水面に波紋を一つ残し、僕を置いて走り去ってしまった。獣の鉄塊。

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