2.ハルシネ
空に浮かぶ太陽の黒点。黒点は人型のシルエット。シルエットが関節を境に分離され、各部位を切り開いたあとから平面へと、涼しい川の水に浸されていく。その影は木漏れ日から生まれた。内側を視認可能な、単に0か1でなくその場の色を落とし、小数点刻みの濃淡を発揮する影。影はあると言い、無いと言い、そのどちらも正しく、影の内をするすると川の水が流れていく。ハルシネ―ション、存在は幻。幻覚を自覚する前の幻覚。幻覚を自覚した背景に横たわるベッドや地面や論理空間によって、再び幻覚が形を持ちだして、あたかも自らは幻覚でないような振る舞いをする幻。背中を預けた端から感触が肩を通過していく。何度も通り過ぎたはずが、遠く空に浮かぶ太陽は一向に小さくなる気配がない。雲の散った青空が渦を巻いて中心へ向かい縮小していくのに、太陽は姿を変えずにその中心で輝き続けている。今日の青空は太陽から発生していた。雲も風も飛行機もビルも、全ては太陽から生まれた存在であり、その過程や始まりや終わりを眺めていると背中に預けた浮遊感でどうしても声を上げてしまう。するとどこからか死人の声が返ってくる。向こう、世界が手に収まりそうなほどの球体になってもなおその中で太陽が収縮することはなく、そろそろ世界が太陽よりも小さくなってしまいそうだった。世界の元あった領域、その余白は認識できない。観測者とは世界の一部であり、そこには植物や動物や無機物がひしめき合い、各勢力の発する圧力が面積によって色分けを施され、たった今となっては、その世界が太陽の中心へと吸い込まれていく途中。綺麗だ。網膜が焼き切れる寸前。
男が正気を取り戻すと目には一杯の涙が溜まっていた。