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不運のおっさん殺し屋はワガママ聖女に拾われる〜最強の暗殺者は失われた人生を取り戻したい〜  作者: 犬斗
第四章 罪業の魔術師

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第33話 この世の幸運を授かった殺し屋

 三日後、俺は城に呼び出された。


「こちらの部屋でお待ちください」


 執事に案内され、会議室のような部屋に入る。

 装飾が施された木製の椅子を一つ選び座った。


「ヴァン!」


 扉が開くと、若い女の声が響いた。

 エルザの声だが、白いドレスを着ており見た目ではエルザと分からない。

 旅の間一緒だった、あのうるさいエルザとは思えないほどだ。

 世間ではこれを清楚と呼ぶのだろう。


「エルザか?」

「そうよ! こんな美少女は私しかいないでしょ!」


 やはりうるさいエルザだった。

 隣にはフェルリッサが控えている。

 エルザのお付きを努めているようだ。

 視線が合うと、少しはにかんだ笑顔を浮かべていた。


 そして、一人の老人男性が入室する。


「そなたがヴァンか。話は聞いておる。エルフリーゼの護衛ご苦労であった」


 俺に声をかけ、上座に座る老人。


「ただの仕事だ」

「ふぉふぉふぉ、聞いていた通りだな。儂はルディ。グレリリオ帝国の宮廷魔術師だ」


 千年に一人の天才魔術師というルディ。

 齢は六十前後といったところか。

 身長は俺よりも少し低く、背筋は伸びている。

 白く伸びた長い顎髭が特徴だ。


「報酬と合わせて、俺の呪術を解くという話だが?」


 老人が俺の姿を凝視している。

 少し様子がおかしい。

 完全に動きが止まり、瞳孔が開いていた。


「す、すまぬ。そ、そうじゃ。貴様の呪術を解く」

「解けそうか?」

「当然だ。今見て分かった。解析も済んだ」

「なるほど。千年に一人の天才というのは本当か」


 エルザが俺の腕を叩く。


「ちょっとヴァン! 失礼でしょ!」

「構わぬよ、エルフリーゼ」


 白い髭をさするルディ。


「ヴァンとやら、今日は私の屋敷に来るのだ。部屋を用意させる」

「いらん」

「呪術を解くのに儂の屋敷で行う必要があるのだ」

「ちっ、分かった」

「後ほど使いを出す。エルフリーゼ護衛の報酬も屋敷で渡す」

「分かった」


 半ば強引に、俺はルディの屋敷に宿泊することになった。

 危険はないだろう。

 それに以前エルザが俺の血の誓約を解いた時に、俺は意識を失っている。

 呪術を解いたらどうなるか分からない。

 ここは素直に言うことを聞くべきだろう。


「エルフリーゼよ、今日はこのままフェルリッサと三人で夕食を取るがいい」

「はい、ルディ先生。お気遣いありがとうございます」


 そう言い残し、ルディは部屋を出た。


「ふふふ。たった三日なのに、随分と久しぶりのような気がするわね」

「毎日一緒にいたからな」

「こんな美少女二人と一緒に旅ができたなんて、ヴァンさんは幸せものね」

「……そうだな」


 反論するのも面倒なので肯定した。

 それを見抜いた様子のフェルリッサが笑っている。

 そして城の客室に移動し、三人で夕食を取った。


 ――


 食事を終え、一人で宿に戻る。

 月が顔を出してしばらく経った頃、宿の扉をノックする音が鳴り響く。

 警戒しながら出てみると、執事が立っていた。


「ルディ様の使いの者でございます」


 宿の前に停まっていた馬車に乗り込む。

 さすがは宮廷魔術師の馬車だ。

 美しく繊細な装飾が施されている。


 しばらくすると、帝都の一角にある屋敷に到着した。

 四階建ての豪邸だ。

 ここがルディの屋敷なのだろう。


 執事に案内され、廊下を進み階段を上る。

 三階から四階へ向かうと、執事が立ち止まり頭を下げた。


「ここから先は、お一人でお進みください」

「分かった」


 壁には等間隔に蝋燭が並ぶ。

 揺らめく炎が影を作る。

 音はなく静寂に包まれる廊下。

 俺は足音を出さない。


 廊下の最奥まで進み、扉に手をかけ部屋に入る。

 厚みのある赤い絨毯を歩き、豪華な調度品が並ぶ部屋を進むと、一人の老人が平伏していた。


「貴様……ルディか? 何をしている?」


 様子が変だ。

 床に頭をつけ微動だにしない。


「三十五年間、あなたを探しておりました」

「何を言っている?」

「私の罪をお許しください」

「意味が分からん」

「あなたに呪術をかけたのは……私でございます」

「どういうことだ? まず頭を上げろ」


 ルディは動かない。


「頭を上げろ」

「……かしこまりました」


 俺は部屋を見渡し、応接用の三人掛けソファーの真ん中に座った。


「貴様も座れ」

「かしこまりました」


 ルディが俺の正面のソファーに腰掛ける。

 少し前傾姿勢で俯いた状態だ。

 俺の顔を一切見ない。


「状況を説明しろ」

「……かしこまりました」


 ルディは視線を下に向けたまま、声を絞り出した。


「さ、三十五年前の話でございます」

「三十五年? 俺が生まれた年か?」

「さ、左様でございます」


 声が大きく震えている。

 呼吸は荒く、動揺という表現では物足りないほどだ。


「落ち着け。ゆっくりでいい」

「はっ。ありがとうございます」


 ルディは大きく息を吸った。


「全ての始まりは……」


 声を震わせながら、ルディが語り始めた。


 ◇◇◇


 三十五年。

 ロデリック王国で、一人の女が秘密裏に子を生む。

 女の名前はマリアーナ。

 ロデリック王国の宮廷魔術師だ。


「マリアーナ様! 元気な男の子です!」

「ルディ。ありがとう」


 ベッドで横になるマリアーナと、すぐ隣に立つルディ。

 喜び合う二人をよそに、出産を手掛けた産婆たちは険しい表情を浮かべながら、道具を片づけ始めた。


「マリアーナ。あなたの手伝いをしたことを知られると……」

「ええ。分かってます。皆さん、ありがとうございました」


 早々に退室した産婆たち。

 部屋にはマリアーナとルディが残る。


「マリアーナ様。お名前をお決めください」

「生まれる前から決めていたわ。ベルベストよ。この世の幸運という意味。この子は全ての幸運を授かった子なの」

「素晴らしいお名前です。それに見てください。この魔力の器。私をも凌駕するほどです」

「千年に一人の天才にそう言わせるなんて。うふふ」


 宮廷魔術師マリアーナの弟子であるルディだが、すでにその魔力は王国一と呼び声高い。

 それでもルディは尊敬するマリアーナの元を離れず、弟子として日々勉強していた。


「おお! なんという神々しさ! まさに光の御子でございます!」


 涙を流し、ベルベストと名付けられた赤子を眺めるルディ。


「将来は王国一、いや世界一の魔術師になることでしょう!」

「うふふ、大げさよ。ルディ」

「あ、今笑いました! かわいいなあ。かわいいなあ」

「もう、あなたの子供みたいね。うふふ」


 温かな幸せに包まれた空間。

 微笑ましい師弟の光景だった。

 ……ここまでは。


 ついに、運命が扉を叩く。


 突然開け放たれた木製の扉。


「マ、マリアーナ……」

「へ、陛下!」

「それが儂の子か?」

「……さ、左様でございます」

「そうか」


 部屋に入った男。

 その背後には、ひときわ豪華なドレスを着ている女が立っていた。


「汚い! 殺しなさい!」

「タ、タスティ様!」


 寝屋に入ってきた男はロデリック王国国王サリオル・ロデリック。

 背後にいる女は王妃タスティ。


「この泥棒猫が! 怪しげな魔術師の分際で!」


 サリオルは額から汗を流すだけで、何も言葉を発さない。

 王妃に対して恐怖心すら持つサリオル。

 そのため、国王という立場にありながら、配下のマリアーナに手を出し、子まで作ってしまった。


「こ、こんな汚い生き物を産ませて!」

「タ、タスティよ……」


 辛うじて声を絞り出すサリオル。


「死ね! 死ね!」


 タスティは激昂し、赤子に向かって燭台を投げつけた。

 子を抱きかかえ庇ったマリアーナの額に直撃。

 シーツを赤く染める。

 すぐさま駆けつけるルディ。


「マリアーナ様! 血が!」

「い、いいのよ。ルディ」

「手当を!」


 手当をしようとするルディを無視し、タスティはマリアーナの前に立つ。

 悪魔のような形相を浮かべている。


「よこせ! 窓から投げ捨てる!」

「お、おやめください!」

「お前がたぶらかしたんだろ! よこせ!」


 まるで人と思えぬ形相で赤子を奪おうとするタスティ。

 マリアーナの髪を引っ張り、頬に平手打ちする。


 その様子を見ても、全く動かない国王サリオル。

 たまりかねたルディが、タスティとマリアーナの間に入った。


「わ、私が! 私が! 私が殺します! タスティ様のお手を汚す必要はございません!」

「弟子のお前が? できるのか? あ?」

「できます!」

「ぎゃははは! お前がやれ! やれ! 早くやれ!」


 心の底から嫌悪感を抱けるほどの、人間を超えた醜い笑みを浮かべるタスティ。

 それとは正反対に、マリアーナは必死な表情を浮かべる。


「ルディ! お願い!」

「お許しください。マリアーナ様。お許しください」

「ルディ! やめて! お願い!」

「お許しください。お許しください」


 ルディは赤子を抱きかかえ、窓から投げ捨てた。


小さな旋風(レスト)悪戯な風(ルマート)


 天才魔術師は小さな声で二言呟く。


「あああああ!」


 マリアーナが悲鳴をあげる。

 三階から投げ捨てられて、赤子が無事なわけがない。

 死を悟った。


「陛下! 死体を見られてはいけません。私が処理してきます」

「う、うむ」


 ルディはすぐに部屋を出た。

 階段を駆け下りるルディ。


「無事で! 無事でいてくれ!」


 タスティの動向が心配だったが、ルディは赤子の元へ走った。


 庭園へ出ると、大人の膝ほどの位置ほどで、風に守られ宙に浮く赤子の姿が見えた。

 何事もなかったように、全く動じず寝ている。


「良かった! 良かった!」


 涙を流し、赤子を抱えるルディ。


「あなた様のお名前はベルベスト様です。この世で最も優れた魔術師の御子。ですが、その名はお捨てください。申し訳ございません。申し訳ございません」


 ルディはそっと赤子を地面に寝かせる。


「今から絶対に死なない誓約をおかけします。生きて……必ず生きてください」


 ルディは赤子に向けて、持てる魔力の全てを放つ。


「全ての幸運よ! 死を遠ざけよ! ダズ・シッザル・クロプ・アンディ・トゥル! 運命の誓約!」


 史上最高の魔術師による、絶対に破られない誓約をかけた。


 ◇◇

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