表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運のおっさん殺し屋はワガママ聖女に拾われる〜最強の暗殺者は失われた人生を取り戻したい〜  作者: 犬斗
第三章 薄幸の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/37

第29話 激昂の殺し屋

「や、やっと帰れる」


 誰にも聞こえないように呟いたフェルリッサ。

 実は店主に対し、若干の気持ち悪さを感じていた。

 だが、ヴァンとエルザが一生懸命探してくれた店だと思い、全てを飲み込む。

 自分が我慢すれば、ヴァンたちは自分の心配をせずに、旅を続けられると考えていた。


「あ、あれ……」


 扉のノブに手が届く直前で、フェルリッサが前のめりのまま、うつ伏せで床に倒れた。


「あ、ああ……」


 意識が朦朧としているフェルリッサ。

 小さな口からよだれが垂れる。


「だ、大丈夫ですか!」


 店主が駆け寄る。


「フェルリッサさん! フェルリッサさん!」


 フェルリッサの背中を擦る店主。


「頭はぶつけてないですか?」


 店主はフェルリッサの頭を撫でる。

 同時にフェルリッサの美しい黒髪の匂いを嗅いでいた。


「はあ、はあ。もう初めて見た時から、この髪に触りたく触りたくて」


 フェルリッサの髪を持ち上げ、優しく撫でる店主。

 そして舌を出し、黒髪を舐め始めた。


「ああ、本当に美しい」


 髪を舐めた舌は耳に近づき、フェルリッサの頬を一度だけ舐める。


「や、やめ……」

「この薬はね。すぐに気持ち良くなるんですよ。私の虜になりますよ。今日からずっと」

「や、や……」

「ほら、気持ち良いでしょう?」


 右手で黒髪を撫でながら、汚い唇をフェルリッサの小さな唇に重ねようとする店主。


「い、いや、やめ……」

「すぐ気持ち良くなりますよ。フフ、フフフ」


 店主の荒い鼻息が、フェルリッサの頬を不快に湿らせる。


「や、やだ……。エル……様。ヴァ……様。助け……て」

「誰も来ませんよ。フフフ、フフフ」


 フェルリッサの唇に触れる寸前で、落雷のような轟音と同時に、店の扉が開いた。

 いや、開いたなんて優しいものではない。

 蹴破られ、吹き飛んだ扉が店の奥の壁を破壊した。


「な! 何ごと!」


 顔を上げ驚く店主。


「フェルリッサ!」

「ヴァ……様……」

「この香りは? あの媚薬か!」


 瞬時に薬を盛られたことに気づくヴァン。

 ヴァンは以前の任務で、麻薬から抽出された媚薬を大量に飲んでいた。

 もちろんヴァンには全く効果がない。


「貴様! フェルリッサに何をした!」


 激昂したヴァン。

 感情を表に出さない、いやそもそも感情が薄いヴァンにとって、珍しいほどの怒りだ。

 いや、人生で初めての怒りだろう。


「フェルリッサ!」


 髪が濡れたままのエルザが店に入ってきた。


「エルザ、すぐにフェルリッサを連れて外へ出ろ!」

「は、はい!」

「今すぐここから離れろ!」

「はい!」


 フェルリッサを抱きかかえ、外へ出るエルザ。

 ヴァンと行動するようになって、初めて見たヴァンの表情に驚いていた。


「フェルリッサごめんね。もう大丈夫だから。大丈夫よ」

「エル……様」

「一緒に宿へ帰りましょう。大丈夫よ」

「ごめ……さい。ごめ……さい」


 朦朧とした意識の中で、ただひたすら謝るフェルリッサだった。


 エルザとフェルリッサが店を出ると、ヴァンは店主の前に立つ。


「貴様」

「ち、違うんです! 私は仕事を教えただけなんです!」


 店主を睨みつけるヴァン。

 かつてないほどの形相だ。


「ち、違うんです! そ、そうだ! 私は雇ってあげたんですよ! 雇い主ですよ!」

「あの薬はなんだ? 麻薬だぞ」

「違うんです! 違うんです! 初めての仕事で疲れたと思ったから。そう! 疲労回復に効くんです!」

「言い残すことはそれだけか?」


 激昂したヴァンに恐れおののく店主。

 すぐさま床に正座した。


「お、お願いです。魔が、魔が差したんです。あまりに美しい黒髪だったから」

「黒髪が好きなのか?」

「そ、そうです。彼女の黒髪はとても美しいんです」

「そうか。確かにそうだな」

「フ、フフフ。そうでしょう!」


 ヴァンは店主の髪を無造作に掴む。


「い、痛っ! な、何を!」

「黒髪が好きなのだろう?」


 右手で掴んだ髪を一気に引きちぎった。

 数万本の髪が抜け、皮膚までめくれている。


「ぎゃあああああ!」


 床にのたうち回る店主。


「黒髪が好きなんだろう?」


 引きちぎった髪を、店主の体にばら撒く。

 皮膚がついた髪は、まるで抜いた芝生に付着した土のようだ。


「もっとくれてやろう」

「お願いします! お願いします! もうやりません! お願いします! 助けてください! お願いです! 助けてください!」

「貴様らクズは必ず命乞いをする」

「か、家族がいるんです! 妻が、子供が。命だけは助けてください!」


 ヴァンは棚から一本の瓶を取り出し、中の液体を店主と床に撒いた。


「こ、これは? あ、ああ! た、助けてください! お願いです! 何でもします! 助けてください! お願いです! お願いです!」

「何でもするのか?」

「はい! 何でもします! 何でもしますうう!」


 壁にかけられた蝋燭立てに手を伸ばすヴァン。


「何でもしますからああああああ! 何でもおおおおおおおお!」


 体中の体液を全て流す店主。

 正座しながら両手を組み、神に祈るような姿勢を取る。


「何でもしますからああああああああ!」

「では死ね」


 店主の体に蝋燭立てを落とした。


「貴様に運など不要だ」


 店を出たヴァンは、すぐにエルザを追う。

 フェルリッサを抱えて歩くエルザを発見した。


「エルザ。大丈夫か?」

「ヴァン! ヴァンこそ平気?」

「俺は問題ない。代わろう」


 ヴァンはフェルリッサを抱え、道路脇の茂みに入った。

 そこでフェルリッサをそっと下ろす。


「フェルリッサ。水を飲め」


 フェルリッサを仰向けにし、口に水筒をつける。

 無理やり水を流し込む。


「飲むんだ」


 ヴァンは水筒の水で、手を洗った。

 そしてフェルリッサの首を横に向かせ、口に指を突っ込む。

 喉の奥深くまで無理やり押し込んだ。


「ぐええええ」

「そうだ。全部吐け。吐くんだ」


 吐き終わると水を飲ませ、また吐かせる。

 フェルリッサの歯がヴァンの指に当たり流血していた。

 それでも構わず繰り返す。


 エルザは地面に座り込み、大粒の涙を流している。


「フェルリッサ! ごめんなさい! ごめんなさい! あなたにまた辛い思いをさせて! ごめんなさい!」


 水筒の水がなくなるまで嘔吐を繰り返した。

 涙、鼻水、よだれを垂らすフェルリッサ。

 美しい黒髪も吐瀉物まみれだ。


「フェルリッサ、よく頑張ったな。偉いぞ。もう大丈夫だ」

「ヴァン様、エルザ様。申し訳ありません。申し訳ありません」


 フェルリッサの意識が戻った。

 フェルリッサが飲まされた媚薬は、死ぬこともある強力な麻薬だ。

 まだ十五歳のフェルリッサにとっては劇薬といえよう。


 フェルリッサを優しく抱え上げたヴァン。


「フェルリッサ。宿へ帰ろう」

「ヴァン様、申し訳ありません。申し訳ありません」

「何を謝ってるんだ? もう大丈夫だ。安心しろ」

「せっかく仕事を探してくださったのに。申し訳ありません。申し訳ありません」

「いいんだ。帰ろう」


 ヴァンに抱きかかえられたフェルリッサ。

 ヴァンの背中に腕を回し、しがみつくように抱きついている。


「申し訳ありません。申し訳ありません」


 泣きじゃくるフェルリッサの涙が、ヴァンの肩を濡らしていた。


 しばらく歩くと、住人が騒ぎ始める。


「おい、火事だ!」

「あれは! 薬局か!」

「火消しを呼べ!」


 ヴァンが歩いてきた方向から立ち上る、黒煙と激しい業火。

 それはヴァンの怒りのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ