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不運のおっさん殺し屋はワガママ聖女に拾われる〜最強の暗殺者は失われた人生を取り戻したい〜  作者: 犬斗
第三章 薄幸の少女

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第23話 優しい殺し屋

 洞窟で一夜を過ごす。


 朝から外の景色が見えないほどの土砂降りだ。

 地面を打ちつける音が洞窟内に響く。


「これじゃあ移動は無理ね」

「そうだな」


 俺は雨でも行動できるが、少女二人には無理だろう。

 初夏とはいえ、雨で体温を奪われれば命に関わる。


「二人とも今日は休め」

「あなたも休みなさいよ」

「いや、俺は食材を確保する。雨はカエルが捕れるからな」

「や、やめて!」


 エルザが叫んでいたが、俺は食材を獲りに外へ出た。


 ――


 三日も続いた雨がようやく止み、次の街へ向けて出発。

 だが、峠を越える前に食料は完全に尽きた。


 ウサギが罠にかかればいいが、捕れない日は山菜やキノコで空腹を凌ぐ少女二人。

 俺と違い、何でも食べるわけではない。

 特にエルザは食材を選ぶ。


「あのねえ。皆が皆、虫を食べるわけじゃないのよ! 虫を食べるくらいなら空腹に耐えるわ!」

「そういうものか」

「そうよ!」


 エルザとフェルリッサにまともな食材を与え、俺はヘビやカエル、虫を食べる。


 それから数日経ち、峠を越えた俺たちは、ようやく王国第三の都市ノルヴァに到着した。


「や、やっと着いたわね。大変だった」

「まずは宿へ行きたいのだろう?」

「よく分かったわね」

「うるさかったからな」

「うるさいって何よ! まったくもう」


 移動中は風呂に入れず、エルザは「汗臭い! 髪を洗いたい!」と嘆いていた。


「ねえヴァン、今日は高級宿に泊まらない? ここまで大変だったもの」

「……いいだろう。初めての旅でフェルリッサも疲れただろうからな」

「あなたフェルリッサには優しいのね」

「何を言う。俺の主はエルザだ。エルザが最も大切だ」

「え? ほ、本当に?」

「無事に送り届けなければ、報酬がないからな」

「報酬ですって? バ、バカ!」


 エルザは怒鳴りながら、勝手に先へ進んでしまった。


「ちっ。狙われてるんだぞ」


 俺は誰にも聞こえないように小さく呟く。

 隣りにいたフェルリッサが、俺の袖をそっと掴んできた。


「ヴァン様、私はどんな場所でも大丈夫です」

「気にするな。行くぞ」


 ひとまずエルザの後を追う。


 ――


「え? こ、これが宿ですか?」


 エルザが選んだ高級宿の前に到着。

 建物を見上げるフェルリッサの口が、大きく開いていた。


「久しぶりに一人で寝られるわ」

「こ、こんな宿……。あの、私は違う場所へ行きます」

「ん? ダメよ。あなたも一緒に泊まるわよ」

「で、でも……その……」


 フェルリッサが妙に焦っている。


「フェルリッサ、金ならある。心配するな」

「え? あ、あの、申し訳ございません」


 フェルリッサの頬が紅潮していた。

 金を持ってないことが恥ずかしいのだろうか。

 だが、十五歳の少女が金なんて持ってるわけがない。


「お前はこの街で働き口を見つけるんだ。風呂に入り、身なりを綺麗にしておけ」

「……はい。ありがとうございます」


 受付を済ませ、三人で宿のレストランへ移動した。


「まずは食事よ。フェルリッサ、美味しいものを食べましょう」


 エルザがフェルリッサの肩に手を置いた。


 広いホールに並ぶ丸テーブルには、シルクのテーブルクロスがかけられている。

 壁には絵画がかけられ、シャンデリアの蝋燭が暖かい光を照らしていた。


「なかなかいいじゃない」

「え? こ、ここで食べるんですか?」


 フェルリッサは完全に萎縮している。


「そうよ。久しぶりにまともな食事ですもの。ちゃんとしたものを食べるわよ。それに、ここでは虫なんて出ないから安心しなさい」

「わ、私はヴァン様のお料理が好きです」

「あんなのムカデを焼いただけじゃない……」


 苦笑いを浮かべるエルザだった。


 使用人に案内され席につくと、エルザはメニューを見ながら次々と注文していく。

 若いのにこういった場所の経験が豊富のようだ。


「ここなら味覚がないヴァンでも楽しめるでしょう?」

「ああ、そうだな」


 高級なグラスを両手で掴み、恐る恐る水を飲んでいたフェルリッサ。

 その手が急に止まった。


「え? 味覚がない? ヴァ、ヴァン様、どういうことでしょうか?」

「今まで黙っていたが、俺は味覚がない」

「え? え?」


 困惑するフェルリッサにエルザが微笑みかける。


「ほら、フェルリッサ。久しぶりの美味しい料理なんだから、楽しみましょう」

「は、はい」


 俺はエルザに対し、金額を気にせず注文するように伝えていた。

 エルザはデザートまで注文。

 フェルリッサのためだろう。


「ふう、美味しかったわね」

「はい! こんな料理は初めて食べました!」

「ふふふ、良かったわ。じゃあ、部屋に戻りましょう」

「はい!」


 エルザとフェルリッサは同室だ。

 高級宿のため、部屋は二部屋ある。


 俺はその隣の部屋を取った。


「エルザ、俺は街に出る」

「分かったわ」

「誰が来ても絶対に部屋から出るな。明日の朝食の時間まで、俺はお前たちの部屋に訪れることはない」


 二人を部屋まで送り届け、俺は街へ出た。


 ◇◇◇


 部屋に入ったエルザとフェルリッサ。

 エルザはすぐに鍵をかけた。


「フェルリッサ。明日の朝まではもう部屋から出ないわよ」

「分かりました。エルザ様、紅茶を淹れますね」

「ありがとう。じゃあ一緒に飲みましょう」


 フェルリッサが紅茶を淹れ、二人はリビングのソファーに並んで座る。


「あの、エルザ様」

「なあに?」

「さっきのヴァン様の話ですが……」

「ヴァン? ああ、味覚がないって話?」

「そうです。以前ヴァン様は、私の料理を美味しいと言ってくださいました……」

「ふふふ。ヴァンなりの気遣いでしょう。たまに優しいのよね」

「ヴァン様はずっと優しいです!」

「え? そ、そう? そう……ね」


 眉間にシワを寄せるエルザ。


「エルザ様!」

「な、なに? どうしたの?」


 フェルリッサが、腿の上に乗せている両手を握りしめた。

 そして前かがみの姿勢で、エルザをまっすぐ見つめる。


「私も帝国へ行きたいです! エルザ様のお役に!」


 エルザは右手をそっと差し出し、フェルリッサの口を塞いだ。


「ダメなの」

「で、でも。あ、あの」

「あなたはここで仕事を見つけるの」


 うつむくフェルリッサ。

 両手にはさらに力が入り、唇を噛み締めている。


 その様子を見て、エルザもまた唇を噛み締めた。

 そして立ち上がり、フェルリッサを背中から優しく抱きかかえる。


「あのね、フェルリッサ。意地悪で言ってるわけじゃないの」

「は、はい」


 エルザもフェルリッサの気持ちは痛いほど分かっている。

 フェルリッサを抱きしめながら、美しい黒髪を撫でた。


「事情は話せないんだけど、この旅は本当に危険なの。あなたのためなのよ。お願い、分かって」

「は、はい。無理を言って申し訳ございませんでした」

「いいのよ。ごめんね」


 さすがにヴァンは殺し屋で、自分がスパイで、さらに戦争が起こるとは言えない。

 それに、これ以上フェルリッサと一緒にいると、フェルリッサにも危険が及ぶ。

 数日以内にはフェルリッサと別れるつもりだった。


「ほら、お風呂に入るわよ」

「は、はい」

「あなたの髪は本当に綺麗よね。どうしてそんなに綺麗なの?」

「え? な、何もしてません」

「若さかしら。やだわ」

「エルザ様の方が遥かにお綺麗です。私はエルザ様のような綺麗な大人になりたいです」

「え? やだ、何言ってるのよ。ふふふ」


 フェルリッサの手を取り、浴室へ向かったエルザ。


 エルザの本心。

 それは、フェルリッサを連れて帝国へ戻りたいと思っていた。


 ◇◇◇

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