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不運のおっさん殺し屋はワガママ聖女に拾われる〜最強の暗殺者は失われた人生を取り戻したい〜  作者: 犬斗
第二章 不遇な聖女

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第15話 熟睡を知る殺し屋

 先程から口を開かなくなったエルザ。

 このまま会話がないと静かで助かるのだが、確認事項がある。


「エルザ。さっきの諜報員が伝達した内容は分かるか?」

「内容を解析したわ。現在地、人数、あなたの性別と実力、そして私が完全に裏切ったことを伝えていたわね」

「解析ができるのか?」

「高度な魔術師になると、魔術の痕跡から内容を解析することができるのよ。魔力を失ってる今の私でも、解析くらいはできるわ」


 確かにエルザは魔術師として、恐ろしいほどの実力を持っている。

 若いのに大したものだと思う。


 その後は無言で進む。

 そろそろ日が暮れるところで、予定していた野営地に到着。

 峠道から雑木林に入った場所にテントを張り、焚き火を起こす。

 テントはエルザ用だ。


 本来は火を起こしたくないのだが、エルザがいるので仕方がない。


「エルザ。火を起こした。調理は自分でしろ」

「分かったわ。あなたはどうするの?」

「俺はそのまま食う」


 購入した干し肉と、赤ピーマンを取り出した。


「そのまま食べるの?」

「そうだ。味は分からんから、人が食えるものなら何でもいい」

「やめなさいよ。今から少しずつ味に慣れましょう。あなたの分も作ってあげるから」


 エルザの表情は戻っていた。

 だが、いつもの騒がしさはない。

 今後もこのままでいて欲しいが、口に出すとどうなるか知っている。

 たった二週間ほどだが、俺は学んでいた。


「ちゃんと調理器具と調味料を持ってきたのよ」


 大きな荷物の理由が判明した。

 エルザはバッグからナイフを取り出し、干し肉といくつかの野菜を切る。


「手際がいいな」

「料理は得意なのよ。あなたの味覚が治ったら、たくさん教えてあげるわね」

「戻ったらか……。そうだな」


 エルザは鍋に水を入れた。

 スープを作るようだ。


「ねえ、ヴァン。まだ少し時間がかかるから、あなた寝なさいよ。ここまであまり寝てないでしょう?」

「いや、見張りが必要だ」

「大丈夫よ。音の遮断くらい今もできるわ。煙と匂いは風で隠す。ゆっくり寝ていいわよ」

「ゆっくり寝る? 意味が分からん」

「え? 何を言ってるの。ただ寝るだけでしょう?」

「どうやって?」

「そうか。あなたは超一流の殺し屋か。ゆっくり寝たことなんてないのね」

「睡眠は無防備だ。最も危険な行為だぞ」


 エルザが溜め息をついていた。


「あなたって、実力も知識もあるけど、人としての根本的な部分が欠落してるのよね」

「俺は殺し屋だ。人とは違う。それに、地獄のような生活をしてきたからな」

「そうだったわね。少しずつ、ゆっくりと常識を覚えましょう」

「お前は親か?」

「何言ってるのよ。私よりも遥かに年上なのに。全く……眠りの風(ラルト)


 突然、エルザの長髪が風になびく。

 そして、周囲から草木が揺らめく音が聞こえた。


「ほら、眠くなってきたでしょう?」

「な、何をした!」


 まるで草木が奏でる楽曲だ。

 それも噂に聞いたことがある子守唄というやつか。


「くそっ!」


 恐ろしいほどの睡魔が襲ってきた。

 これほどの眠気を感じたことはない。


眠りの風(ラルト)よ。気持ち良いでしょう? ほら、すぐに眠くなるわよ」

「や、やめ……」


 睡眠は人間の三大欲求の一つという。

 俺にその欲はないが、この睡魔にはあがらえない。

 急激に重くなった瞼。

 視界が閉じていく。


 ◇◇◇


 焚き火の隣で、意識を失ったかのように寝入ったヴァン。


「ハルシールに聞いていた通り、古い時代の殺し屋って人間として育てられてないのね」


 寝息を立てるヴァンを見つめるエルザ。

 鍋のスープをゆっくりかき混ぜる。


「ヴァンは特に酷いと聞いていたけど、安眠を知らないなんて……。本当に壮絶な人生を送ってきたのね」


 エルザは手を伸ばし、ヴァンの髪を一度だけ撫でた。


 ◇◇◇


「……ン。起きて」


 遠くの暗闇から、薄っすらと声が聞こえる。

 

「……ヴァン、起きて。できたわよ」


 徐々に大きくなる声。


「ヴァン」

「はっ!」


 俺は体を起こした。


「ちょっと、驚かせないでよ」

「お、俺はどれくらい寝てた!」

「スープを作る間だけよ」

「なに? たったそれだけか?」


 信じられないほど長い時間寝ていたような気がする。

 意識は冴えており、体がいつも以上に軽い。


「熟睡できたのね。良かったわ」

「こ、これが熟睡……か」

「うふふ。熟睡でそんなに感動している人、初めて見たわよ」

「そうか?」

「はい。スープができたわよ」

「ああ」

「初夏とはいえ、峠の夜は冷えるでしょう? 体が温まるわよ。でも熱いから気をつけてね」


 エルザから器とスプーンを受け取る。

 そして、すぐにスープを口に運ぶ。


「ちょ、ちょっと! 熱くないの?」

「ん? 俺には関係ない」

「あ、あのねえ。できたてのスープは少し冷まして飲むのよ。そんな飲み方したらレストランで目立つわ。殺し屋は目立っちゃいけないんでしょう?」


 エルザの言うことはもっともだ。


「ふむ。言われてみれば確かにそうだな。こうか?」


 俺はスプーンですくったスープに息を吹きかけた。


「うふふ。そうよ、上手いじゃない」

「こんなものに上手いもなにもないだろう」


 息を吹きかけたスープを口に運ぶ。

 味は分からないが、エルザ自身美味そうに食べているので、味は問題ないのだろう。


 完食後、紅茶を淹れるエルザ。


「はい。あなたの分よ」


 エルザからカップを受け取る。

 こんなものまで持ってきていたのか。

 まるでピクニックだ。


 湯気が立つ紅茶をそのまま飲もうと思ったが、少し冷めるまで待った方が良いのだろう。


「ところでエルザ。お前の魔力は今どれくらいなんだ?」

「どれくらいって?」

「今使える魔術だ。正確な状況を把握しておきたい」

「そうね。以前のような強力な魔術は使えないわ。私の周囲の空気を少し操れるくらいよ。荷物を軽くしたり音を遮断する悪戯な風(ルマート)。少しの風を起こす小さな旋風(レスト)。それとあなたを眠らせる眠りの風(ラルト)くらいよ」

「ちっ」


 眠りの風(ラルト)は厄介だ。

 自分の意志ではどうにもならない。


「で、この状態はいつまで続くんだ?」

「半年くらいで魔力は戻ると思うわ」

「予定だと二ヶ月で帝都に着く。帰ってもしばらくは魔力が戻らないのか」

「そうね。でも、戦争はそんなにすぐじゃないもの。早くても一年後くらいかしら」

「エルザは戦場に出るのか?」

「ええ、それが私の役目。それに四元素の聖女(フォルテット)は全員、自身の部隊で出陣するのよ」

四元素の聖女(フォルテット)か。他には火の聖女、土の聖女、水の聖女がいるのだろう?」

「さすがは博識ね。そうよ。皆それぞれ魔術師団があり、強大な魔術を使うから戦争には欠かせないのよ」

「魔術の帝国と、武力の王国か」

「そうね。王国の騎士団は強力。それに、今は王国も魔術は発展しているし、禁呪にも手を染めてるから厳しい戦いになるでしょうね」


 十八歳で聖女として魔術師団を率いて戦場へ出る。

 過酷な運命と言えよう。


 だが、俺には関係ないし、そもそも関与もしない。

 俺の任務はエルザを無事に送り届けることだけだ。


「お前を無事に送り届けるのが、俺の任務だ」

「そうよ。お願いね」

「じゃあもう寝ろ。テントを使え。俺は外で見張りをしている」

「うふふ、頼もしい騎士様ね」

「ただの殺し屋だ」

「……それじゃ、おやすみなさい」


 エルザが身をかがめ、一人用のテントへ潜り込んだ。

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