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第7話 「木」の授業始まる

「今日は諸君らに、桃の苗木を配る」

 仙術の授業である「木」の最初の授業の日、先生がそう言った。


 大学はある程度、自分で受ける授業を好きに選択することができる。

 そしてその授業を習得した証である免状を百個集めると、卒業して官吏になることができるのだ。

 仙術の五行(ごぎょう)のエネルギー「木」「火」「土」「金」「水」の授業はそれぞれ必修科目で、卒業するためには必ず習得しなければならない。

 その為、今年入学した同期は、全員がこれらの授業を履修している。


 だけど明らかに今年入学ではない、もう何十年も大学に通っているような生徒もチラホラと見える。

 それらの生徒たちの姿を見て、頑張らなければと身を引き締めた。



 素焼きの鉢に植えられた小さな桃の木。

 それが全員に行き渡るのを待ってから、先生が説明を始めた。


「これから毎日、君たちにはこの桃の木に『木』の仙気を注いでもらう。この桃の木は仙界に生えている特別な桃の木なため、仙気を吸収して成長する」



 仙気で成長する木――それは仙人になる修行を始めたばかりの私たちにとって、なかなか大変そうだ。

 生徒たちはまだ仙人ではない。皆仙人を目指して修行をしているいわゆる「道士(どうし)」という存在だ。

皆ある程度仙術の修業はしてきただろうが、まだ仙気の弱い者や、「木」の仙気が苦手な者もいるだろう。



「仙気が足りずに枯らしてしまったら、今年度のこの授業は落第だ。最低限、実がならなくてはならない」

「先生! 他に合格の条件はありますか」

「第一に実が成ること。小さすぎたり、病気だったりといった明らかな異常も落第だ。あとは……仙気の質によって、色や形が違ってくるので説明は難しいが、お手本を見せてやろう」



 そう言うと、先生は既に横に置いてあった鉢にかけていた布を、勢いよくめくった。



 ――わー、可愛らしい桃の木。



 そこにはこじんまりとしているが、幹は茶色く葉の色は鮮やかの緑、美味しそうな小さな桃の実が成った木があった。

 普通の桃の木が、そのまま小さくなったようだ。


「先生、大きさは大体このくらいなものなのですか」

「個人差はある。まあ毎年見ているとこのくらいの大きさになる者が多いな」


 前のほうの席に座っている誰かが、さっそく質問をしている。

 ちょうど聞きたいと思っていたので助かった。


「色はやはり、この色が良いんですか?」

「そういうわけではない。しかし毎年他の色はあまり見かけない」



 なるほど。つまり普通の桃の木のような色で、実をつけたもの。本来の桃の木の大体五分の一サイズ。

 大体これがこの課題のクリア条件といったところだろう。



 実は五行のうち、私は「木」の仙気が一番得意だ。

 一つの単位をとることがとてつもなく難しいと言われている大学だけど、この「木」の授業はなんとかなりそうだなと安心した。




*****




 私の桃の苗木はみるみるうちに大きくなり、すぐに小さな「木」になっていた。

 色は先生のお手本と大体同じ、普通の木のような健康的な茶色。

 葉の色は私の目の色と同じ、青緑色だった。


「ふっふっふー、順調だな。見て蒼蘭! 力強くて瑞々しくて、とっても良い木でしょう」


 授業が終わって部屋に帰ると、さっそく桃の木に仙気を通すのが楽しみになっていた。

 手をかざして、木にエネルギーが循環するようにイメージをするのだ。



「機嫌がいいな」

「うん! 故郷のムラでは、よく畑で作物を育てたり、家畜を育てたりしてたんだよね。一人で勉強のために家を出てからは、何かを育てるってことがなかったから、なんだか嬉しいんだ」


 蒼蘭は人虎であると私にバレて以来、部屋では普通に話をしてくれるようになった。

 上級生の中には普通に人虎であることを隠さずに生活している生徒もいるのだけれど、蒼蘭はまだ他の人たちに言う気はないようだ。


 ちょうど蒼蘭も、自分の桃の木に仙気を与えているところのようだ。


「蒼蘭の木は、なんだか透き通ってきている気がするね」

「そうだな。俺は『水』の気が強いから、その影響もあるのかな」

「……ふうん」


 蒼蘭自身は気にしていないようだけど、蒼蘭の苗木は日に日に色が落ちて、透き通っていっている気がする。

 病気とは違う気がするけど、これは合格できるのかな? と他人事ながら少し不安になってしまったのだった。






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