6話 放課後デート
あの事から数週間経ち、翌週から夏休みとなった。
夏休みは、コンクールに野球応援、夏祭りの演奏など、吹奏楽部は忙しくなる。
今日の練習は、コンクールで演奏する曲と、夏祭りの曲を練習することになった。
そして、コンクール曲は、今日が初めてのちゃんとした合奏。
そのため、ソロオーディションの結果がしらされる。
緊張で吐きそうになるのを必死に堪えた。
「今から全てのソリストを発表する」
全員に緊張が走る。
「フルート、2年、小笠原由依」
「はい!」
オーディションまで、ものすごく長い時間練習するが、一瞬で終わってしまう。
「ユーフォニアム、3年、若月瀬奈」
「はい」
たかが1分ほどのソロのために全員が何日も頑張る。
「そして、パーカッション、1年、坂本颯人」
びっくりした。こういうものは3年生が選ばれやすかったはずなのに。
不安や緊張、その他諸々の感情はあったが、ひとまずそこでは返事をした。
「はい、」
「ソロおめでと!やっぱ坂本くん上手だよね〜!」
そう声をかけてきたのは、部長の五月雨先輩だった。
「ありがとうございます」
僕をみて五月雨先輩は言った。
「ソロ、棄権したい?」
僕の過去を唯一知っている五月雨先輩は心配をしてくれた。
ただ、もう大丈夫だ。僕ならできる。
「やります。やりたいです」
「やっぱそーこないと!」
五月雨先輩は楽しそうに言った。
「あ、そーだ坂本くん!このあと出かけよ!」
「わかりました」
家に変な形で泊まったり、朝一緒に来たりする時もあったが、何気に放課後に寄り道するのは初めてだった。
「でも何するんですか?」
「んー、とりま買い物と飯っしょー。それ以外はその場の気分!」
やっぱギャルってすごいな。
「じゃあ、今日部活6時半終わりだから、35分くらいに校門前集合で!」
「わかりました」
合奏の30分前の4時半頃に、気が強いトランペットの2年の先輩にソロメンバーが呼ばれた。
「なんで呼ばれたかわかる?」
言葉が詰まった。
自分でも何が理由で呼ばれたのかが分からない。
「すみません、わからないです。僕何かしちゃいましたか?」
その言葉が頭に来たのか、先輩は少し強く言った。
「ほんとにわかんないの?」
「はい、、すみません」
「普通ソロは3年生がやるものじゃん?だから棄権してってはなし」
その言葉に衝撃が走って、少し固まった。
でも、五月雨先輩は僕を決心させてくれた。応援してくれた。信じてくれた。先輩の期待に応えないと。
「先輩の意見はわかりました。ですが、これはオーディションをして、田中先生が決定した事なので、何かあるのであれば僕ではなく、田中先生に申してみてはいかがでしょうか?」
今までの人生で出した事ないほどはっきり、大きな声が出た。
「そーゆー綺麗事ムカつく!良いから棄権しなさいよ!」
「何を言ってんの、?」
そこに来たのは五月雨先輩だった。
突っかかってくる先輩の顔はどんどん青白くなってきた。
「坂本くん、ちょっと、2人で話すから合奏の準備してきて」
その声はとても重かった。
「はい、」
その後何があったかは、想像しかできないが、合奏に少し遅れて、先輩たちは戻ってきた。
トランペットの先輩は泣いていた。
放課後、約束の時間になった。
「お待たせ!ごめん!先生に捕まってた!」
そこに来たのはいつもの先輩だった。
「大丈夫です。さきほどはありがとうございました」
「あれね!大丈夫だよ。てか普通にソロになった人にあんなこと言うなんてサイテーだし!」
五月雨先輩は部員に対して平等で良い人だ。
「そういや今日はどこ行くんですか?」
「一緒に楽器屋行こ!」
五月雨先輩は部活が終わってからも部活のことを考えている。
部活の鏡だ。
「買うのってリードですか?」
「そだね。リードと譜面整理用のファイルとかかなー」
「わかりました。良いリードあると良いですね」
「うん!あ、せっかくだしスティックとかマレットも見る?」
「せっかくだし見てみます」
そうして僕たちは楽器屋さんに向かった。
楽器屋さんに着いたら、まずはリードを探しに行った。
「普段五月雨先輩はリードの厚さどれですか?」
「わたしは大体2.5が多いかなー」
「じゃあこれとかですか?」
「うん!これだね!」
僕はリードを五月雨先輩に渡した。
「ありがと!お会計してくるね!」
そう言ってファイルとリードをお会計をして店を出た。
結局僕は何も買わなかった。
「今って時間何時ごろー?」
五月雨先輩は僕に質問した。
「今は20時です。結構遅いですね」
「そーだねー。夜ご飯どーしよっかー」
五月雨先輩とご飯食べれたりするのかな、なんて夢のまた夢のことを考えていた。
いや待てよ。誘えばご飯行けるんじゃないか?
「よ、よかったら僕んちでご飯食べて行きませんか?」
勇気を振り絞ってそう言った。
「え、まじ!いいの!食べたい!」
五月雨先輩は予想以上に嬉しがっていた。
「でも、お母さんとかに言わなくて大丈夫?急に行ったら迷惑じゃない?」
「あー僕、母は生まれてすぐ亡くなってしまって、父は中学受かった時に転勤で海外にいるんで、大丈夫ですよ」
「そっか、わたしのうちと似てるね」
「え、そうなんですか?」
びっくりして変な声が出る。
「わたし、お父さん写真家で世界中いろんなところ行ってるし、お母さんはおばあちゃんの介護でずっと田舎だし」
先輩も家に基本1人だったんだ。
「よかったら、今後も一緒にご飯食べませんか?」
「え、いいの!夏休みとか毎日行っちゃおうかなー!」
「ま、毎日ですか?!」
「冗談!ただ結構な頻度で行くかも!」
そう言って五月雨先輩は長い金色の髪を揺らした。
五月雨先輩は少し黙り、深呼吸をした。
「どうしましたか?」
「坂本くんの家に、ご飯食べに行った時は、お泊まりしても良い?」
衝撃的な一言だった。




