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5話 オーディション



「今日から、コンクールに向けて本格的に練習していく」


顧問の田中先生が部員全体に向けて言った。

「今年のコンクールの自由曲には、フルートソロと、パーカッションソロ、ユーフォニアムソロがある」

「ソロはオーディションをし、部員全体で投票する」

オーディションと聞いて背筋が凍る。

「大丈夫?顔色悪いよ?」

話を聞いてる時に横にいた五月雨先輩は、僕に小さな声で心配した。

「だ、大丈夫、です」

「そう?キツかったら言ってね」

「ありがとうございます」

田中先生は続きの説明をし始めた。

「ソロは、上手い人にやってもらう。そのため、学年や立場は関係なく投票してもらう」

と言うことは、僕もソロをする可能性があると言うことか。



「あんたがソロ演奏したからダメ金だった、、あんたじゃなければ、」


嫌な記憶が蘇った。

中学3年生の夏、コンクールソロ奏者をオーディションで決めた。

その頃の中学は、パーカッションは8人いて、8人全員がオーディションを受けた。

投票では、1票差で僕がソロをすることになった。

関東大会の前まではゴールド金賞で勝ち進んで行ったが、関東大会当日、ソロを演奏した。

いつものように、焦らず、落ち着いて。

そう自分に言い聞かせた。

だが、緊張のあまり、ソロでヘマをかました。

その時の空気はとても重くて、今にも押し潰れそうだった。

そのせいもあってソロの後も何度かミスをした。

その結果、関東大会は銀賞。

僕のソロさえちゃんとできていれば、みんなと全国に行けたのに。

その時の部長は励ましてくれてはいたが、みんながヒソヒソと口にした。


  「坂本くんがソロじゃなければ、全国行けたはずなのに」



「坂本くん、顔真っ青だよ。休んできたら?」

五月雨先輩の綺麗な声で、僕は我に帰った。

「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます」

「わかった!行ってきて!あとで内容送るね」

「ありがとうございます」

僕は口を塞ぎながら急いでトイレに向かった。

思い出しただけで吐きそうになる。



「すみません戻りました」

トイレから戻ってきて五月雨先輩に声をかけた。

「おかえり!大丈夫?」

「はい、大丈夫です、すみません」

謝って練習に戻ろうとした僕に五月雨先輩は声をかけた。

「ちょっと待って!このあと話せる?」

「え、あ、はい」

テンパって変な声が出た。

「ありがと!じゃあ部活終わったら、図書室で待ってるね!」

五月雨先輩はそう言って、アルトサックスを持って練習に向かった。

自分も練習しよう。


「はい、これパーカッションの譜面です」

トロンボーンパートの2年生で譜面係の、禰裕樹先輩が、パーカッションの譜面を渡しにきた。

「ありがとうございます」

そう言って、パートリーダーの代わりに譜面を受け取った。

譜割りをして、その日は練習をした。

僕はスネアドラム、タムがメインの譜面を練習することになった。

オーディションまではあと3週間ある。


部活が終わって、図書室に向かった。

「五月雨先輩、遅くなってすみません」

五月雨先輩は図書室の真ん中の方の席に座っていた。

「大丈夫だよ!とりあえず座って」

僕は五月雨先輩の向かいの席に座った。

「先生がソロの話し始めた時、具合悪そうだったけど、何かあった?」

僕は言葉が詰まってしまったが、五月雨先輩は優しい声で、落ち着いて続けた。

「ゆっくりで良いし、言いたくなかったら大丈夫だよ。ただ部長として、部員のことは心配だよ」

五月雨先輩の優しさもあって、僕は中学3年の時のコンクール、あのトラウマのことを話した。

ソロをミスったこと、その後にヒソヒソと言われ続けたこと、それがトラウマになって今でも夢に出ること、それのせいで吹奏楽部に入るかも悩んだこと。

全てを話した。その時五月雨先輩は真剣に話を聞いてくれた。


「そっか、そんなことがあったんだね。辛かったよね。ごめんね。坂本くんの事、ちょっと強引に吹奏楽部誘っちゃって、ほんとごめん」

五月雨先輩は泣きながら僕に謝ってくれた。

「先輩?!泣かないでください」

泣いている女性にどう声を掛ければ良いのか、僕には分からなかった。

五月雨先輩は少し落ち着いてきてから、話し始めた。

「ここの学校の吹奏楽部は、ミスをした人を責めたりしたりしないから、大丈夫だよ」

五月雨先輩は普段とは違う声になっていた。

「わたしもね、高校1年生の頃の地域の演奏会で、サックスソロがあったんだけど、テンポはズレるし、音は裏返るし、緊張で間違えるしで、めっちゃダメダメだったんだよね」

五月雨先輩は続けてそう言った。

内心驚いた。五月雨先輩はミスとかした事ないと思っていた。

五月雨先輩は続けてこう言った。

「それでも、ここの部員のみんなは誰も責めたりしなかったし、慰めてくれたんだ。だから、ここの部員は信じて良いよ」

僕も少しうるっときてしまった。

五月雨先輩は立ち上がった。

目が赤かったけど、元気そうに笑って言った。

「あくまでわたしの考えなんだけど、一回目に失敗は二回目に成功するための犠牲的な感じだと思うんだよね!今は、周りの人も、環境も、全てが違うし、何より坂本くん、上手になってるじゃん!」

「だから、今度は成功するために頑張ってみない?」

五月雨先輩は僕にそう言って、僕は目頭が熱くなった。

僕は、立ち上がって、胸を張って言った。

「ソロのオーディション、挑戦してみます」

僕がそう言った時五月雨先輩は嬉しそうにして走って抱きついてきた。

「せ、先輩?!」

「よかった、坂本くん、部活辞めちゃったりするかもって思ったから、」

五月雨先輩は言い方だな。たかが部員1人のためにここまで思ってるなんて。

「ありがとうございます。先輩泣かないでください」

「だって、だって!」

五月雨先輩は僕に抱きついたまま何分か泣きじゃくった。

「そろそろ帰りますか?」

「ちょっと待って、わたし泣いて顔も赤いしで、今ビジュ悪いから、」

五月雨先輩は普段から可愛いし、泣いてても可愛いとは思うけど、本人は嫌みたいだ。

「なら、顔隠しながら帰ります?僕を壁にして大丈夫ですよ」

「ほんと、?じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」


そのまま僕は五月雨先輩を家まで送って、その日は終わった。

ソロのオーディション頑張るかと、決心した。



明日からも頑張ろっ!

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