車の思い出
僕の父は、ドライブをするのが好きだった。
目的地につくために地図を睨みつけながらメモを取り、計画を立てて出発することもあるが、何も考えずのんびりと車を走らせる事もある。
僕が子供の頃の時点で車のナビゲーションシステムはあったし、実際に車に積んでいたのに、父は雑誌を見ながら手書きで覚えることが好きでしょうがなかったようだ。一回も機械に頼っている所を見たことがなかった。
茶色く小さな車に、僕も良く載せてくれた。車の中ではひたすらジャズが流れており、季節によって冷たく、暖かく、だが匂いのこもったエアコンを浴びながら外の景色を眺めていた。
陽がジリジリと照りつける日もあれば、ぼたぼたと雨音を車内で感じる時もあり、灰色の景色に心が曇りそうになった事もある。
それでも父は、笑顔で、時に血の気を引きつりながら、生き生きとハンドルを握ってペダルを踏んでいた。
1番の思い出は、夜の星空を車の中から見た時、空が白みだす頃だ。どうして僕たちはそんなに早く起きたのかは思い出せない。だけど、僕と父だけの世界は、とても穏やかではだざむくて、特別で優しかった。
今は思い出の茶色い車は手元に無い。けれどもし、父と同じ車に乗っている人がいたならば、それは僕からしたらとてもとても羨ましい事だなと、考えて悲しくなった。
ありがとうお父さん。