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「貴方はどうして居なくなったの?」


 そんな言葉がふと口から出て来た。何故だろう?この人は今、目の前にいるのに。


「どうしたんだい急に」


 髪を短めに切ったばかりの彼は、アイスクリームを両手に持ったままふりかえり、私を見下ろす。


「……なんでもない」


「なんでもないじゃないよ。頭でも打った?」


 彼は細い片腕を私の前に突き出し、出来上がったばかりの冷たいアイスクリームをひとつ、手渡す。

 私はその白い塊を口の中に無理矢理つめる。案の定だるい甘さと、眼が覚めるような冷たさで頭が痛くなる。

 その様子を見た彼は慌てたような、呆れたような、なんとも言えない声を出した。


「何やってるのもう。そんなことしたら頭痛くなるの当たり前じゃん」


私は彼の言葉を返さぬまま黙り続けていると、彼は辺りを見渡し、わたしの手を握った。


「こんな所でボーってしてたら他のお客さんの邪魔になる。いこ?」


 彼は眉を下げてわざと困ったような顔を見せた。私はうな垂れるように1度だけうなずいた。


 昔からいつもこうだった。私が元気がない時は何時も彼は手を引いてくれた。大人になってもそれは変わらないらしく、私は黙り込み、彼は私の機嫌が良くなるまでどうでもいいようなことを話す。


「ここに来たのっていつぶりなんだろうね?俺が小学生だった時?……全然思い出せないや」


 寂れた商店街を歩き回り、幸せな笑顔をたたえた人々から離れるように私たちは歩く。


「なあ、あの時を覚えている? 家族みんなでアイスクリームを食べたこと」


 思い出したくない。思い出したら私の中の貴方が消えてしまう。


「あの時が俺、一番幸せだった。今日はありがとう」


 行かないでくれ、お願いだから。


「なんで今泣いてんだよ?まあ今誰も見てないから良いけど」


 彼は人懐っこく笑った。冷えた手はいつの間にやら感覚がなくなり、持っていたアイスクリームがベトベトと私の手を汚していた。


 あの日、貴方が土砂に巻き込まれて死んだあの日のことを私は嫌でも思い出した。


 消えた幻聴を噛み締めながら、私は商店街を出て一人で墓場まで歩いて行く。


 住宅街の中にひっそりとある墓場。私は朝からずっとカバンの中に入っていた花と線香を出し、貴方の墓の前に立つ。それを全て邪魔にならないところに置き、腐った花を取り出し、花瓶の水を、あまりに熱く滾った石の塊に撒く。


 それでも少し残った水で、手を洗う。もう2度と私を苦しめないでくれ、来年こそは出ないでおくれと願いながら。

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