第八話 ユキの家
しばらく歩いた後、木でできた素朴な家に辿り着き、ドワーフだろうか。6人の小人が出てきてユキ達を出迎えた。
「おおー!!おかえりユキ様!!心配した!」
「エメラルド!ごめんなさいね。この人達に助けてもらったの。足を挫いてしまって」
「そうかそうか!!お二方ありがとうございます。ちょうどシチューが温まっておりますので上がってください」
6人の小人達は宝石の名前がついているようで、皆気さくにネルとパティをもてなそうとした。
「すみません。僕たち課題があるので森を早く出ないといけないんです」
「ネルさん……。でもパティさんは薬草が必要なんですよね?私がパティさんと薬草を取りに行ってる間くらい、暖炉の前で温まっていてくださいな」
「私もつい長居してしまいそうなので……」
家の前で待ってますと言うパティを気にせず、まぁそう言わずにとユキはパティを家に招き入れた。
それを見た小人達もあれよあれよとネルを招き入れる。
リビングには暖かい暖炉と美味しそうなシチュー、濡れたネルが暖まれるよう椅子が置いてあった。
「ネルさんはそこで待っててください!パティさんはこちらです」
どうやら地下室があるようで、ユキがこっちと手招きする。
「ユキさんごめんなさい。私ネズミだけど暗くて狭い場所が苦手なの。ここで待っていても良いかしら」
「あらそうなの?でも私のコレクションもちょっと見て欲しくて。階段は短いから大丈夫よ」
そう言うと、ユキはパティの手を引いて階段を降りる。
ネルの目の届かないところに行くのは不安だったが、ここまでされるとパティは断れなかった。
地下室は意外と広く、たくさんの薬草やキノコが貯蔵されている。
それに薬草だけではなく、綺麗な装飾がされている鏡などユキが集めている物も置いてあるようだった。
「ユキさん、すごいコレクションね。私が探している薬草はありそうかしら?」
「ありがとうパティ。その奥の緑色の壺に入っているからとってみてくれませんか?」
パティは言われた通り、緑色の壺を手に取った。
すると地下室に魔法陣が浮かび上がり、ドアがガチャンと音を立てて閉まってしまった。
「……え?」
ユキがいたはずの場所にいない。
『用心深いけど推しに弱いネズミで良かったわ』
パティの頭の中にユキの声が直接語りかけてくる。
「どっ、どういう」
『ネズミちゃんはこの部屋で大人しく待っててね。私、ネルくんが気に入っちゃったの』
置いてあった鏡が光だし、リビングの映像が映る。
『目の色がとっても私の好み。彼はあえて自分の魅力が表に出ないようにしてるみたいね。そういうわけでネルくんには私の虜になってもらうことにしたから、貴女はその一部始終を指でもくわえて見ていれば良いわ』
「とっ虜!?ネルに変なことしないで!!」
パティはドアを開けようとしたがドアノブが回らない。
体当たりしても体が痛むだけだった。
『ちょっと自分を傷つけるのはおやめなさい。貴女は後で小人達にスープにしてもらう予定なんだから。
ネルくんと楽しんだ後、彼にも小人の1人になってもらってずっと一緒に暮らすの』
聞き捨てならない言葉にパティの背筋が凍った。
あの6人の小人は元々人間だったということだろうか。
「ちょっ!あんた一体なんなのよっ!!やめなさいよ!!」
『じゃあ私は忙しいから。ネズミちゃんまたね〜』
そう言い残すとユキの声は消えてしまった。