第五話 もさもさのネル
「ねっ!!ネル!??」
「……なんか嫌そうな顔してない?」
「いや……別にそんなことないけど」
パティの横にネルが座った。
あー今いいところだったのに!!と愚痴をこぼしそうになったが、ネルを見てその言葉がひっこんだ。
雨が降り始めてすぐ引き返してもよかっただろうに、彼は律儀に自分を探してくれたのだと思うとなんとも言えない気持ちになった。
いつももさもさな髪の毛に隠れてよくわからなかったが、ネルの目は明るいグリーンで男性だがまつ毛が長く綺麗だ。
「ネル、なんで私が森に入ったってわかったの?」
「……今日1年生は特別授業があったんだけど、偶然森に入っていくパティさんが目に入ってね」
「……」
パティは自分の失態に頭を抱えた。
なぜ授業を忘れていたのか。補習確定である。
しかもネルに見られて、きっと彼は罪悪感からついてきたのだろう。こんなに雨にまで濡れてしまって。
早く戻りたいのは自分の我儘なので、ネルを巻き込むつもりはなかった。
「その様子だと薬草は見つかってないみたいだね」
「……まだ見つかってない。でも植物に詳しい先輩もこの森って言ってたし、さっき不思議な声が聞こえてこの森で見たって聞けたから、この森にはあるんだと思う。
ネル、せっかく来てもらっておいて悪いんだけどそんなに濡れてたら風邪ひいちゃう。だから先に帰って大丈夫だよ」
それを聞いたネルがなんとも言えない表現を浮かべた。
「パティさんだって雨で濡れてる。僕が原因だからなんともいえないんだけど、どうして人間に戻ることを急いでるの?待てば薬草は手に入るんだよ」
パティは言いたくなかったが、ネルに納得してもらうため、ぽつりぽつりとダンスパーティのこと、ダイアンのことを話し始めた。
「……確かに2週間後だと来週のダンスパーティには間に合わないけど」
「だから今薬草が欲しいのは私の我儘なの!だからネルは気にしないで!!」
ネルの眉間に皺が寄る。
「ダイアンを追って同じ大学に入るとか。そんなガッツがあるならさっさと告白してもよかったんじゃないの?」
「……もし振られちゃったら今の関係も壊れちゃうでしょ?それが怖くて」
「で、恋が実るジンクスがあるダンスパーティに賭けようと?」
「もしダンスパーティで振られちゃったら、『ジンクスが本当なのか試したかっただけ!嘘だよっ!』で逃げられるかなぁと思って」
ネルが濡れた髪を少し整える。
「大婆様が言ってた解毒方法だけど、薬草を見つけて飲んだところでその後パティさん、やれる見込みあるの?」
「え?」
やれる見込み?一体何のことだろうか。
パティがネルに聞こうと思った矢先に、カーンカーンと何かを打つ音が木のウロに響き渡った。
すかさずネルがじっとして、とパティを背中に隠すよう動く。
夜の森には魔物が出るとは聞いたけれど、今はまだ昼過ぎだ。
音が止んだかと思ったら、今度はドスンっと大きな音が響いた。
「……??何か木から落ちてきた?」
ネロが短剣を持ち恐る恐る外の様子を確かめる。
落ちてきたのは、魔物ではなく頭の赤いリボンが似合う華奢な少女だった。