第四話 森の中
……こない。
パティが森の前に来てすでに1時間が経過しようとしていた。
あんのキツネ野郎〜とパティが小さな手で握り拳を作っていると、スズメが1羽頭にとまった。
『パティちゃんごめんね。出る間際に教授に捕まっちゃって。間に合わないから先にできることをやってて』
言うだけ言ってスズメが飛び去る。
どうやらレインが魔法でスズメに伝言を頼んだらしい。
パティはまだ1年生なのでこの魔法は使えない。
一方的に告げられる言葉にパティはため息をついた。期待させておいて落とされるとちょっとがっがりくる。
危険かもしれないが、そもそもレインから申し出が無ければ1人で行く覚悟はできていた。
がんばるぞーっとネズミらしく顔をクシクシし、パティは気を取り直して森へと入っていった。
森の中の木々は思ったほど密度が高くなく、太陽の光がよく差し込んでくる明るい場所だった。
空間が開けていて探しやすいが、目当ての薬草は小さくたんぽぽくらいのサイズらしい。
パティは地面に目を凝らしながらどんどん森の中へ進んでいった。
「……どの辺りにあるんだろう」
探し回って足が痛くなって来た頃、パティは薬草についてもっと調べてからくれば良かったと後悔した。
明るい場所にあるのか暗い場所にあるのか、それとも水場の近くにあるのか全く検討がつかない。
レインを当てにしていたのもあるが、勢いだけで動いてしまう自分の性格を呪った。
「……もっと計画性がないとダメだわ」
先程まで晴れていたというのに、ついにはぽつりぽつりとパティの鼻に雨粒が当たり始める。
「……これも出かける前に天気を確認しなかった私が悪いのかしら」
通り雨だといいんだけど。
パティはとりあえず大きな木のウロを見つけるとそこに駆け込んだ。
◇◇◇◇
『にいちゃん雨冷たいね』
『そうだね。体を震わせると少しはましになるよ』
木のウロの中で少し眠っていたパティは、小さな話し声で目を覚ました。
……誰か人でもいるの?
『あっ。彼女、目を覚ましてしまったようだね』
声のする方に目を向けても人なんていなかった。
まさか魔法のせいで幻聴まで聞こえるようになってしまったのだろうか。
『こんにちは!』
「こっ……こんにちは……」
ついに目に見えない誰かが挨拶までしてきた。
幻聴というよりはやはり声をかけられているように聞こえるため、パティはとりあえず応える。
もしかして魔法を司る妖精?
稀にこの世に存在するという妖精が気まぐれに声をかけてくることがあるらしい。
もし妖精に会ったら丁重に扱いなさいというのがこの国の慣わしである。
魔法は気分屋な妖精からの気まぐれな贈り物。
厄介なところもあるが世のことは人間よりも良く知っているそうだ。
「雨は嫌ですね。お姿が見えない中申し訳ないのですが、この森でイチョウの葉っぱの形をした空色の薬草を見かけませんでしたか?」
『ふふ。……あの薬草なら確かにこの森で見かけたことがありますよ。でも……』
そこまで言ってその声は途切れてしまった。
ガザガサという音を立てて、誰かが近づいてくる。
他者の気配を察知したのか声の主はどこかに行ってしまったようだった。
「……こんなところにいた」
良いところだったのに誰だと思っていたが、その姿を見てパティはびっくりした。
声の主は雨でびちょびちょになったネルだった。
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