第三話 薬草の手がかり
パティはそれからというもの、大学じゅうの友達に薬草のことを聞いて回った。
ある友達はパティの姿を見て涙を流し、またある友達はそっちの方が可愛いんじゃないなんて悪い冗談を言ってきた。
なかなか掴めない手がかりとひやかしの言葉に、パティも心が折れそうになっていた。
友達の友達やその知り合い、家族を含め54人に薬草のことを聞き終わった頃、1人の男子生徒がパティに話しかけてきた。
「こんにちは。可愛いネズミちゃん。美味しいピーナッツはいかが?」
「……遠慮しておきます。何の用ですか」
金髪で鼻筋が通っており、いかにも女性に人気がありそうな綺麗な顔立ちをしている。
切れ長の目はまるで狐みたいだとパティは思った。
「それは残念。俺はダイアンの友達なんだけど……ってそんな怖い顔しないでよ。本当だから」
「……うーん」
こんな軽いノリのチャラチャラした男が、あの優しくて温厚なダイアンの友達?
パティはにわかに信じられなかった。
「ダイアンってさぁ見ると気絶するくらい苦手な動物がいるよね?」
「……」
「大学には野生のやつあまりいないし、このことを知ってる人はそう多くないと思うんだけど」
「……私に何の用事ですか?」
確かにこの男子生徒が言うことは間違っていない。
「もー!最初の話しかけ方間違えちゃったな!そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。
俺はレイン!!ダイアンがいつも話してるパティちゃんと仲良くしたいだけなの!それに君薬草探してるんでしょ!!」
狐顔の男子生徒レインは頬を膨らませ、ぱたぱたと腕を振った。
ピーナッツとか馬鹿にしているのかと思っていたが、どうやら素であの行動をとっていたらしい。
イケメンだからなんとか見てられるなぁと思うパティだったが、薬草という言葉を聞いて彼を見る目を変えた。
「そうなんです!!薬草のことを知っているんですか!?」
「ああもちろんさ。俺は植物生態学の研究室の学生だからね」
パティの目に光が宿る。
なぜ今までその考えに至らなかったのか。大学には植物を専門とする研究室があったではないか。
「もしかして、私が欲しい薬草をお持ちなんでしょうか!?」
「いや残念ながらもってない」
「…………」
「そんな目で見ないでおくれよ。生えている場所なら知っている」
レインが言うには、大学の裏にある森にその薬草が生えているという。
普段研究室活動で出入りしている森だから、入ることに関しては問題ないだろうとのことだった。
「教えてくださって大変ありがとうございました」
「いえいえ!ダイアンが目にかけている子だし、力になれてよかったよ!もし良かったら一緒に森に入ろうか?」
またとない申し出にパティは悩んだ。
先輩であるレインにわざわざついてきてもらうだなんて申し訳ないし、そもそも彼をまだ完全に信用しきれていなかった。
ただ、レインが自分を騙す理由やメリットが思いつかないし、魔法大学1年生の自分が1人で森に入るのは危険かもしれないというのも事実だ。
パティはしばらく考えた後、レインの申し出をありがたく受けることにした。
「その代わり俺も探してる薬草があるから見つけたら教えてね?」
「……もしかして最初からこれが目当てでした?」
「そんなまさか!どっちにもメリットがあってwinwinでしょ?授業がないから明日、森の前に集合で」
レインは笑顔でそう言うとパティの頭をぐりぐり撫でた。
パティのネズミ姿を見て不衛生だと言う人もいたが、この人はもふもふの毛に触りたい人だったようだ。