野田福島の戦い6
「えっと・・・もしかしなくてもあなた様は千宗易様でお間違えなかったでしょうか!?」
「如何にも。ワシは宗易。して、あなたは?」
「大橋兵部少輔暁と申します」
「ではもしよろしければワシに先程の民の事など聞かせてはもらえぬか?」
この人って茶人だったよな!?
「あぁ。大橋殿?この千宗易殿を甘く見るなよ?堺の豪商の1人且つ、納屋衆、座でもあり問でもある方ぞ」
「河尻殿?ワシはそんな大した者ではない。誇張されますな」
俺はそれからこんな場所だけど千利休に俺が考えている事、小雪が考えている事を言った。信長が武を以て他国を制圧していけば必ず孤児や家を失い行き場を無くした人も現れるだろう。その人達を織田で雇い衣食住を与え織田の仕事をしてもらおうと。
「そんな綺麗事、言葉ではなんとでも言えよう。だが実際できる者は居らぬ」
「それをやるために私は織田様から何をしようが咎められません。回り回って私は今色んな人を集めて居ます」
「人材登用か?」
「まあ簡単に言えばそうです。下々の民が潤うという事は国力が上がるという事です。簡単に説明致しましょう」
気付けば白熱して話していた。まずは一次産業だ。農業、漁業、林業、畜産、酪農だ。
「畜産・・・とは肉の事か?」
「そうです。織田では肉を平気で食べます。むしろ食べた方が体に良いくらいです。宗教上食べれない人に無理強いはしませんが。続けますね」
その次は二次産業だ。製造業、建設業の事だ。
「そのような事は絵空事ではないのか?そもそも何故それが国力に匹敵すると言える?」
気付けば河尻さんも黒川さん達も真剣に聞いているな。
「まず人を集めてさっき言った一次産業を織田家主体で行います。織田家は今後、銭にて税の支払いをしてもらう予定です」
「銭か・・・。だが払えぬ者はどうする?」
「それはその人の収入により変える予定です。まあ、3公7民でも汚職や賄賂がなければかなり織田家は潤うでしょうね」
「なに!?3公だと!?たったと3公で国として成り立つだと!?」
「誇張して言いましたがこれは基盤が出来上がればです。まず、農業や漁業が盛んになり余剰分ができれば他国に売る事もできます。更にその余剰分を民達が買ったとしましょう。これで食いっぱぐれはなくなりますね?」
「当たり前の事だ」
「まず一揆とは何で起こると思いますか?私は食い物に関しての不平不満。度重なる税の取り立てによる不満だと思っております」
「その通りであろうな」
「食が溢れれば人は余裕ができます。その食と職を求めて織田に人が集まるでしょう。そうなれば家が必要になります。家は木材で作るとして林業が盛んになるでしょう。すると次は生活する上で衣服も必要になりどんどん波及していけば・・・・人が更に集まり、税収が増える。と簡単に言えばこんなもんですかね」
「だがそのような事、他国が攻めてくればどうなるというのだ!?」
「そんなの簡単ですよ。蹴散らすだけですよ。そのための兵器開発、運用は私に任されております。そのための官位でございますれば」
「ははは!中々白熱されましたな?大橋殿が熱が入るところを初めて拝見できました!いやぁ〜愉快!愉快!意外にも弱者の事を見ておられる。某は感動致しておりますぞ!」
「河尻殿が他人に興味を持たれるとは珍しい。ワシも大橋殿の事を更に知りたくなった。もし・・・よければ今度、茶でも一杯進ぜようと思うがいかがかな?」
「ありがとうございます。もし機会があるならば頂戴しとうございます」
いやまさか未来の茶聖のお茶が飲めるとは・・・。特段茶に興味はないが楽しみだ。
「宗易殿!もしよろしければ某にも一服よろしいでしょうか!?実は先日、唐物の茶器を購入致しまして・・・」
「河尻殿が唐物を!?では大橋殿との折にご一緒に」
「聞いたか!?大橋殿!あの宗易殿の茶が飲めるのだぞ!?」
やっぱこの時代で茶が飲めるのはステータスなんだな。侘び茶・・・一言で言えば質素な茶だよな!?
俺はインベントリーから無料で引ける日替わりガチャから出たゲーム内では贈り物にしか使えない【茶器セット】を出した。
「宗易様?もしよろしければ・・・柄も何もない茶器で大した物ではありませんがどうぞ。唐物でもなく、むしろ私もどこ産かすら知らないですが」
うん。本当は運営産だけど。
「これは・・・これはどこで手に入れましたか!?」
おっ!?めっちゃ食い付いて来てるぞ!?
「織田様に聞き、許しが出れば私の事を教えましょう。それまでは内緒という事で。ご容赦ください」
「・・・・うむ。そう致しましょう。ではこれは大事に使わせていただきましょう」
そう言って千利休は消えて行った。
「河尻様?あの人の家は近くなのですか?」
「確か堺の方に屋敷があるはずだからここから数刻・・・・いや失礼。半日もしないくらいの所だぞ」
「暁様?すずはお腹が空きました!」
「あっごめん!ごめん!いっぱい働いてくれたからな。そうだな・・・ラーメンでも食べる?」
「らーめんとは?」
「あっ、河尻様は初めてでしたね。では作りましょうか」
例の如くインベントリーに入っている鍋と水で火はそこら辺にいっぱいある木を直火で燃やしラーメンを作った。オーソドックスな醤油ラーメンだ。なんなら頑張ればこの時代でもラーメンくらいなら作れそうな気はする。
「これは・・・うどん?ではないな・・良い匂いがする」
「伸びない内にどうぞ。黒川さんも千代女さん達も食べてくれ!」
「「「「いっただきまぁーーーす!!」」」」
ズルズル〜 ズルズル〜
「これです!これ!暁様!以前セバスチャン様に出していただいた、にんにくましましみそらーめんなる物よりこちらの方が上品な味がして美味いです!」
「私もこのらーめんなる物が美味しいです!」
なんちゅうもんをセバスチャンは食べさせてるんだよ!?ガチムチに黒川さんをしようとしてるのか!?
「河尻様?お味の方は?」
「美味いッッ!!ただそれだけである!!!もしよければお代わりを所望したいのだが・・・」
「ははは!気に入ってくれましたか。分かりましたお代わり作りますので少しお待ちをーー」
「ほう?なんぞ知らぬ美味そうな匂いがすると思い早馬より駆け上がって来たが・・・河尻?お主が居て何をしておるのだ?そして何を食っておるのだ!?」
「お、お館様ぁぁ!?ブッブボォ・・・」
「河尻!見苦しいぞ!!」
いやいや来るの早すぎじゃね!?しかも驚いて河尻さんラーメンでむせてるぞ!?
「ちょうど良い。ワシにもそれを寄越せ!食いながら聞こーーうん?そこに居るのがそうか・・・」
「信長ぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「気安く呼ぶでないッッッ!!!!小物がッッッ!!!!大橋!此奴は目障りだ!早急に斬首!此奴は以前遊興にばかり力を入れ家臣を守りもせず民を盾にした愚か者ぞ!」
「分かりました」
俺は佐助だけを伴い見えない所に斎藤龍興を連れて行った。
「ま、待て!待ってくれ!」
「佐助?既にこの時代で散々人を殺したけど、なんだろうな・・・斬首と言われれば斬れる気がしないんだけど・・・」
「暁様はゲームでも優しい方でしたからね?斬首を選択する事は少なかったですよね〜。我がやりましょうか?」
「待て!げーむとはなんだ!?お前は何者なんだ!?」
ここでこの人を俺が斬れば本格的に現代には帰れない気がする。けどしなくてももう帰れない気もする・・・。
「チッ。そこに居たか・・・」
「織田様・・・・」
「殺れ。出来ぬなら出来ぬと言え。ワシは出来ぬ者に任務は与えぬ。出来ると思うからこそ任務を与えている。お主が出来ぬと申すならワシの勘違いというまでだ」
「・・・・・・・・」
「信長!いや信長様!二度と逆らいません!命だけは!!!」
「大橋ッッッ!!!!!!」
俺は自分に疑問を持ちながらセバスチャンに作ってもらった太郎太刀を抜き斎藤龍興の首に刀を当てた。
「ハァー ハァー ハァー」
何もしていないのに全力疾走をした後のようだ。これでも平静のお守りのおかげか・・・。
暫し全員無言の時間が流れ俺は決心した。信長に失望されたくない?違う。佐助に馬鹿にされたくない?違う。散々銃で人を殺したが俺に敵意がない無抵抗の者を殺すのは初めてだからか変な感情が駆け巡るが本当の意味で過去を・・・リアルと決別する意味で俺は太郎太刀を振りかぶり首を斬った。
ズシャン
俺は斎藤龍興のさっきまで繋がっていた首を茫然と眺める・・・
「よくやってくれた。此奴には散々煮湯を飲まされた。お主が現れるより少し前の事だ」
そう言い肩を2、3回叩かれさっきの場所に促された。




