やはり嫌いな公家
いや来るわ。来るわ。いったい何人呼んだんだよ！？
「ほほほ。このような催しに麿を呼んでいただくとは」
誰だ？麿と言うから公家の人か？
「お初にお目に掛かります。この度はこの饗宴にきていただきありがとうございます。この家の主、大橋兵部少輔暁と申します」
「ほほほ。麿は二条晴良である！図が高いぞよ」
え！？二条晴良って関白じゃなかったっけ！？こんな大物が何で岐阜に居るの！？
「はっ。申し訳ありません。関白様とは露知らず」
「冗談じゃぞ！ほほほ。将軍と織田殿の事を聞いてのう？麿が間を持とうとな。ほほほ」
なんか言い方がムカつくな。馬鹿にしたような言い方だな。
「あれは将軍が約束を守らずーー」
「あぁ〜良い良い！其方は従五位下だったであろう？麿は従一位。格が違うのだよ格が。此度はわざわざ足を運んでやったのである！はよう案内致せ！」
この人は典型的なダメな人だ。政治の事は上手なのか知らないけど友達も居ないタイプだな。
「二条様ではないか！」
「ほほほ。織田殿と将軍と何かあったようで岐阜に参れば小姓の堀だったかのう？彼奴にこの饗宴の話を聞いてな？麿が参ってやったのじゃ！ほほほ」
「岐阜に参っているとは知らず申し訳ない。さ、さ！こちらへどうぞ！」
「麿は武家と同じ席には座らんぞえ」
いや、信長は来てると知ってればと言ってはいたがあまり慌ててる感じじゃないな。わざとか！？利害関係が一致してるだけの関係のような気がするな。
その後は自己紹介されてもまったく分からない人も居れば、福冨秀勝という人や菅谷長頼という微かに名前だけ覚えてる人も居た。
「大橋！粗方客は来たと思うぞ！」
いや前田利家に呼び捨てされるくらい仲良かったか！？
「分かりました。では向かいましょう！」
結局110人くらいかな？かなりの人が来たな。
「小雪？全員来たみたいだから始めよう！席の方だけどーー」
「織田様と二条様を一段上に同席にしました。現在は前菜としてサラダとスープをお出ししています」
「さすが！みんなの反応は！？」
「かなり上々のようです。二条様は『武家と同じとは！』と言っていましたが織田様が言い包めて今は皆と堪能しております」
「オッケー！じゃあ俺も運ぶの手伝うよ！」
「ありがとうございます。ではお願いします」
ってか、よくもまあこんな人数の飯を用意できたな。小雪様々だな。
俺はマイク片手に晩餐室に入り喋った。
「お待たせ致しました。今宵は私の家に御足労いただき誠にありがとうございます。野菜だけでは腹は太らないでしょう。これより皆様が見た事ない食べ物をお出しし、酒も飲んだ事ない物をお出しします」
「大橋！期待しているぞ！」「暁殿！これでもかなり美味いですぞ！」「4種類ある汁を葉っぱに掛けると食べた事なくなるぞ！」
いや最初の二人誰だよ！？ドレッシングは1種類だけでいいだろう！？
「ははは！ありがとうございます。ではお持ち致します。いかんせん、家臣や家の者が居りませぬ故に給仕が目上の方からになります。御了承の程よろしくお願い致します」
俺は当たり障りのない挨拶をしてさっそく信長、二条の膳から運ぶ。
「なんと！見た事ない料理ではないか！おっと・・・失礼。麿とした事が少々慌ててしまいました」
「この場は非公式な場にて本日は二条様は来られて居りません。今宵は岐阜でご堪能くだされ」
この人にも信長はおべんちゃら言うのか。そりゃ関白だもんな。
「これ！料理人！其方が将軍の室を断った・・・」
「はい。大橋左衛門尉小雪と申します。本日の料理を暁様とお作り致しました。どうかごゆるりとお過ごしください」
「ほほほ。良い女子ではないか。どれまずは一口・・・まさかっ！！大橋左衛門尉！」
「はい。小雪でかまいません」
「女子に呼び捨てはいかん！小雪殿？この料理はどこで！？このサクサクっと音がなる物がたまらん！そして、獣肉と少し忌避感は未だ残るが武家と同じ物を食さねば武家の考えは分からん！この味・・・麿が食した物で一番の美味さである！」
「ありがとうございます。料理人冥利につきます」
「小雪！これがトンカツという物か？これ程臭みのない肉は初めてじゃ！黒い汁も中々に良い！そして、ワシは酒は苦手だがこの酒はいけるな！米臭くない」
「簡単に酒瓶の中に牡蠣貝殻を入れると澄み酒が作れますよ。もっとも、その酒を更に濾して少し火入れし、上に溜まった水滴を別の容器に入れると更に強い酒ができあがります」
「今なんと言った！？二条様！！？今のは聞いていないな？そうですな！？」
いやいきなり凄い剣幕になったぞ！？酒の事くらい大丈夫だろ！？
「澄み酒は寺連中らが秘匿しておるのだ！その事はまた後で紙にでも書いて知らせよ！早急に作らせよう」
「分かりました。では他の方にも御配りしてきますね」
俺と信長、二条と話していたら必然的に他の人に配るのが遅くなるが特にブーイングなんか起きず静かに待っている人も居たが酒に既に溺れかけな人も居た。
「やっと来たか！いや悪い！今のはお館様に内緒だぞ？」
「佐久間様すいません。急いでいるのですが手が足りなく・・・」
「良い！良い！皆もこの酒を飲んで待てば良いのだ！それ程までにこのびーるとやらが美味い！色合いもさる事ながら金色の酒だ！」
「ははは！ありがとうございます。これからもよろしくお願い致します」
「森様お待たせ致しました」「飯尾様…」「万見様…」
俺は名前を覚えるために最初に相手の名前を言い膳を出した。この提案は小雪の提案だ。ただ、名前を言えば一言話す。この一言が長い。みんなに早く料理を出さないといけないのに・・・。
「疲れた・・・」
「クスッ！お疲れ様です。後はみんなが程々に酔ってからデザートをお出しするだけですよ」
「そうだな。俺より小雪の方が疲れてるのに悪いね」
「いいえ。私は疲れないので大丈夫ですよ！さっ、皆様とお話しして友好を築いてください！羽柴様や柴田様、丹羽様とは特に仲良く、森様は今後起こる事を暁様が回避したいならば対策を練ります」
宇佐山城の戦いか。確かもうすぐの話だよな。個人的には回避したいよ？けどどうだかな・・・本格的に歴史が変わる事になるが・・・。
「ここに居られたか」
「え！？森様！？どうされましたか！？何か不備がありましたか！？」
「いやいや、これ程の人数を歓待するのにさぞ疲れたであろうと思ってな？お館様と二条様は少々白熱して話しておるし、他の連中はやれ酒が美味い！びーるなる物の方が美味い！うぃすきーなる物の方が美味い！とこっちもこっちで白熱しておってな？」
「まあ好みですからね。それで森様は？」
「労いと手伝える事はないかと思ってな？」
この優しい言葉の一言で俺は森可成を助けようと思った。歴史が変わるだろう。既に変わってしまってるかもしれない。どうなるか分からないが新参の俺にも優しくしてくれ、馬鹿にもしないこの大きな男を守ろう。
「ありがとうございます。後はデザートだけなので大丈夫ですよ。あっ、小雪？」
「はーい！あっ、森様すいません」
「奥方も居られたか。これは失礼を致した」
「森様はわざわざ疲れただろうと手伝いに来てくれたみたいだよ。せっかくだから、織田様に出したケーキを出してあげてくれる？」
「はい！」
「けーき？それはなんだ？」
「食べたら分かります！かなり美味い甘味ですよ！」
「お待たせ致しました。どうぞ！」
「これも見た事ない物だ。甘い！甘いぞ！これをけーきと言うのか！？白い液とも言えん、汁とも言えん物がとにかく美味い！何個でも食えそうだ！ワシにだけ構わないのか？」
「森様？話す事があります。手短に言います」
