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花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
最終章~桜~
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桜④

長野駅の改札を出ると雨が降り止むのを待つ人達が多くいた。雨粒をまとった傘のせいで駅構内の床は水浸しになっている。スニーカーを履いて来て良かった。

待ち合わせ場所は店にしようと向こうから提案してきた。カフェ“ EVAエヴァ ”は雑居ビルの3階にある。エレベーターを降りると薄暗い廊下で間接照明が店の看板を照らしていた。店内はバーのような空間になっていてソファー席がいくつかあり広々としている。軽快なボサノバ音楽が流れているせいか店内は話し声で賑わっている。店員が人数を聞いてきた、知人がすでに中にいることを伝えてフロアを歩いた。ナオさんは奥の窓際席に座っていた。

「こんばんは」

窓の外を見ていた視線を私に移すとナオさんは表情を硬くした。

「来てくれてありがとう。ご飯、まだ食べてない?」

「食べてませんけど、飲み物だけでいいです」

冷たい口調になった。店員を呼んで私はホットのカフェラテを注文した。店員が離れると、ナオさんは組んでいた指をゆっくりと解き手を両膝に置いた。

「まずは謝らせてほしい。申し訳ない」

どう返事をしていいかわからない。

「誰に頼まれたんですか」

「名前は言えない」

「横山 亜由美ですよね?」

すかさず名前を出した。ナオさんは否定しない。

私は鞄から封筒を取り出し写真をテーブルに置いた。柳瀬さんの車に乗っている時に撮られたものだ。

「これもナオさんが撮ったんですか」

「……これは僕じゃない。この間が初めてだった」

「本当の事言ってください」

「信じてもらえないならそれはそれでいい。この写真は何?」

親しげな響きが私の知っているナオさんに影を落としていく。

「この写真のせいで苦しめられてる人がいるんです」

「それって誰?」

「会社の先輩です、婚約してました。その先輩が退職して最後に会社へ来た時この写真を私のデスクに置いていったんです。写ってるのはその人の婚約者です。この写真のせいで誤解されて……」

封筒から紙を出して広げた。

“橋詰夕夏を信用してはいけない”の文字をナオさんは訝しげに見た。

「ナオさんが知ってる事、全部教えて下さい」

「ごめん、何も知らないんだ」

「どうしてですか?理由も知らないのに頼まれた事引き受けるなんておかしいじゃないですか」

「確かにおかしいよね」

ナオさんは苦渋の笑みで口を歪めた。

「この封筒をその人の家に投函したのは僕だ」

店員がカフェラテを運んできて目の前に置いた。私は水の入ったグラスを掴んだ。



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