恭也①
仕事中ずっと横山さんの存在が気になって仕方なかった。夕方にはナオさんから明後日の夜に会わないかと誘いのメールが来た。わかりました、とだけ返信しておいた。横山さんに話が筒抜けになっているかもしれないと思うと気味悪ささえ感じる。
会社帰り、買い物をしようとスーパーに寄った。買うべき物は決まっていたのにナオさんの事が浮かんできては足が止まり店内を無意味に彷徨いてしまう。
帰宅してからは買ったものを冷蔵庫に入れるよりも先にベッドへ倒れ込んだ。最近急に気温が下がった、もうすぐ冬が来ることを意識するほどだ。ひんやりとした布団にくるまりエアコンが部屋を暖めるのを待った。タケルはまだ帰っていない。目を閉じて頭を空にしてみる―――――
携帯電話が鳴っている、慌てて画面を見ると遥人君からの着信だった。
「もしもし」
「夕夏さん、やばいっす」
「やばい?」
「店に、店に妹がいるんすよ!」
「…遥人君って妹いたんだ?」
「ちがいますよ!」
「じゃあ、誰の?」
「タケルさんの妹だっていう人が来てるんです!」
理解できず黙っていると遥人君はとにかく店に来て欲しいと言った。部屋着にダウンコートを羽織って外へ出た。5分歩いて店に着くと遥人君が店の外で待ってくれていた。
「夕夏さ~ん」
遥人君は困った顔をしている。
「どうなってるの?」
「さっき閉店間際に店入って来たお客さんがタケルさんの顔見るなり目丸くして、どこ行ってたんだって怒鳴りだしたんすよ。周りの迷惑になるからって言って何とか席に座ってもらったんすけど注文した料理も食べないし、店閉める時間になっても帰らなくて」
「タケルは何て言ってるの?」
「誰かわからないって…」
店のドアを開けると椅子は全てカウンターに上げられていて遥人君のお母さんは床掃除を始めていた。テーブル席に紺色のコートを着た大学生くらいの女の子が背を向けて座っている。
「おばさん、こんばんは」
「ああ、夕夏ちゃん」
遥人君のお母さんは顔を上げると眉を潜めてアイコンタクトをしてきた。かなり気まずい空気らしい。
「あのー…」
座っている女の子に声を掛けた。彼女は殺気立った目線で私を睨みつけた。
「誰ですか?」
誰と言われると少し困る。店のおじさんとおばさんにはタケルのことを親戚だと言ってある。話を聞かれる前に店を出たほうがいいと思った。
「外で話せないかな?お店も閉店みたいだし」
「… あなたもしかして」
彼女は勢いよく立ち上がると更に鋭い目つきで私の顔をまじまじと見た。私は腕をそっと掴んで外へ連れ出した。店のドアを閉めると彼女は腕を振り払った。
「妹って本当?」
「そうだけど。っていうかあなた、お兄ちゃんの女?」
「え?」
「とぼけても無駄なんだから!」
怒りを滲ませ泣きそうな顔の彼女を見て戸惑った。吹きつける風が店のドアをガタガタと鳴らした。




