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花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
花絵
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花絵⑥

長い階段を一気に駆け登り辺りを見回したが花絵と隆平の姿がない。桜のシーズンにはたくさんの観光客が訪れると紹介されていたこの神社も、秋口のこの時期には参拝に来る人も僅かのようだ。さっき信号を渡って来た時に隣を歩いていたカップルが台の前で笑いながら楽しそうに絵馬を書いている。桜が咲く頃に隆平といつかここへ来られたらいいな……

木の生い茂る拝殿裏へ回ると小さな池の前に花絵と隆平は立っていた。花絵は池を眺めていて、隆平はその少し後ろにいる。声を掛けようとした瞬間、隆平が花絵に言った一言が気になって足を止めた。

「俺が前に言った事、どう思ってる?」

低く重い声色、もしかして最近2人が話さなくなった理由がわかるかもしれない、そんな干渉した考えで隣にあった立て看板に身を隠した。

「別に何も思ってないよ」

“嫌い”と言わんばかりの声に聞こえた。

俺は――― 

そのあとに続いた言葉を聞いて私は体中の血が抜かれたような冷たい感覚がした。

「俺はお前が好きなんだよ。小さかった頃とは違う。あれからどう思ってるのか毎日考えてた…」

「何回も同じこと言わないでよ!」

震える声は大きく弾けた。

「私にそんな気がないなら言われたってどうにもならないじゃない」

なんとも言えない感情が胸いっぱいに湧いている。すべてを把握した訳ではない、ただ、目の前にいる幼馴染が他人に見えた。花絵はいつから隆平の気持ちを知っていたんだろう、そして修学旅行で隆平に告白すると言って浮かれていた時、どんなふうに私を見ていたんだろう?

花絵は隆平に向き直って言った。

「夕夏がもう来るからこの話はやめて欲しい」

隆平は何も答えず立っている。

「隆平!」

私は耐えきれず前に飛び出してしまった。2人は揃って動揺した。それを見て私は嫌悪感を抱いた。

「ごめんね遅くなって。カメラ、階段の隅に落ちてた」

そんな筈がないことは階段を登ってきた2人もわかっている、だけどもう全てがどうでもいい。自分がどんな顔をしているか想像ができない、心は引きちぎれる様に痛いのに何故か私は笑っていた。

「ああ、見つかったんだ。良かったな」

隆平は落ち着いていた。

花絵はいつになく崩れそうな表情で私を見ている。

「なんか2人話してたみたいだし、先に集合場所行くね」

できるだけ普通に話したいのに声が上擦る。

わかったと隆平が言った時には既に背を向けて階段の方へと歩いていた。足元だけを見続けて前へ進んだ。小走りになって階段を下りて右へ曲がると信号は丁度赤に変わった。渡ってしまいたかったのに車が発進したのでやめた。息が上がる、目からはじわじわと涙が出てきているようだ。泣くのは嫌だと思い瞼を閉じた。でもそれは逆効果だった。


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