表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
疑惑
44/94

疑惑⑥

あれはきっと黒だ。

ロッカーで着替えながら、紙を見せた時の薄笑いした目を思い出して怒りが沸いている。でも一番の目的は横山さんを面食らわす事じゃなく柳瀬さんと安西さんに復縁してもらう事だ。横山さんが次に何かを仕掛けるところを目撃できれば問い詰めて安西さんに謝罪させられるのに、安西さんの退職まで残り数日しかない。

智香にメールを送った事を思い出して返信が気になり携帯電話を探した。それで気付いた。

「うわ、最悪」

事務所の引き出しに忘れてきた。タケルから着信がないか心配でずっと引き出しに入れっぱなしだった。戻ればまた横山さんと顔を合わせなければいけない。

ロッカールームの階段を降りていくと途中で話し声が聞こえた。横山さんが誰かと電話している。足を止めて聞き耳を立てた。

「だから行かないって言ってんの。ねえ、それよりアレ、もう入れておいてくれた?・・・・・・どうして言った通りにしないのよ、さっさとポストに入れれば済む話でしょ」

ポストと聞いて緊張が走った。沈黙が流れた後、横山さんは低い声で言った。

「あんたに関係ないじゃない。放っといてよ」

それ以降、声は聞こえなくなった。事務所に入るか躊躇していると横山さんが目の前に現れた。

「何?そこで盗み聞きしてたの?」

横山さんは苛立ちながら腕を組んだ。

「忘れ物したので取りに来ただけです」

「へえー、いい言い訳ね」

言い捨てると横山さんは階段を上がっていった。

癪に障る言葉を頭で繰り返しながらさっきの電話の内容を思い出した。確かに“ポスト”と言った。

引き出しから携帯電話を取り出し、公衆電話からの着信がない事を確認してほっとした。智香からメールが届いている。


この間の事は全然気にしてないよ~。

私が大学のサークルで一緒だった男友達の友達が隆平なんだ。埼玉からこっちに泊まりでスキーしに来たりするからそんときたまに会う。この間は川でバーベキューしたよ。


長野に引っ越してから隆平に会う事になるなんて、まさか思いもしなかった。離れる為に住む場所を移ったのに。

階段をヒールで降りる音が聞こえてきた。横山さんは私の存在を無視して出て行った。智香にまたひとつメールで質問をした。


そうだったんだ。すごい偶然。隆平ってもう帰ったの?


隆平が長野に居ようと居なかろうと、もう会う事はない。なのに何故か手が文字を打った。

事務所のドアを閉めて、鍵を鞄に入れた。明日の朝は鍵当番だ。

昼間の太陽の熱を吸収した地面が嫌な暑さを押し上げてくる。残りの体力を奪われながら駅を目指した。

横山さんがポストに何を入れるのかずっと気になっている、それにやりとりからして電話の相手にポストへ入れるよう指示しているようだった。それじゃあ横山さんの後をつけたとしても証拠は掴めそうにない。考えていると駅まであっという間だった。ロータリーを歩いているといつかと同じようにクラクションが鳴った。前方の車を見ると窓が開いた。

「ゆっかちゃん!」

ナオさんだ。

ナオさんは私に手招きをした。近付くにつれてその笑顔に寂しさが重なっているのがわかった。

「どうして今日もここに?」

「もしかしてゆっかちゃんに会えるんじゃないかと思って待ってたんだ」

「え?」

「誤解しないで、ストーカーじゃないから。人と会うつもりだったんだけど今日も都合がつかなくなってさ。ちょっとだけドライブしない?」

私はタケルが家にいるか気になっている。

「今日は早く帰らないといけなくて」

「そっか、じゃ家まで送るよ」

「・・・ありがとうございます」

助手席のドアを開けて乗り込んだ。

「道わかる?」

ここから家までのルートがわからない。

「すみません、あんまり道知らなくて」

「じゃあナビ入れるからここに住所打ってくれる?」

「はい」

ナビのガイダンスが始まり車はロータリーを抜け出した。窓の外を見ると景色は澱んでいて不気味な雲が夕陽を隠している。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ