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花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
空白
32/94

空白⑦

冷蔵庫の中を見て安西さんは眉間に僅か皺を寄せた。

「柳瀬さん、心配してるんじゃないですか?」

柳瀬さんの大切な人はやっぱり安西さんなんだと思い嬉しくなった。安西さんは込み上げるものがあるのか戸惑ったように唇を震わせた。

「ありがたく頂こうっと」

安西さんの分は置いたまま冷蔵庫のドアを閉めた。



事務所の入り口の方で音がする。柳瀬さんが戻って来たのかもしれないと慌てて覗いた、残念ながら歓迎できる相手ではなかった。横山さんがヒールの音を響かせながら中に入って来る。

「何、まだ残ってたの?」

横山さんの不機嫌は続いている。白いノースリーブのワンピースにはグレーの大きな花模様があり、丁寧にカールした長い髪が右肩に揃っている。昼とは違って艶っぽく、ホステスのようだ。

私は顔を見ず帰る準備を始めた。視界に入る白いワンピースが私の脳にまた何かをインプットしようとしている。

横山さんは引き出しから茶封筒を取り出し鞄に入れた。何が入っているのか気になった。安西さんはさっき言っていたメモをまとめている。また事務所にヒールの尖った音が響いて横山さんは帰っていった。



いつもより人通りが多い。浴衣を着て淑やかに歩く女の子達を見て、今日が花火大会だという事に気が付いた。花火を見たい気持ちはあるものの、さすがに1人では行けない。別の日の花火大会に智香を誘おうかと考えながら駅構内を歩いた。

「あっ」

さっき立ち寄ったコンビニに傘を忘れてきた。ビニール傘ではない、最近買ったばかりのお気に入りだ。

「すみません、忘れ物してきたので戻りたいんですけど」

駅の係員は改札を通してくれた。階段を降りてロータリー沿いを歩きコンビニへ向かった。近付くに連れて自分の傘がそこにあるのが見えた。気に入っているだけに安堵した。

傘目掛けて足早に進むと突然クラクションが鳴った。振り向くと黒い車の窓が開いて運転手が手を挙げた。

「ゆっかちゃん!」

顔を出したのはまさかの長谷川先輩だった。



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