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花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
封筒
22/94

封筒⑪

「私達、学校休みだから問題ないです!」

ご機嫌に発言する莉菜ちゃん、でも問題はそこじゃない。

「莉菜ちゃん、一歩間違ったら犯罪だよ?」

「大丈夫ですよー。誘拐って言っても身代金要求する訳じゃないし、ひと夏の思い出ってことで冒険しましょうよ!」

「そうっすよ、会ってみて危ない奴かどうか俺達がちゃんと見極めるんで!」

「見極めるって…」

莉菜ちゃんが言う作戦とは、知人の振りをして彼を連れ出し私達で彼の身元を突き止めようというものだった。

「探偵みたいで楽しい、早くその人に会いたーい!」

「来週から夏休みだし丁度いいっすね!」

2人は遠足気分で大いに盛り上がっている。

「けど、1日で身元を突き止められたら警察も病院も苦労しないと思うんだけどな」

「1日じゃ無理ですよ~。ひと夏の間に、ですよ」

「ひと夏?でもその人どこに泊まるの、ご飯だって食べなきゃいけないのに」

「夕夏さんの家!」

その一言を聞いて遥人君もさすがに突っ込むだろうと思いきや、何故か期待に満ちた顔でこっちを見る。

「捨て犬拾うわけじゃないんだから、駄目!」

とんでもない計画を却下すると莉菜ちゃんはお菓子を買ってもらえなかった子供のように肩を落とした。

「じゃあー、その人に会ってみるだけは駄目ですか?」

「あ、俺も会ってみたいっす」

「… 面会、できるのかな」

「あー、やっぱ夕夏さん気になってるんだ!会いに行きましょうよー」



次の日、仕事が休みな事もあって私は警察に教えられた連絡先に電話を掛けた。彼への面会が可能か尋ねると入院先の病院を聞くことができた。市内の中央病院に暫くいるらしい。遥人君と莉奈ちゃんは朝からうちにやってきて早く行ってみようと私を促した。

「うわーなんか緊張するー」

ショートパンツにサンダルという格好でやってきた莉菜ちゃんは、遥人君の腕にくっついて歩く。

「なんつうか、テレビで見るドキュメンタリーみたいっすね」

遥人君は面会に緊張しているらしい。

「一応病院には私が1人で行く事になってるから、偶然会ってついて来たって合わせてね」

「はーい」

「大丈夫っす!」

昨日の大雨とは正反対に、空には雲ひとつなく太陽が燦々と光っている。莉奈ちゃんの誘拐作戦については賛成できなかったけど、実は記憶喪失という非日常に心引かれている自分がいる。病院までの道すがらに特別な何かが始まるような高揚感が沸いてきた事を2人には言えずにいた。



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