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花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
封筒
17/94

封筒⑥

「それじゃ、また来週。今日はいろいろと聞かせちゃってごめんね」

安西さんは元気とまではいかない笑顔を見せて手を振った。乗る電車が反対方向だった為、私達は駅の階段で別れた。

安西さんから聞いた話について帰りの電車の中で考えていた。というのも安西さんが近頃暗い顔をしていた原因はストーカー行為だけではなかったからだ。もうひとつの原因とは、柳瀬さんが浮気をしているかもしれないという話だった。ある日、自宅のポストに何も書いていない封筒が入っていて開けると写真が一枚、そこに写っていたのは柳瀬さんと若い女性の姿だったという。カメラは2人が腕を組んで歩いている姿を斜め上から捉えていた。女性のファッションは淡いピンクのサマーセーターに白のロングスカート、長い髪はふわふわと巻かれ異性の視線を意識したコーディネート、まさかと思いながらも隣の男性が柳瀬さんであることは安西さんから見て間違いなかったらしい。私はその事を聞いて相当驚いた。結婚を控えている人が今になって浮気するなんて考えられない。しかもあの人の好い柳瀬さんが。何かの間違いじゃないですかと言うと、その女性と柳瀬さんが写っている何枚かの写真が再び自宅のポストに投函されていたという事実が返って来た。更には柳瀬さんが最近休みの日でも電話に出ない事が度々あると言っていた。一緒にいる時に電話がなっていても理由も言わず出ない時もあるらしく余計に不安を煽っている。あれこれ考えているうちに私は降りるべき駅を過ぎてしまった。この快速電車が次に到着する駅は“白枝”《しらえ》だ。出来るだけ近づきたくない場所があるその駅は、降りることさえ躊躇してしまう。社会人になってからもまだ気にしている自分に少し嫌気がさした。また乗り過ごしてしまわないようにドアの前に立つことにした。ガラスにはうっすらと水滴がついていて、雨が降り出している事に気が付いた。



白枝駅で降りると雨は既に大降りになっていた。ホームにいる人たちは空の色を窺っている。ほとんどの人は傘を持っておらず、私もそのうちの1人だ。降りるはずだった駅に戻る為、向かいのホームへ移動した。

電子掲示板を見ると”40分の遅れ”と表示がある、騒音のなかアナウンスに耳を澄ますと人身事故の影響と聞こえてきた。女子高校生が3人、買い物帰りのような大きな紙袋を手に提げて苛立っている。

「もう~サイアク。困るんだけど」

「ほんっとに、なんで雨まで降ってくるわけ」

「あー、彼氏に電話繋がらないし」

電車を待つ間女子高生たちはずっと喋っている。彼女達の話題は恋愛話へと変わっていった。

「……でさー、思いきって元彼と一緒に行った店に1人で行ってみたんだ。そしたらなんか泣けてきてさ~最後は吹っ切れたんだよね」

「うわーそれ辛すぎ」

「避けてきたところを合えて向き合ってみる行動パターン。雑誌に”失恋の傷を癒すには思い出と向き合うことが大切”って書いてあったからさ」

「それってリスク高~」

その時、雷鳴とともに空が白く光り何人かが小さく叫んだ。さっきよりも雨の音が強くなった。

「こわ~!もうほんとついてない」

「荷物邪魔だわー。あ、そういえばその雑誌に載ってたモデルがさあ~……」

女子の会話というのは嵐のように話題転換が早い。私の胸には彼女が言ったさっきの言葉がまだ残っている。私もあの場所へもう1度行って向き合ってみたなら何かが変わるんだろうか。電車を待たずこの駅を降りて、もしもあの神社へ行ったなら…… 

また駅構内のアナウンスが流れ始めた。未だ復旧の目処が立っていないという情報を聞いて、私は躊躇った。そして階段に向かって歩きだした。女子高生の笑い声が遠くなっていっく。



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