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花びらは掌に宿る  作者: 小夏つきひ
封筒
16/94

封筒⑤

純白を基調とした内装にシャンデリア、流行りのエアープランツが飾られたシックな店内。新しくできたスイーツ店を喜ぶ女性客が多く来店していた。

「安西さん、あの席空きそうなので私取って来ます」

テーブルの上にハンカチを置いてショーケース前の列に戻ると安西さんが種類豊富なジェラートを眺めていた。

「美味しそうなのがいっぱいですね」

「うん、こだわってる感じだね。私は柚子はちみつにしようかな」

ジェラートの種類が書かれているプレートには全てに”産地直送”や”選び抜いた香り”などジェラートに使用されている果物のこだわりポイントが書かれている。ひとつずつ目を通していくと”期間限定”と書かれたジェラートを見つけた。

「期間限定、桃のジェラートだって」

安西さんは私と同じものを見ていた。

「美味しそうですね」

合わせて言ったものの、私の中で”桃”という果物はNGだった。味が嫌いなわけじゃない、大好きだったものがある日を境に思い出したくない記憶に結びつくことは誰にでもあることだと思う。時として”タルト”という言葉にさえ反応してしまう事が私にはある。

席に座りジェラートを一口食べると丁度良い酸味と甘みが口いっぱいに広がって一気に元気がでた。ストロベリージェラートを選んで良かった納得した。安西さんと人気スイーツの話をしたりとにかく他愛もない話をした。

「橋詰さん、誘ってくれてありがとう。いい気分転換になったみたい」

安西さんは天井につるしてあるシャンデリアを見上げた。

「安西さん結婚の準備で忙しいですもんね。私に手伝える事があったらいいんですけど」

安西さんが無言になったのでやっぱり触れてはいけない話題だったのかもしれない。ジェラートをすくう手を止めてカップをテーブルに置くと私の目をじっと見つめた。さっきから度々後ろの席の女子高校生達が黄色い歓声を上げて盛り上がっている。再び大きな笑い声が聞こえて安西さんは話を切り出した。

「いま悩んでることがあるの]

「どんな事ですか」

「何から話せばいいのか分からないんだけど、ストーカー、っていうのかな」

ストーカーという言葉にぎょっとした。

「一番最初は会社のトイレを出て手を洗う時、台の上に映画の半券が置いてあったの」

「映画の半券?」

「うん。その前の日に私と柳瀬さんが見た映画と同じものだった。上映時間まで一緒で驚いた」

どういう意味なのか考えて首を傾げていると安西さんは言った。

「ただの偶然かもしれないって思ったんだけど、なんで会社のトイレに置いてあるのか変に思って気になってたの。それから時々、私と柳瀬さんが行った店や場所に関係するものが私の前に置かれるようになって……」

詳しく聞いてみると、今朝安西さんのデスクに置かれていた雑誌もそのストーカー行為の一種だったらしい。開かれていたページには先週2人が日帰りで行った温泉が掲載されていたそうだ。

「会社の中でですよね?誰の仕業か分かってるんですか」

「見当はついてるんだけど、まだ証拠もないから言えなくて」

「もしかして、横山さんですか?」

日頃の横山さんの態度を知っているだけに私は興奮気味になっている。

「私はそうだと思ってる」

話すうちに段々と安西さんの顔から表情が消えていく。「あの人が朝早くに出社している日はだいたい何かあるの」

「朝早くってどうやってわかるんですか」

「あのコピー機の隣にある観葉植物、手入れされた日は葉についた埃が綺麗に拭かれてる。印刷物を取る時に気付いたの。あの観葉植物は横山さんが早くに出社して手入れしてるのよ」

もしかして早くに出社しているのは観葉植物の世話が目的ではなく嫌がらせの品をデスクに置く為だったのか…それにしてもどうしてそこまで安西さんに執着するのかがわからない。

「あと2ヶ月で退職するし気にする事ないって自分に言い聞かせてるんだけど、この頃プライベートがずっと忙しかったから疲れが出ちゃって」

安西さんはやっとジェラートの存在を思い出したように両手をテーブルの上に出した。

「今度証拠を見つけたら、私が問い詰めますから任せて下さい!」

つい意気込んでしまった。そんな私を見て安西さんは頬をほころばした。



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