シュレディンガーのねこ
境内の清掃をしている桜子。
「ふう。まだまだ暑いですね」
そこへ神様がとことこやってきました。
「ねえねえ桜子ちゃん。シュレディンガーの猫って知ってる?」
「ええ。確か箱の中の猫が生きているか死んでいるかは中身を確認しない限りどちらもあり得る……みたいな感じでしたよね」
「そうよ。じゃあこの中のねこが生きているか死んでいるか当ててみて」
神様は布を被せたケージを抱えています。
「みゃあ!」
中から猫の鳴き声。
「あー! ちょ、しー! しー!」
「フシャー! フシャー!」
「もう! あとで煮干しあげるからそんな暴れないで!」
「生きてます」
即答の桜子。
「え? なんだって?」
「生きてます」
「ほ、本当にその答えでいいの?」
「いいですよ。断言します。100%生きてます」
「じゃあもし違ってたら昨日のゴミは桜子ちゃんに捨てに行ってもらうからね」
「まだ捨てに行ってなかったんですか? まあいいですよ。どうせ生きてますから」
「ふっ、じゃあ開けるわね。うへへへへ」
ふっ、ふっ、ふっ。
実は今の鳴き声はスピーカーの音声なのよ。
そしてこのケージの中には猫ではなく一輪車のミニチュア模型が入っている。
これを探すのに随分と苦労したわ。
いろんな専門店を梯子した挙句結局近所のドンキのガシャポンコーナーで見つけた時は感動とモヤモヤが同時に押し寄せた。
結局そこにあんのかい!
てね……。
あの気持ちは未だに忘れないわ。
そう……。
わたしはあの気持ちのことを感モヤと名付ける。
さあ、今日こそは桜子ちゃんに勝ってやるんだからー!
ドヤああああ!!
「なんてこと考えてそうですね。先生のあの顔……」
と、呟く桜子。
確率操作で中身の猫が生きている可能性を極大値にします。
すると。
「んにゃあああああ!!」
どこからともなく突っ走って来た猫。
「え! え!? なに!?」
驚きのあまり思わずケージを落としてしまう神様。
その扉が開いて猫がすっぽり収まると。
「さ、先生。ケージの中身を見せて貰っていいですか?」
「ムキ―! 次こそは勝ってやるんだから―! だからー、だからー、だからー……」
泣きべそをかきながら走り去って行く神様。
「あ、ちょっと! そっちに行くならゴミ持ってってくださいよー!」
結局ゴミは桜子が捨てに行きました。