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雪月

作者: 古代紫

企画用短編です


 日が昇る前の竹林。風もなく音もなく、重い雪が世界を白く染めていく。

 青白い月明かりが包む小道を一つの人影が歩いていた。

 傘も差さず、雪だというのに厚着もせず、簡素な格好で景色を楽しんでいた。

 高く伸びた竹はその葉一枚一枚に雪化粧が施されている。大きく頑丈な葉には厚めに、小さく軽い葉には薄く軽く雪が積もっている。月光を淡く反射させ、まるで雪そのものが灯りとなっているようだった。

 そして空には大小二つの月。降る雪、積もる雪、それぞれが照らす光を反射し、幻想的な世界を作っていた。

 ほぅっと一息つき、その人影は立ち止まり、空を見上げる。

「花は……」

 寒さを忘れさせる景色は容易に人の目を奪っていく。

 降る雪、積もる雪、照らす光と浮かぶ月。

「花はどこだろう……?」

 今となっては昔のこと、二人で歩いた景色を思い出す。

 あの時も今と同じような雪の降る日だった。

 「見せたい景色がある」と眠い目をこする手を引き、ここに連れてこられた。

 同じ時間、同じ場所。あの日も静かに雪が降っていた。日は登らず、大きな月が一つだけ浮かんでいた。

『きれいでしょ。雪月花全部そろっている。絶景だ』

『知らない? きれいなもの三つのことさ』

 竹の花の季節ではない。この時期の花もない。雪と月はあるが、花はどこにも見えない。

『いいや、ちゃんとある。ちゃんとあるよ』

 『花』を見つけられない私を笑うと、雪の小道を先へ行ってしまった。

「懐かしいなぁ」

 ここへ来ると思い出す。ここは二人で歩いた道だ。二人で浴びた雪だ。二人で眺めた月だ。

 この景色だけは変わらない。雪の冷たさも、月明かりの暖かさも何も変わらない。

 そして、あのころから『花』を見つけられない私も変わらないままだ。

「あぁきれいだ。とてもきれいだ」

 だけど、見つけられない。

 人影は歩き出す。雪の小道を歩いていく。人影の歩いた道は足跡すら残らない。

「見つからないなぁ」

 ぼやく声すら、雪に溶けていく。

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