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2話 「千里眼」 ③

「どこかにって、ただ出掛けただけじゃないのか?」


普通に考えたらそれだけで焦ることはない。

何か重要なことがあるはずだ。


「ばあちゃんさ、俺が高校に上がる前からだんだん認知症がひどくなってさ。でも、うちには施設に預ける金なんてないから家で様子を見てたんだけど。」

「普段は勝手に出掛けないのか?」


「ああ、いつも自分の部屋で大人しくしてたから俺らも安心してたんだ。」

「そうか。じゃあ、探しに行かないとな。」


そう言うと菅原はなぜか「いいや。」と言った。


「なんでだ。もしかしたら事故に遭っているのかもしれないんだぞ。今日の試合だってそんなに重要な試合じゃないんだろ?」

「野球部にとってはな。でも俺にとっては大事な試合なんだ。」


菅原は蛇口を閉め俺の方へと顔を向ける。


「俺、一年のくせにレギュラー入りしてるだろ?そのせいで先輩たちからはあんまりよく思われていないんだ。特に同じポジションの先輩にはな。だから先輩が今日の試合の前半と後半でより良いプレーをした方をレギュラーにしてと監督に頼んだのさ。」

「だからってお前の家族が大変なことになってるんだぞ。」


俺は自分のことにいっぱいいっぱいになっている菅原を見て昔の自分を思い出す。

何かがあってからだと遅い。俺はそのことを十分に知っている。


「おい。お前は前半と後半、どっちに出るんだ。」

「後半だけど、、、。」


菅原は目を見開きながら俺の問いに答える。


「俺も一緒に探す。だからお前も探しに行くぞ。お前の番が来るまでに戻ってくれば問題ないだろ。」

「で、でも、、、。」


俺は少し大きな声で菅原に言葉をぶつける。


「いいか。今お前は血のつながった人間を一人見捨てようとしているんだぞ。それにそんな状態で試合に出たっていつもの動きが出来るわけがない。今の自分にとって何が最優先事項かよく考えろ。一瞬のためらいで生死を決めることだってある。どっちにする?お前が行かなくても俺は行くぞ。」


菅原は走ってトイレを出る。


「今すぐ監督に言って来る!それと靴を履き替えないと走りづらいからな!」

「わかった。外で待ってるからな!」


コツコツと音を鳴らしながら菅原はいったんチームの元へと戻る。

そして俺は菅原を待つために球場の外へと出た。



数分すると菅原が俺の待つ場所へと走ってきた。


「ちゃんと来たな。」

「当たり前だろ大体お前一人でどうやって探すんだよ。うちのばあちゃん見たことないくせに。」


「そういえばそうだな。写真とかあるか?」

「ああ、一枚だけ。去年じいちゃんの葬式で撮ったやつだけど。」


俺は写真に写っている年老いた女性を見てその姿をしっかりと目に焼き付ける。

さて、どうやって探そうか。


「周りにこの町全体を見渡せる場所とかあるか?」

「ここからは少し遠いがこの先にちょっとした丘がある。そこに行くのか?」


「ああ、お前はどうする。」

「幸い俺の家は走れば結構近いから通行人に聞いて回ってみるよ。」


「一応連絡先を交換しよう。それとお前の家の屋根は何色だ。」

「え、赤色だけど、、、。あと近くに八百屋がある。」


俺らはそれぞれの場所へと別れ、菅原の祖母を探すことにした。

よし、スピードをあげるか。


俺は菅原が言っていた丘まで常人なら二十分くらいのところを五分で着くことができた。

こういう時に元勇者のステータスが役に立つな。


丘からはさっきまで俺がいた球場とその周辺がばっちり見える。

ここなら比較的見つけやすいだろう。


まずは菅原の家を探す。


「確か赤色の屋根で八百屋が近いって、、、。」


周りをキョロキョロ見渡す。


「あった。」


菅原の家を見つけ、今度はその周辺を見る。

あの見た目だとそこまで遠くには言ってないはずだ。


菅原が通行人に聞きまわっている姿が見える。

あの様子じゃまだ情報を聞き出せてないな。


もう一度周りを見渡すがそれっぽい人は見つからない。

人だかりもないということは事故に遭ってる可能性も低いな。


まずは無事なことが重要だ。

少しして菅原から連絡が来た。


「近所の人がうちのばあちゃんと話したって!なんか「行く場所がある」って言ってたらしい!」

「「行く場所がある」か、、、。」


いつも部屋で大人しいらしいがなにかよっぽど大切な用事があるのか?

これに関しては菅原の方が知っているだろう。


「くそっ!こんなんだったらもっと勇者の時に千里眼のスキルレベルをあげておくべきだった。」


俺は徐々に焦りが募る。



菅原の出番まであと三十分になっていた。










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