2話 「千里眼」 ②
そして約束の日曜日。
一人で来てしまった。
「よりによって高光に予定があるなんて。」
一応声はかけたが友達と遊びに行くと言って断られてしまった。
少し恥ずかしいな。
「あれ?木下じゃん。もう来たの?」
ユニフォームを着た菅原が目の前に現れる。
やっぱ似合ってるな。本人には言わないけど。
「もう、ってお前、俺に試合の時間を言ってなかっただろ。」
「あれ?そうだっけ??」
なんでこうも俺の周りはこんな奴しかいないのか。
まあ、間に合っているのなら別に問題はないか。
「試合、二時からだから楽しみにしててな。」
「ああ。期待してるよ。」
まだ、十一時か。今やってる試合でも見るか。
俺は菅原が出る試合までの間、暇つぶしもかねて他の試合も見ることにした。
「意外と人来てるんだな。」
観客席には日曜日だからというのもあり、選手の家族や地域のおっさんが多く来ていた。
一番後ろの席に座り、試合風景を眺めていた。
「今のうちにルールを覚えておかないとな。」
体育の時とは違いやはり慣れているやつらは動きが全然違う。
なんなら下手投げじゃないのか。あれは結構速いな。
「あいつの魔法もあれくらい速ければな。」
元の世界にいた頃を思い出し、愚痴がこぼれる。
今となっては良い思い出だ。
試合はあっという間に終わり、案外熱心に見てしまった。
すると次試合をするであろう菅原たちが入ってきた。
どうやら試合前に少し練習する時間があるらしい。
菅原は先輩たちに混ざって守備の練習をしている。
上手いな。一年ながらレギュラー入りするだけあってなかなか素早さを見せる。
これなら期待できるな。
さて、腹が減ったな。少しコンビニにでも行ってくるか。
まだ始まるまでは時間あるだろう。
球場をあとにし俺は近くにあるコンビニに入った。
この世界に来て最も感心したものの一つである。
これだけなんでも売っているお店は俺の世界にはなかった。
最初の頃はおもちゃ屋に来ている子供のように目を輝かせていた。
しかし、今ではすっかり慣れたのかそこまで心は躍らない。
そしておにぎりコーナーに行った俺はその光景に絶望する。
「た、たらこがないだと、、、。」
俺は前に高光からもらったときに食べて以来、コンビニに来ると毎回買ってしまうほどたらこのおにぎりにハマってしまった。
これはショックだ。だがないものはしょうがない。
俺は渋々残っていた昆布とツナマヨのおにぎりを選び、お茶を一本手に取ってレジへ向かう。
せっかくの日曜日、たらこのおにぎりがないなんて俺はなんて不運なんだ。
少し気分は落ち込んだものの、俺は店をでて再び球場へと向かう。
まだ試合は始まっていないようだ。
始まる前にトイレにでも行ってこようかな。
出来るだけ早く戻ってこないと。
俺は球場のなかにあるトイレを探しに行った。
意外と複雑なんだな。
これなら先に周りを見ておけばよかった。
少し時間はかかったがトイレを見つけ中に入る。
そしてそこには菅原の姿があった。
洗面台で下を向いており、ずっと動かない。
「す、菅原どうした?」
「あ、ああ。木下か。」
どうやら体調が悪いわけではないらしい。
良かった。高光みたいに吐いているのかと思った。
「これから試合じゃないのか?俺と違ってのんびりしている場合じゃないだろ。」
「わかってる。でもさっき親から連絡が来てな、、、。」
菅原からは重苦しい空気を感じる。
そして止めていた口を再び動かす。
「ばあちゃんがどこかに行ったって。」
蛇口からは水が流れ続けている。
まるで菅原の代わりに涙を流しているようだった。