2話 「千里眼」 ①
「今日はソフトボールをするぞー。」
俺は今この世界のスポーツをやっている。
棒と球を使うものらしいがこれが案外楽しい。
「拓斗、お前の番だぞ。」
「ああ。今行く。」
俺は棒を握り、みんなの真似をしてそれっぽい構え方をする。
「なあ、なあ。あいつって運動できたっけ?」
「わかんねえけど、あんまり得意ではなさそうだよな。」
後ろの方で俺のことを話しているな。
なんか癇に障る。ここらで少し驚かせてみようかな。
「ほら、投げるぞー。」
クラスメイトが球を投げる。
なんだ、見ていたよりも遅いな。
これはなめられているのか。
俺は思いっきり棒を振る。
と同時に「アッ」と声を漏らす。
カーンッ!!!
球は大きな弧を描き草むらまで飛んで行った。
「まじかよ、、、。」
「野球部より飛んでないか、、、。」
「拓斗すげー!!」
ちょっとムキになりすぎたな。
次からは少し手加減しないと。
試合が終わり球拾いをしていたところ、どうもいくつか見つからないらしい。
俺の打球に感化された野球部のやつらも遠くに飛ばしたせいだ。
「くっそー、どこだよ。」
「よりによって野球部の顧問が体育教師かよ。」
球探しをしているクラスメイトは焦り始める。
そんなにやばいのだろうか。
「なあ、あの先生はそんなに怖いのか?」
俺は一緒に道具を片付けている野球部のやつに聞いてみた。
「お前知らないのかよ。あいつこの辺の高校じゃ厳しいって有名だろ。」
「そ、そうか、、、。」
そこまで言うってことはなかなかなのだろう。
それは早く見つけないとな。
俺は球が飛んで行った方向に目を凝らす。
「確かあそこらへんだったような。あった。」
「え、どこ!?てか見えるの!?」
隣のクラスメイトが大声をあげる。
「あそこの木に二個とサッカーゴールのところに一個。」
「まじ!ちょっと行ってくるわ!!」
クラスメイトは俺が示した方へと走っていき、球を探しているほかの友人に教える。
するとすぐに球は見つかり、無事怒られずに済んだ。
「いやー、木下のおかげで助かったわ!ありがとな!」
「いやいや、俺が飛ばした球もあったからな。」
誰かの役に立てるのは気持ちのいいことだな。
これも勇者だった頃のせいでもあるな。
「にしてもよくあんな遠いところが見えたな?」
「あ、ああ。少しばかり目が良くてな。」
嘘である。常人だったら数十メートル先の球なんて見えるはずがない。
これは俺の持っているスキル「千里眼」のおかげである。
これも「瞬間記憶」同様、冒険には欠かせないスキルであり、「千里眼」のおかげで対象のモンスターも見つけやすく重宝していた。
まさかこんなところで役に立つとはな。
制服に着替え昼休みになると一人の男子が弁当を持って俺の机に近づく。
珍しいな。高光以外のやつが俺に近づくなんて。
「なあ、一緒に食べないか?」
「別にいいけど。」
こいつはさっき俺が飛んで行った球の先を教えたクラスメイトの菅原司だ。
野球部に所属し、一年ながらレギュラーとして活躍している。
「俺さ、まさか木下がそんなに運動神経いいとは思わなかったぜ。」
大きな口で弁当を食べる。さすが野球部、弁当箱も大きいな。
「いや、たまたまだよ。あの一回以降、全部アウトだっただろ。」
「でも、あのスイングは天性の才能を感じたものだったよ!」
転生されてきただけに「天性」ってか。
とこんな冗談は置いておき、そんなに意気揚々と話されるとこちらも戸惑う。
「お前、野球部に入らないか?今、うちのチームにパワーヒッターがいなくてな!お前ならすぐレギュラーになれるって。」
「でもここの野球部って結構強いんじゃないのか?」
「それは俺が監督に頼んでみるさ!」
高光の話だと県ベスト4の常連校であり、二年前には全国でベスト8になったらしい。
もちろんあの時みたいに力を出せば即レギュラーだろうが、それは他の部員に申し訳ない。
「すまないな。俺は野球に興味はない。」
「まじかー、もったいないなー。でもしょうがないな。」
そのあとは永遠と野球の話を聞かされあっという間に昼休みは終わってしまった。
「じゃあ、来週の日曜日に練習試合あるから見に来てくれよな!」
「ああ、暇だったら行くよ。」
そこまで興味のないはないもののたまにはいいだろうと思い、菅原の試合を見に行く約束をした。
しかし、まさか試合当日に事件が起きるとはこのとき予想もしていなかった。