1話 「瞬間記憶」 ④
「これで一件落着だな。」
ひったくり犯は無事警察に引き渡され、俺と高光は安堵のため息がでた。
「はあ~、久しぶりにあんなにダッシュした気がするよ。」
「そうだな、俺もだ。」
高光は腕で汗を拭いてこちらを見る。
「いつの間に方向音痴を直したの?」
「え、いや、それは、、。」
やばいな。そういえば言い訳を考えてなかった。
さすがに今回はやりすぎた。
「俺だってあんなところ通ったことないのに。」
「あれはたまたまだよ。」
なんて説明しよう。
いくら鈍感な高光でも怪しがるよな。
「拓斗??」
「じ、実はな、、、。」
俺は高光をじっと見つめる。
唾を飲み込み話始めようとした瞬間、
「まさか!」
高光が大声を出す。
「拓斗の散歩コースってあんなところなの!?」
あまりにも的外れな言葉に俺は絶句する。
高光は続けて話す。
「前に方向音痴直すために散歩してるって言ってたもんね。だとしたら納得!!」
「ああ、そうなんだよ、、、。」
どこまで天然なんだ。
誰があんな薄暗い細道を好んで散歩するかよ。
「でもあんなに足速かったっけ?」
「そ、それは、、、。」
そこに関しては気にしてなかった。
そりゃあんなに速く走れば誰だって疑問を持つだろう。ましてや親友であったらな。
「最近、散歩だけじゃなくてジョギングもしてるんだよ、、、。」
俺はさっきの高光の話に合わせるように言い訳を考えた。
これなら納得してもらえるだろう。
「なるほど!拓斗は努力家なんだね!!」
案の定高光は納得してくれたようだ。
「てっきり、拓斗が別の世界から来た人だと思ったよ!」
俺の心臓が跳ね上がる。
「そんなわけないだろ、アニメじゃあるまいし。」
「だよねー、冗談、冗談。」
なんて冗談を言うんだこいつは。
ほんとは天然じゃないんじゃないか?
「なんか、ラーメン食べてすぐ走ったから吐き気が、、、。」
高光が口に手を押さえる。
これはやばくないか。
「お、おい!もう少し我慢しろ!」
「むりぃ、でる、、うっ!」
高光から勢いよく味噌ラーメンが飛び出る。
ああ、酒場でよく見るおっさんと同じだ、、、。
「ほらこれで口を拭け。」
「ふう、、、。ありがと。」
俺らは近くの公園で休むことにした。
高光は水道で口を洗いベンチに座っている。
幸い服にはつかなかったようだ。
「大丈夫か?」
「うん、ごめんね。」
急な出来事に最初は驚いたが、やっと落ち着いた。
ほんと今日は色々起こりすぎだ。
「じゃあ、そろそろ帰るか。俺はもう一人で帰れるからお前も早く家に帰れよ。」
「わかった。ほんとごめんね、、、。」
高光はしょんぼりしている。
こいつは謝るのが癖なんだな。
「痛っ!!」
急に頭に衝撃が走った。
それと同時にある言葉を思い出す。
「ごめんよ、ごめんよ。」
ああ、そうだ。
こいつは似ている。あいつに。
すぐに意識を戻し、高光を見る。
まだ気持ち悪いのか下を向いている。
「ほら、帰るぞ。荷物は?」
「え、、、?」
高光は「何のこと?」という顔をしている。
まさか。
「お前、どこかに置いてきたのか?」
「多分拓斗を追ったときに落としたのかも、、、。」
やっぱり天然、というかただ単にアホなんじゃないか?
俺は深いため息を漏らす。
まだまだ家には帰れそうにない、、、。