2話 「千里眼」 ④
「くそ、、、全然見つからないな。」
あれから五分くらい経つがまだ菅原の祖母は見つからない。
菅原からも連絡はない。
「どこかの建物に入っているのだろうか。」
このままだと試合に間に合わない。
菅原が球場に戻る時間も考えるとあと十分で見つけないと。
なにか手がかりになるものは、、、。
今までの言動を思い出せ。
確か菅原の祖母の認知症になったのが高校に上がる前、つまりまだ一年経過していない。
ということはそこまでひどくなってはいないはず。
いつも自室で大人しくしている。
これは去年菅原の祖父が亡くなったことが大きいだろう。
そして今日、菅原にとって大事な試合の日に滅多に出掛けない祖母が行方不明。
目撃者の話によると「行く場所がある」と言っていた。
その時俺はコンビニからでる一人の女性を見つける。
「なるほど。これは一か八か賭けてみるか。」
俺は菅原に電話をする。
「もしもし?木下か!?見つかったのか?」
「いや、まだなんだが聞きたいことがあってな。菅原っていつも出掛ける前に祖母に話しかけているか?」
「あ、ああ。でもいつも通りで反応はなかったけどな。それがどうした?」
「お前は先に球場に戻ってろ。俺も今すぐ戻る。」
「なんでだよ。お、おい!木下!?」
俺は菅原の呼びかけには応じず電話を切る。
そしてすぐにその場から離れることにした。
数分後、俺は球場に戻ると菅原が先に俺を待っていた。
「木下!一体どういうことだ。」
「まあ待て。そろそろ来るはずだ。」
「来るって誰が?」
俺はある方向に指をさし、菅原の目線をその方向に誘導する。
するとビニール袋を片手に腰の曲がった女性がこちらに向かって歩いてくる。
「ば、ばあちゃん!?なんでここに!」
「お前のためにだよ。」
菅原は祖母のもとに走っていく。
祖母は菅原の顔を見ると笑顔で語りかける。
「ほら、司ちゃんが好きなおにぎり買ってきたよ。今日、大事な試合だって言ってたでしょ?」
「そ、そうだけど。だからって急に外に出たら危ないじゃないか。」
菅原は目をウルウルさせながら祖母が持っていたビニール袋を受け取る。
祖母はそんな自分の孫の顔を見てほほえむ。
「実はね、おじいちゃんも昔野球をしてたの。だから今日あんたが家を出た後に昔の写真を見てたらおじいちゃんが私に「司の応援に行け」って言ってるような気がしてね。」
「うん、わかった。ありがと、ばあちゃん。」
「あとは俺が案内するからお前は試合に戻れ。今からならギリギリ間に合うだろ。」
「ありがと、木下。」
「じゃあ、俺戻るから見ててな。」
「あいよ、ちゃんと頑張ってきなさい。」
菅原はチームの元へ戻り、俺と菅原の祖母は応援のために応援席へと向かった。
「お疲れ様。」
「ああ、全然だめだったけどな。」
試合には勝ったものの町中を走り回った菅原は疲れ果てて思うようなプレーが出来なかった。
でも思いのほか清々しい顔をしているようにみえる。
「これじゃあレギュラーから外されちまうなー。」
「まだ一年なんだからこれからさ。」
「そういえばなんでここに来るってわかったんだ?」
「ああ、それはな、俺がお前に電話を掛ける前にお前のおばあちゃんがコンビニから出てくるのが見えたんだ。それで少し様子を見てたら球場の方に歩いてるのが分かったからもしかしたらと思ってな。」
「なんだよ。ほんとは見つけてたんじゃないか。でもそれだけで判断するのは厳しくないか?」
菅原は不思議そうに俺に聞き返す。
「それはお前が家を出る前におばあちゃんに「今日は大事な試合がある」って言ってたと思ってな。お前、一年でレギュラーなんて少なからずプレッシャーに感じてるところもあるだろ?だからふとそのことをおばあちゃんにもらしたと思って賭けだけど球場で待つことにしたんだ。幸いおばあちゃんも「行く場所がある」って人に言ってたくらいだしな。」
菅原はポカーンと口を開けて俺の顔を見つめる。
そして自分の顔を左右に振る。
「なるほど。俺の考えてることはお前には丸見えだったわけか。」
「たまたまだよ。結局は結果論さ。まあ無事でよかったな」。
「そうだな。そういえばばあちゃんからもらったおにぎり食べ損ねたな。」
「食べてる暇なかったもんな。」
菅原は祖母から受け取ったビニール袋からおにぎりを一つ取り出し俺に渡す。
「ばあちゃん、俺の好物覚えててくれたんだ。ほら。一個やるよ。」
「あ、ありがと。ってお前たらこのおにぎりが好きなのか?」
「てことはお前も?なーんだ!俺らただ単に似てるだけだったのかもな。」
「そうかもな。」
俺たちは顔を見合わせ笑う。
こうして二人の大変な一日は終わった。
翌日、学校で菅原が「あのあと先輩からメールが来てよ。あんな不完全な状態で勝っても嬉しくないから今回の勝負はなしだ。ってさ。あと、今度からはばあちゃんが毎回応援に来てくれるって。」と話してくれた。
その時の菅原の顔は二人でたらこのおにぎりを食べながら見た夕日よりも輝いて見えた。