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ほとんどセクハラなハードミッション

「お待ちください」

 王妃グレムジュは、そう言うなり兄王の耳元で囁いた。

「あなたの命じたことを妨げたのです。相応の罰をお与えください」

 国王エインファルデュールは、その場で態度を変えた。

「ホレイントよ。お前はかつて、私に免じて許された罪がひとつあったな」

 弟はその場で凍り付いた。

 だが、兄の耳に毒を注ぎ込んだ女を睨み据えると、堂々と答える。

 この女に、弱みは見せたくなかった。

「兄上が成人なさったときのことですね」

 国王は、ゆっくりと頷く。

 冷ややかに弟を見下ろすと、その罪を改めて論じはじめた。

「我らが王家では、成人するにあたって邪念を祓う儀式を行う。お前は、それを妨げた」

 これが王家の自覚を促すためのものだとは、今年の儀式で知った。

 だが、ホレイントには、怖じる気配もない。 

 それどころか、鋭く言い放った。

「父上は、反対なさっていた。あれも、魔術の類だと」

 兄王はそれを余裕たっぷりに受け止める。

 穏やかに、諭すように応じた。

「あれは王家の習いだ。そのようないかがわしいものではない」

 弟は、大きくかぶりを振った。

 その目は、硬く閉じられている。

 あの時見たものについては、口にはしても、思い出したくなかった。 


 6年前のことだ。

 兄が16歳で成人を迎えたとき、王位継承者となるための儀式を行った。

 遠方から高僧を招いて邪念を祓ったのだ。

 当時は齢10歳、何故そのようなことをするのか不思議でならなかった。

 さらに、これまでではあり得ないことが起こった。

 祓われた邪念に巣食うものが、実体を伴って現れたのである。

 それは、女の姿だった。

 膨らみかけた胸と可愛らしい腰の辺りが、小さな布切れで覆われている。

 だが、特に目を引いたものがった。

 小さな2本の角と、コウモリの翼。

 城の大広間に、貴婦人たちの悲鳴が上がる。

 護衛の兵たちは、剣を抜いてその何者かに襲いかかった。

 そのときだった。

 何が何やら分からないうちに、幼い王子ホレイントは刃の前に身を晒していた。

 兵士たちの手は、すぐに止まった。

 父王は、その場で何か命令したように思う。

 気が付いて後ろを見ると、女の姿は影も形もなかった。


「弟よ、反省はないようだな」

 王は冷ややかに言った。

 弟は毅然として答える。

「ございません。あの時のことに関しては」

 記憶も、おぼろげなものになっていた。

 あの女の顔も、思い出せない。

 そこへ、苛立ち紛れの声が頭から降ってきた。

「儀式によって現れた人外のものだったのだ。あれは、逃がしてはならなかった」  

「父上も止めなかったではありませんか」

 間髪入れずに言い返す。

 だが、兄は平然と答えた。

「いるかいないか分からないもののために、あそこで右往左往するのは見苦しいと思われたのだ」

 ホレイントは断言する。

「確かにいた……あれは、話に聞く通りのサキュバスでした」 

 それは、女の夢魔である。

 夢の中に表れては、男を誘惑し、堕落させるという。

 その邪念を祓ったとき、宿主を失ったサキュバスは実体を現したのだった。

 兄王は、弟を問いただす。

「ならば私に害を為すものであろう。何故逃がしたのか」

「あのときは、分別のない子どもでした。無抵抗のものが殺されかかっているのを、見過ごすことはできなかったのです」

 そこまで言われると、兄王も黙り込んだ。

 言葉もないらしい。

 だが、妃は違っていた。

「なかなか堂々としていますね。では、これで許してあげましょう」

 意味ありげに笑って、兄の耳元で再び何か囁く。

 兄王のほうも苦笑いして、ホレイントにこう告げた。

「宮女たちの下着に、数字が隠してある。それを当てて見よ。まる1日やろう。明後日の朝に間に合わねば……殺す」

 冗談ではなかった。

 小馬鹿にするのもたいがいにしろ、と思った。 

 だが、今はそれを口にするだけの力は、宮殿の中にも、心の内にもない。

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