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北の国のプロローグ

 ヘカテ王国が政治経済、国民生活に至るあらゆる場面から魔術というものの追放を始めて、これで2代目になる。

 もともとこの国の民は迷信深い。

 かつては庶民から王侯貴族に至るまで、魔女や悪魔憑きといった者たちの占いやまじないに頼っていたものであった。

 それを先の王グレインデュールが一大改革を行って、人が自ら考え、その手で富を築き、その言葉で人に働きかける国造りをめざしたのだった。

 その没後に即位したのはエインファルデュールといって、よく言えば人の話によく耳を傾ける、悪く言えば単純で人の口車に乗りやすい王である。

 弟が1人あって、ホレイントという。気性の真っすぐな、その分、融通の利かない少年だった。

 唸る木枯らしに晒された宮殿の、玉座の前にひざまずいて直言する。

「兄上は、変わってしまいました」

 黒い髪を短く刈り、軽装の腰に、王家の紋章を柄に刻んだ剣を吊った姿は、いかにも活発そうである。

 辺りには、槍を持った衛兵の1人も控えてはいない。

 目の前の兄王に斬りつけようと思えばできるところで帯剣が許されているというのは、この少年の身分によるものだけではない。

 この兄弟の間には、それだけの信頼があった。

 少なくとも、弟はそう思っている。

 だが、ひじ掛けにもたれたその兄、国王エインファルデュールは、弟の非難を気だるげに聞き流した。

「別に変わらん。多く子を儲けるのは、王たる者の務めではないか」

 長く伸びた黒髪が、その白いガウンの上に散る。

 血を分けた兄弟が人払いしてまで言い放った言葉を、全く気にした様子もない。

 だが、弟も負けてはいなかった。

「父上は宮女を駆り集めてまで、そのようなことはなさいませんでした」

 それは前の治世が、今の手本になっていることを示している。

 ここを突けば、言い分も通るのではないかと弟も考えたのだった。

 だが、先王の名前を持ち出されても、兄は怯むことなく答えた。

「即位してすぐ迎えた妃は22年前、私をすぐ生んだ。その6年後にもお前が生まれた。世継ぎに何の心配もなかっただけの話だ」

 言い淀みのない、自信たっぷりの返事であった。

 それだけに、怒りがこみ上げる。

 この国では、男も女も16歳で成人と見なされる。

 もう、対等の立場で他の大人と渡り合っても不遜ではない。

 兄をキッと見上げて、弟は言い返した。

「妃を迎える前の兄上は、もっと女性に控えめな方でした」

 なるべく言うまいとしていたことを、はっきりと口にする。

 だが、それも鼻で笑い飛ばされた。

「だからこそお前は、今の妃を連れてきたのではないか? それも、宮廷の反対を押し切って、市井の娘を」

 妃を迎えようとするどころか、女性を近づけようともしない兄を、真剣に心配してのことである。

 国王の弟としての権威にものを言わせて、庶民の娘を敢えて押したのは自分の目に自信を持ってのことだった。

 その責任に、ホレイントは唇を噛みしめる。

「今は、それを悔いております。だから……」

「宮女のひとりを逃がしたのか?」

 兄王は眉を寄せた。弟はそれを見据える。

「本当は、全員を逃がしたかったと思っております」

「弟でなければ命がないところだ」

 国王は玉座を立ったが、その場を離れることはなかった。

 弟が選んできた妃が、金色の長い髪を揺らしてその傍らに立ったからである。

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