第6話(クズ城の後始末)
俺と勇者一行を乗せた馬車は、前と同じく魔王城に向かってノンビリとパカパカする。馬車の中は相変わらず居心地が悪く、隙あらば俺に話し掛けようとしてくるエセ金髪イケメンと、疲れもせず延々と睨みつけている関東平野を身に宿した女。わかってるんだかわかってないんだかよくわからないが終始ニコニコしているスイカを身に宿した女。こんなわけのわからない面子と一緒の馬車に乗って楽しいわけがない。まぁスイカ女は害がなさそうだから置いておいてもいいが。
苦痛に思いながらも、俺は魔王城周辺の放射能除去のやり方に頭を悩ませていた。目に見えないものでもイメージ次第で贈答出来たのは、先の水素融合で確認できた。同じ方法で放射能もいけると思うのだが、試しにという事で、同じ電磁波である光をコントロールする。俺の手の上にある光の電磁波を全て金髪イケメンの目の前に贈答する。
カッッッッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
とてつもない光が金髪イケメンの前で暴発し、金髪イケメンは目を手で押さえながらのた打ち回る。またチラチラと俺と金髪イケメンを見ていた関東平野女も同じように目を押さえて転げまわっている。逆にスイカ女はというと、先程と同じ表情で涼しい顔でピクリともしない。あぁ、これはこの状態で寝てるのか。大変に器用な事だ。
イケメンの顔の前に追従するように光の電磁波を贈答し続けているので転げまわっても逃げる事もできずに延々と目を焼かれ続けている。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!た、たすけてくれー!!」
絶叫が馬車の中に響き渡る。俺はそんな言葉を無視して実験を続ける。光の電磁波を贈答し続けている間は、俺の手の上の光の電磁波は失われ続けているので、全く何も見えない真っ黒の球が出来ている。可視光線が全て存在しないため、目がそれを認識できないようだ。
なるほど、コレを放射能の電磁波に応用すれば、根こそぎ消す事ができそうだ。消す先は放射能が飛び交っている空の上、宇宙空間でいいだろう。一応見えているし。
俺は満足行く実験結果が得られたので、光の電磁波を贈答するのを止めた。既に金髪イケメンの網膜は限界値を越えていたらしく、身体をビクビクさせながら口から泡を噴いて悶絶していた。
たかだが太陽よりも多少明るいくらいの光を直視させていたくらいで情けない。と俺は汚いものを見るような目で見下ろしながら昼寝モードに入って時間を潰すのだった。
既に日は陰り、空には青と赤の月が輝き出した頃、馬車は二つ目の山の頂上に差し掛かる。先程から鳥の声や獣のざわめきなどが消えていたので、恐らくこの先から死地だと判断した俺は、馬車を止めるように言うと、馬車から降りる。
周りを見渡すと、薄明りの中、鳥や獣の死骸がそこらじゅうに転がっているのが見受けられる。焦げているのもいるから、単純に放射能だけで死んだというわけではなさそうだ。
俺は御者に山の麓まで引き返すように言うと、勇者が何かついてこようと馬車を降りようとするので、先程の光の電磁波を贈答する。
「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
いくら薄ぼんやりしていても、周りが確認できる程度の明るさはあるので、それを集約した光で面白いように馬車の中で転げまわる勇者。腹を抱えて笑う俺。御者はあんまりにもぞんざいな勇者の扱いが気の毒になったらしく、さっさと馬車を発射させる。
俺はいつものように右手でスマフォの電源を入れ、ポケットに左手を入れて歩き出す。
「あー、もう電池がなくなりそうだ。コレが切れた時、俺はどんなポーズで歩けばいいのかわからん」
長年、物心ついてからこのポーズで歩いてきたので、スマフォを片手で操作しながら歩く以外の歩法が想像つかない。
俺は放射能の電磁波が身体に触れた瞬間に宇宙空間の太陽の近くに贈答するようにしながら歩く。
「ん?もしかして俺、今、超絶カッコいい?」
周りは全ての生物が死滅している死の世界。そこを颯爽とスマフォを片手に歩く俺。何かカッコよくね?
「しかも生産活動に寄与してるしな。素晴らしい俺」
木々は全て黒焦げになっていて、木炭としてすぐに使えそうだ。オドロオドロしかった森も全て綺麗サッパリ死の森になっており、開墾が簡単にできそうだ。石も一瞬で膨大な熱量を受けて気化しているのもあれば、ガラス化した石もある。うむ。ガラスの工芸が発達しそうだ。
俺はいい事をしたという爽快な気分のままズカズカと魔王城のほうに歩いていく。途中で俺を遮るものは何もない。まぁ全て死滅しているから当たり前だが。
そして魔王城の門の前まで辿り着き、何の障害もなく魔王城に入城する。まだプスプスと焦げている城の中を適当に歩いていく。というか魔王のいる場所がわからん。案内板くらい用意してもらいたいものだとプリプリしながら適当に歩いていると、何かソレっぽい扉に辿り着く。
俺はその扉を蹴り開ける。なぜならば、右手はスマフォ、左手はポケットの中にあるからだ。うむ、蹴り開けるしか手段がない。仕方ない。
俺のひ弱な蹴りでも、水素融合の熱に晒された扉は形を維持する限界地を超えボロボロと崩れ去る。そのまま部屋に入ろうとすると、あたり一面空けた場所になっていた。水素融合の爆心地になっていたらしく、ありとあらゆるものが吹き飛び、溶け、焦げ、消滅したみたいで、つい感想が口を突く。
「ずいぶんと綺麗サッパリなくなったもんだ。ま、脅威となるものは全て焼け焦げたみたいだから。さっさと後始末して、獣人娘専門出会い系サロンへ行くとするか」
俺はそのまま飛び降りるといつものように風を扱って魔王城の門まで飛翔し綺麗に着地する。そして城壁に手を付けると、魔王城を天に浮かぶ赤い月へ贈答する。
地面すら抉りながら巨大な球として空間ごと魔王城は赤い月に贈答される。
あ、ついでに後ろの山ごとまで削っちまったぜ。まぁいいか。どうせ生き物ももういねぇし。
「炉心である魔王城がなくなれば、あたりの放射能もすぐに消えるだろうな」
俺は誰に聞かれるわけでもなく独り言をこぼすと、スマフォを片手に金髪イケメン勇者の待つ場所に戻ろうとするが、やけに空が明るいのに気が付く。
空を見上げると、青い月の一部が異様な光を発している。アレはいつかアニメで見た隕石が大気圏に突入する時の光に似ているなと呑気にその光景に見入る。
しかし俺が贈答したと同時に隕石が衝突するとは本当に奇跡的な確率だな、おい。
しかもあの青い月には大気があるようだ。すると衛星とはいえこの世界同様の環境なのかもしれない。そうすると生物もいるかもしれない訳で、となると隕石の落下ってただ事ではないような気がするな。
まったくあの星に住む生き物にはとんだ災難だな。
そんなことを考えた俺はとあるキーワードを思いついた。青い月・大気圏・巨大岩塊・贈答
「……俺かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺がそう叫ぶと同時に、俺が贈答した魔王城が青い月の地上に激突し強烈な火柱・土柱を上げる。
チュドドドドドドーーーーーーーーンッッッッ!!!
という効果音が聞こえそうなくらいの爆発と爆発光だ。
「星砕き!!!」
その光景に見入った俺は思わず必殺技名を叫んでしまう。
「核の冬が来るぞ!」
と、続けてどこかで聞いたアニメの台詞を吐いて現実逃避する俺。
青い月に生物がいたら、おそらく放射能汚染どころではない騒ぎになっていると思うが、やってしまったものはしょうがない。被害があんまりありませんようにと月に向かってお祈りしながら、俺は金髪イケメンの待っている馬車に向かうのだった。
帰ったら獣人娘専門出会い系サロンが待ってるぜ!