第5話(クズ勇者と新たな旅立ち)
取り敢えず戻る場所が冒険者ギルドしかないので、相変わらずの消えない人混みの中を縫いながら冒険者ギルドに戻る。魔王城の方を見るとキノコ雲は無産して消え去ったようだが、その代わり真っ黒な分厚い雲に覆われている。アレがこっちに流れてくると面倒だ。
冒険者ギルドの扉をくぐると受付の女性がギルドマスターの部屋に行くように促してくる。おかしい、ここにきてから数日しか経っていないのに既に顔パスになっている。俺は首をかしげながらギルドマスターの部屋に行く。
きっとあの獣人のウェイトレスを嫁として紹介してくれる話だろう。異世界転移・転生するとハーレムを築けるともっぱらの噂だからな。俺は未成年なので、まだ清く正しくあり続けるつもりだが、向こうから来るなら仕方ない場合もあるに違いない。
「嫁の件か?」
ギルドマスターの部屋に入りながら、確定事項の確認を口にする。なぜか片目マッチョは、顔の表情を固まらせてこちらを見ている。人が来てやったのに挨拶もよこさないとは失礼な奴だと自分の事を棚に上げて、そのままソファーに身体を沈める。
「すでに分かっているとは思うが、ここの獣人巨乳モフモフのお姉さんの器量は抜群だ。ばっちり俺の好みだから心配しなくていいぞ」
「……お前は何の話をしているのだ?」
片目マッチョが強張った顔のまま俺に聞いてくる。声音から判断すると嫁の話ではなかったらしい。俺は興味を失うとソファーから立ち上がり部屋を出ようとする。
「嫁の話ではないなら俺に用はないと思うんで、じゃっ!」
「ちょ!おま!待てて待て待て待てぇぇぇぇぇぃ!!」
シュタッと手を挙げて部屋から出ようとすると、俺を呼び止める。しかしその程度で止まる俺ではない。勝手な期待を残酷な形で裏切られたので問答無用と部屋を出ていく。
俺は癒しを求めて再びギルドの食堂の奥に陣取り、給仕しているお姉さんを見て心を癒そうとして、奥のテーブルに座ると、走ってやってきた片目マッチョが俺の目の前に座る。
「お前な。少しは人の話を聞くとかできないのか?」
「お前は、少しは俺の嫁の話を聞くとかできないのか?」
つまらない事を聞いてくるので、同じように返してやった。片目マッチョが眉間に皺を寄せながら、額を押さえて溜息をつく。
「依頼が終わったら、この町で一番の獣人娘専門の出会い系サロンに連れて行ってやるから人の話を聞け」
「よし。アンタの依頼全て請け負った。俺に任せろ」
俺はスクッと席を立ち、猛然な勢いで冒険者ギルドから走り出していく。待ってろよ依頼!待ってろよモフモフ!待っていろよ俺の桃源郷!!
「お。おい!ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ………………」
かなり走ったところで気が付いた。依頼ってなんだっけ?
俺はすごすごと冒険者ギルドに戻ると、何事もなかったかのように奥の席に戻ると、キリッとした顔で片目マッチョに話しかける。
「依頼内容を聞こうか」
「はぁ……お前とやってると凄い疲れるんだが……。依頼内容はこの間と似たような感じで、魔王城の状況確認と周囲の安全の確認だ。とんでもない魔物がいたらできれば倒してほしい。三つ首狼も容易に倒せるからある程度は大丈夫だろう。それでもヤバいやつがいたら逃げてきて構わんから、報告が欲しい」
何のことはないただの物見旅行のようだ。前回はいけ好かない金髪イケメンと一緒だったから楽しめなかったが、今度は独りだから気楽なもんだ。
「それと、こんなものが俺のテーブルに突き刺さっていたんだが、お前知らないよな?」
片目マッチョは、つい先程、俺を襲ってきた関東平野女が使っていた短剣を取り出すと聞いてくる。うむ、俺の体に触れた瞬間、ギルドマスターの部屋に贈答で送り込んだんだった。
「良く知らんが、勇者の連れのツルペタピッタンの猫耳女がそんなのを使っていた気がする。多分暗殺しようとしているんだと思う」
俺を襲って来たんだからこれくらいの不名誉を被るのは自業自得だろう。俺はキチンと正しく嘘の情報を流す。
「まぁ今日はもう遅いから、出発は明日の朝にしてくれ」
「じゃぁ早速行こうか」
片目マッチョが依頼は終わりと言わんばかりに話を切り上げるので、俺も立ち上がり出かける心構えをする。
「あん?どこにだ?」
「獣人娘専門の出会い系サロン」
「依頼が終わったらと言っただろう」
片目マッチョが訝し気な顔をする。こいつもう忘れたのか?酒樽に沈めるぞ!と思いながらも優しい俺は答えてやるが、どうやらまだダメらしい。
「お前が行った後、器量の良い娘を集めておくから、心おきなく行ってこい」
なんだこの片目マッチョすげぇいいやつじゃないか。俺、スゲェワクワクしてきたぞ!!
ワクワク妄想しながら楽しい一晩を過ごして、馬車に乗り込もうとすると、相変わらずの展開が待っていた。
「またお前らかよ」
「やぁ、やはり旅には勇者が欠かせないよね!」
歯をキラリと輝かせながら、呼びもしていない金髪イケメンが馬車に陣取っている。その横で噛みつきそうな顔をしている猫耳関東平野女と涼しい朗らかな笑みをしているスイカ女。
こいつら本当は俺の事大好きで仕方ないんじゃないか?関東平野女は末席の末席だが、スイカ女は10本の指に入れても良い器量だからな。
「とりあえず降りろ。そのドヤ顔見るとなんか腹立って月に替わってお仕置きしたくなる」
俺が優しくこの旅は危険でキミ達に迷惑を掛けたくないから待っていてくれと伝えているのに、何故か剣呑な顔で対応される。こいつらには俺の言葉が通じないのだろうが?
前回と同じく何を言っても言う事を聞かないので、仕方なく同行させることにする。まぁ最悪ドラゴンのウンコの餌にでもすればいいか。
こうして俺の二度目の旅は始まった。この先にどんなに安易な危険が待ち受けているとも知らずに。
待ってろ俺の獣人娘専門出会い系サロン!!