第4話(クズ能力での新たな戦いの序章)
「おい!何をした?!」
血相を変えた片目マッチョが俺の肩を掴んで揺すってくる。俺の鍛えていない身体がマッチョのパワーに抗えるわけもなくグワングワンと揺すられる。俺は頭をすこぶる揺らされて気持ち悪くなってしまう。
「ちょ、おま!待て!吐く吐く!全部出ちゃう!!」
俺は、問答無用に力任せに揺すってくる片目マッチョの攻撃に耐えられなくなり、路地裏に駆け込むと、胃の中のものを全て吐き出した。
「いやぁ、悪い悪い!俺も興奮しちまってよ!」
げっそりした顔で戻ると、片目マッチョは超爽やかなうっとおしい笑顔を浮かべてくる。畜生、コイツに向かって吐瀉すればよかったぜ。俺はジジイを拾って一晩世話してやるくらいの一般常識に長けた男だから、つい路地裏で済ませてしまった。
「で、何なんだアレは?」
「俺の能力だ」
片目マッチョの聞きたい事に全く答えてない答えを返して、俺はこの気持ち悪さを少しでも癒すために冒険者ギルドの獣人お姉さんを眼福しようと、冒険者ギルドに戻ろうとする。
「だから待てと言っているだろうがっ!」
「戦略級超大魔術:核爆撃だ」
また片目マッチョに肩を掴まれる。これ以上口の中が酸っぱくなるのも嫌なので、俺は適当な嘘を教えてギルド内部に戻ると、ギルド内部にはモフモフでナイスバディのお姉さんが心配そうな顔をして窓から外を見ている。その憂いのある表情もたまらない。ピクピクしている耳とか、不安げにゆらゆら揺れる尻尾とか。
「あ、依頼達成したからまた金もらえるはずだよな」
俺は水を飲みながら獣人のお姉さんで眼福して、気持ち悪さを落ち着け一息つくと、報酬をもらいに王宮に向かう。当然のごとく町はごった返しており、みんな未だに収まらないキノコ雲を眺めている。道端の婆さんなどは手をこすり合わせながら神様にお祈りしている。
そんな中、調本に俺は涼しい顔をしながら王宮に向かいたいのだが人混みで思ったように進めない。面倒くさいから道行く人を全部贈答で、いやがらせついでにギルド長の部屋に送ってやろうかと思ったが、俺は常識人だから途中で思いとどまって、人混みを縫うように移動する。
王宮も当然だが町の人が詰めかけていて衛兵が必死の形相で対応している。このままでは門までたどり着けないと思った俺は、少し離れて人気がないあたりまで移動すると、王宮を取り囲む塀の上に草原で使った飛翔術を使って飛び乗る。塀の厚さはそれなりにあったので、人ひとりが歩くのは十分にあるようだ。俺はそのままポケットに手を突っ込んだまま門のほうに歩いていく。
「おーい。王様に合わせてくれ」
俺は門の所へ手伝いに来ていた見覚えのある若い騎士のアンチャンに声を掛ける。アンチャンはキョロキョロと周りを確認して頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、再度声を掛けると俺に気付いて手を挙げる。
「そこ危ないから降りたほうがいいですよ」
相変わらず、この若い騎士のアンチャンはできたやつだ。普通は咎めるところから入ると思うんだが、先に気遣いの言葉をかけてくる。俺は頷くと塀から王宮の中庭に落下速度を調整しながら飛び降りる。
「あの一件を王様とやらに報告した方がいいんじゃないかと思って来たんだけどさ。人混みがすごくてね」
「確かに凄い人ですよね。無理もないです。あんな雲見たことありませんから、不安に思うのも仕方ない」
俺はキノコ雲を親指で指さしながら、ここに来た要件をアンチャンに告げる。アンチャンは俺の話を切り返しながら王様に合わせるべく王宮に向かうように一歩先に踏み出し、付いてくるように促してくる。俺は手を頭の後ろに組みながらアンチャンについていく。
王宮に入り謁見の間に向かって歩いていると見覚えのある青い鎧が目に入る。面倒くさい話になりそうな予感がするので、回り道がないかアンチャンに確認しようとすると、青い鎧に気付かれてしまった。
「やぁ、奇遇だね。キミもあのキノコの様な形をした雲の調査に志願しに来たのかい?」
爽やかな笑顔を浮かべながら金髪イケメンの青い鎧の勇者が声を掛けてくる。相変わらず隣にはタイプの違う美女と美少女を侍らしている。その時点でリア充死ねという俺の攻撃ターゲットなのだが、コイツの頭はそういう事が理解できないらしい。
「死ね」
関東平野女は甚く俺の事が嫌いらしく、学の無い直接的な嫌がらせの言葉を浴びせてくる。俺はその言葉を鼻で笑うと、関東平野部をもう一度見て、更に鼻で笑う。それだけで関東平野女は顔を真っ赤にして怒りに我を忘れる。怒らせるだけなら言葉なんかいらないんだよ。と思いながら、今度はスイカ女の方を見ると、こちらは朗らかな笑みを浮かべている。こういうタイプが一番やりにくいんだよなぁ。
「今はあそこには近づかない方がいい。魔王の呪いが充満しているから1年以内に病気になって死ぬぞ。」
超優しい俺は頭をポリポリ掻きながら、金髪イケメンに警告する。まぁ言っている内容は全部嘘だが。心配してやっているにもかかわらず、金髪イケメンはドヤ顔をして俺の意見を無視した発言をしてくる。
「心配してくれてありがとう。でも僕にはこの神から与えられた神具で護られているから、魔王の呪いなんかには掛からないよ」
うん。いいよお前死んで。その代わりその関東平野女とスイカ女は俺のとこに置いとけ。本気で思って口から出そうになったが、常識人の俺はぐっと言葉を飲み込み、ちゃんとわかるように教えてあげるのだった。
「その蛆が湧いたようなおめでたい頭でもわかるように言ってやる。あの場所で発生している現象は神の力なぞクソの餌ほどにも役に立たない。俺が解決するまでバカなことは考えずに家で大人しくクソして風呂入って寝とけ」
非常に心遣いにあふれた言葉に感動して涙を流しながら了承すると思ったのだが、関東平野女が睨むだけで人を殺せそうな目で俺を睨みながら背中の二刀に手をかける。金髪イケメンは笑顔が張り付いたまま凍り付いたように固まっていて、スイカ女は相変わらずニコニコしている。けど何か魔法の杖の水晶部を俺に向けて、口の中でゴニョゴニョ言っているんですが!!
キンッ!!ズシャァァァッッッ!!!
キュンッ!ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!
目にも止まらない二刀の斬撃と、槍のように先のとがった数百の氷の礫が俺に襲い掛かる!!
王宮で戦闘行為とは、こいつら常識がなさすぎるだろ!!俺は何でそんなことになっているかが全く心当たりがないのだが、とんでもない威力の暴威に晒される。普通なら短剣で切りつけられて、氷の礫に貫かれて死んでしまうところだろう。
「あれ?ボクの武器がない?!」
関東平野女、お前ボクっ娘だったのかよ!!よし全てを許そう!!俺は心の中でガッツポーズをする。また俺を襲った氷の礫は俺の体に沿うようにすべて消失している。俺は追撃受けるのが嫌なので、いつの間にか安全圏内に退避した若い騎士のアンチャンとコソコソ合流すると、茫然自失している3人を置いたまま謁見の場に急ぐのだった。
少し待たされた後、すんなりと謁見の間に案内され、先日と同じように椅子にはまった王様から言葉をもらう。
「魔王の討伐ご苦労じゃった。あの状態ならおそらく魔王は倒せたのじゃろうが、現地を確認しないと何とも言えんのじゃ。すまんがもう一度行って確認してくれんかの?」
「わかった。ついでに世界も救っておく」
「話が早くて助かるのじゃ。そなたの様な『異界渡り』がいてくれて助かっておる。神に感謝じゃの」
「俺が行くまで、あそこは非常に危険だから誰も入れないようにしてもらえるか?」
感謝するなら隣の王妃様のナイスバディに感謝するべきだと思いながら、快く依頼を了承し、警告もしておく。報酬の話はしていないが、まぁいいようにしてもらえるだろう。
俺はこうして再度世界を救うための戦いに赴くのだった。