Episode 78:始まりの夏
皆さんおはこんにちばんわ
第78話になります
それでは続きをお楽しみください
ロヴェは大きな石の前で膝をついていた。後ろから誰かが近づいてくる。ロヴェは何も言葉を発しない。誰かがため息をついて近づく。
「私は、どうしてしまったのでしょうか? こんな気持ちは、初めてです」
ロヴェは石の前でその誰かに聞こえるように言った。ロヴェの膝元にはしみができていた。ロヴェが振り返った。その顔を見て誰かが吃驚した。そして笑い出す。
「お前さんはもうロボットじゃないってことさ。なれたんだよ。本物の化物にな」
アストロだった。ロヴェは首をかしげた。ロヴェは涙を流していた。次から次へと涙を流している。よく解らない感情がロヴェの中で渦巻いていた。
「ま、追々解るだろ。それより、あの子に一言言ってやらなくて良かったのか?」
ロヴェが首をかしげる。
「それは、プログラムされていませんので……」
「そうかい」
アストロがため息をついた。どこかへ行こうとする。
「言うならば」
ロヴェが大きな声で言った。アストロが歩みを止めて振り返る。ロヴェが続ける。
「また逢いましょう。ですかね……」
「それは……。いや、お前さんがそう思ったのなら正しいんじゃないか。解らんけどな」
アストロが笑いながらそう言うとまた歩みはじめどこかへ行ってしまった。
「ネビィ博士……。私は、どうしたら良いのでしょうか?」
ロヴェは石に向かって俯きながら呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一つの墓石の前で一人の人間の女性が一足の小さな靴を持って寂しそうに立っていた。墓石の前には一輪の赤い花とプリンカップが置かれている。
「まただわ。いったい誰の悪戯なのかしら」
女性は墓石の前に置かれたカップを手に取った。カップの中にはレタスやトマトなどが小さく切られて無造作に詰められている。女性がカップを捨てようとした。カップの側面に何かが書いてあることに気付く。それを見て女性はハッとする。そして涙を浮かべた。
「あなた……。あの子ったらね。野菜を全然食べないのよ。食べなさいと言ってもいつもいつもあまり好きじゃないからって言ってね。でも、ようやく解ったわ。あの子、あなたにお供えするために食べなかったのね……。私のせいだわ。あの子たちはきっと……」
この女性は男の子のお母さんである。男の子にはお父さんがいなかった。いや、いなくなってしまったという方が適切かもしれない。男の子のお父さんは元々病弱だった。米も肉も魚も食べられなかった。そういう病気だった。医者に診てもらっても原因不明の不治の病だった。
そんなお父さんが唯一食べられたのが細かく刻んだサラダだった。お父さんは元々病弱だったが、男の子が生まれたその日に息を引き取った。だから男の子はお父さんのことを写真の中でしか見たことがない。お話の中でしかお父さんのことを聞いたことがない。
だが、男の子にとってその人はお父さんだった。故に男の子はお父さんのために残したサラダで細かく刻んだサラダを作り、こっそりお墓へお供えしていたのだ。
お母さんはカップを眺めた。そこには拙い字で「おとうさんへ」と書かれていた。間違いなくそれは男の子の、自分の息子の字である。ふと後ろから声がする。
お母さんが振り向くとそこにはあちこち泥だらけでみすぼらしい姿になり、白いマフラーを巻いた男性と同じく泥だらけでみすぼらしい姿に赤いマフラーを巻いた子供が手を繋いで立っていた。お母さんは二人に駆け寄り、そして二人をギュッと抱きしめた。
「もう、二人ともどこに行ってたのよ! 泥だらけじゃないの!」
「お母さん。ぼくね、化物の世界を救ったんだよ! 正義の味方だって言われたの!」
心配するお母さんをよそに男の子が興奮して話す。お母さんは安堵のため息をついた。
「そう。よく頑張ったわね? あら、そのマフラーはどうしたの?」
男の子は首元に手を当てて赤いマフラーに触った。何かを思い出そうとする。
「えっと……。誰だっけ……? 誰かに貰ったの。化物の誰かさん?」
男の子は首をかしげた。男の子の記憶が段々と薄くなっていた。化物の世界に行ったことは辛うじて憶えていたが、そこであったことや逢った化物については忘れていた。必至に思い出そうとしているが全然思い出すことなどできなかった。お兄ちゃんが口を開く。
「ごめん、母さん。俺、父さんの遺志を代わりに継ぐことができなかった……。母さんの息子を。マコトを危険な目に合わせた……。ごめん」
お兄ちゃんは俯いた。お母さんはお兄ちゃんの頭を撫でる。
「いいのよアラタ。それに、あなただって私の息子よ。分家なんかじゃないの。だからあなたたちは血の繋がった兄弟よ」
お兄ちゃん――アラタは吃驚した。
「な、何で……。俺の父さんは……。待って。あれ、どういうこと?」
お母さんがアラタを抱きしめる。
「二人とも大切だったから。本家と分家で一人ずつ守りながら育てることで呪いを分散しようとしたのよ。でも、それはできなかった。旧王戦争で生き残った私たちの先祖・弥衛門にかけられた呪いは本家に残ったマコトに強く受け継がれたのよ。だからあなたを呼び戻したの。最低な母親ね」
お母さんは肩を落とした。アラタは首を横に振る。
「……いや、母さんは母さんだ。真実が知れてよかった。それに、マコトが全部解決したみたいだから」
アラタが微笑んでマコトの方を向く。マコトはまだ思い出そうとしていた。アラタの視線に気付いたマコトはニッコリと微笑んだ。アラタはマコトに近づいて抱きかかえた。お母さんはそれを見て微笑む。三人は墓石に、お父さんにお祈りをして、お墓を後にする。
広い夕焼けの空。その空の下で三人が仲良く手を繋いで歩いていく。後に残ったお墓の前に咲いている赤い花が微笑んでいるような気がした。あたりに響く蝉の音。油蝉が鳴いている。長い夏はまだ始まったばかりだ。
D.C. Under World第一章 了
読了お疲れ様でした
いかがでしたでしょうか
村の男の子『マコト』は無事にお兄ちゃん『アラタ』と人間界へ戻ることができました。
しかし、地下世界であった出来事は記憶の中から徐々に消えてしまいます。
マコトの長い夏はまだ始まったばかりです。
いやぁ、無事に(?)第一章書き終えることができました!!
今後の予定としてはちゃんとした<あとがき>をちょこちょこっとアップして、次のお話の執筆に勤しみたいと思います。
また、ŪNDER WΦRLDはここで一旦中断して次回作は別の作品をアップしていく予定です。
今のところ初回アップ日時は未定ですが、分かり次第Twitterおよび活動報告の方でお知らせしていきますのでお待ちいただけると幸いです。
ここまで読んで下さりありがとうございました!!
また次回、お会いしましょう!!